Prism★Stars〜女装アイドルは美容男子と恋に落ちる〜

それから数週間後。
ドラマは無事にクランクアップの日を迎えた。

最後のカットが終わると、現場には大きな拍手が響く。

「お疲れ様でした!」

花束を受け取った俺は、監督に促されて一言挨拶をした。

「初めてのドラマで不安もありましたが、出演者の皆さん、スタッフの皆さんのおかげで最後まで楽しく演じることができました。本当にありがとうございました」

温かな拍手が沸き起こる。
続いて挨拶をしたのは康太役の奏さんだった。

泊まりの一件以来、二人きりで会うことはなくなったが、現場では以前と変わらず優しく接してくれた。

「この作品は、僕にとって忘れられない一本になりました」

そう話した奏さんは、ふと俺を見る。

「それから優希役のルナさん。同世代として本当に刺激をもらいました。プライベートでもたくさん話してくれて、ありがとう。これからもよろしくお願いします」

突然名前を呼ばれ、思わず頭を下げる。

「ルナちゃん泣かないで!」

周囲の笑いに包まれながら、俺も照れ笑いを浮かべた。

こうしてドラマ『定時間内にはヤメテ!〜神父は私に恋をした〜』は、無事すべての撮影を終えた。

******

「────ルナ!」

出演者全員での打ち上げを終え、一人で駅へ向かって歩いていた、その時だった。
聞き慣れた声に振り返ると、奏さんがこちらへ駆け寄ってくる。

「……奏さん」

思わず、その顔をじっと見つめる。
声をかけてほしかったような。
でも、このまま会わなければ寂しさを感じずに済んだような。
そんな複雑な思いが胸の中で渦を巻いていた。

奏さんは少し照れくさそうに笑う。

「あの日から、なんとなく避けられてるなって思っててさ。
最後に一言くらい話したくて。
もうドラマっていう接点もなくなっちゃうし」
「…………っ」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
そうだ。
同じ事務所とはいえ、所属するグループは違う。
この撮影が終われば、今までみたいに顔を合わせる機会も、きっと少なくなる。

そんな俺の表情を見た奏さんは、いつもの明るい笑顔を浮かべた。

「でもさ、俺がルナのこと好きなのは……たぶん、これからも変わらない気がする」

俺は思わず息を呑んだ。
そんな俺に構わず奏さんは続ける。

「だから、これからもたまにはご飯でも行こうよ。あ…二人が気まずいなら、他のメンバーも誘えばいいし。Prism★Starsのみんなでもいいしさ、無理に二人きりじゃなくていいから」

ご飯、という言葉に少し表情を曇らせた俺を見て、奏さんは慌てて付け加える。
その言葉にふと思い出して、俺は口を開いた。

「……そうだ。ミウが、HYPER-MENのリーダーさんのこと好きって言ってました」
「あぁタカト?人気あるもんなぁ、アイツ。よし、じゃあご飯会開こう」
「えっ、本当にいいんですか? 本人に許可とか……」
「大丈夫大丈夫。嫌だって言われても連れてくるし」

悪戯っぽく笑う奏さんに、俺もつられて笑ってしまった。
そして奏さんは、少しだけ真剣な表情になって俺を見つめる。

「俺、これからもしつこくアプローチするから」

その言葉に、鼓動が跳ねた。

「仕事でも、また一緒になれるよう頑張る。だからこれからも仲良くしてほしい。今は先輩後輩って関係でもいいからさ」

そう言って、すっと右手を差し出す。

「よろしく」
「……はい」

少しだけ躊躇いながら、その手を握る。
次の瞬間。

「っ、わ……!」

ぐい、と腕を引かれ、気づけば逞しい腕の中へ抱き寄せられていた。
突然のことに息が止まる。
奏さんは俺を抱きしめたまま、小さく笑った。

「今は、これくらいで」

そして、ゆっくり身体を離すと、真っ直ぐ俺を見つめた。

「……俺が本気だってこと、これからもちゃんと伝えていくから」

その真剣な眼差しに、思わず息を呑む。
けれど次の瞬間には、いつもの爽やかな笑顔に戻っていた。

「じゃあ、またね。ルナ!」
「……はい!」

俺も笑って手を振り返す。
少しずつ遠ざかっていく奏さんの背中を見送りながら、胸に小さな寂しさと、ほんの少しの温かさが残った。

こうして、波乱に満ちたドラマ撮影は、本当の意味で幕を下ろしたのだった。