静かなピアノの旋律が会場に響き渡った。
暗闇に無数のペンライトが星空のように揺れる中、一筋スポットライトが落ちる。
徐々に明るくなるステージバックにはトライアングルカットの装飾が、ピンク、薄紫、水色へと色を変えながら幻想的な光を放っている。
その正面に立つのは、赤、青、黄色のフリルやリボンに飾られた、華やかな衣装に身を包んだ三人のアイドル。
〝彼女たち〟は小さく微笑むと、息を合わせて歌い始めた。
♪Shining stars 目の前のその一つを手に取って
ほらすぐそこ 見えるでしょう?♪
次の瞬間、ビートが一気に加速する。
三人のフォーメーションが軽やかに動き出した。
ステップを刻み、腕を伸ばし、リズムに乗って踊る。
くるん、とターンしたミウの赤いスカートがふわりと舞った。
♪あの日から幾つ時を重ねたんだろう
ねえ 君は覚えてる?
胸に隠した痛み 苦しみ♪
歌い出しはセンターのミウ。
激しく揺れる茶髪のサイドポニー。
ハスキーな声がメロディーをリードする。
♪ 泣きそうな夜だって 心蝕む闇だって
そのどれももう遠いよ
だって貴方がいるから♪
語りかけるように被せるのは青い衣装のレイ。
黒髪のボブヘアーがよく似合っている。
〝彼女〟の歌声は、慈雨のように優しい。
そして、サビ前。
俺────いや、〝僕〟の出番だ。
グループではルナ。
メンバーカラーは黄色で、黒髪のロングヘアがトレードマークだ。
♪加速するこの気持ち
止まらない止めたくない
どうかお願い♪
音程を外さないように。
カメラから目を逸らさないように。
笑顔を忘れないように。
胸の鼓動を押し隠しながら、真正面のレンズへ歌を届ける。
♪ Shining Star 君と私だけの夢
何度でも叶えよう ほら 夜空に瞬く
一番星みたいに♪
三人そろってステージ前へ飛び出す。
歓声がさらに大きくなる。
カメラがぐるりと俺たちを囲むように旋回した。
コーラスだからといって気は抜けない。
いつ誰がアップで映るかわからないのだ。
息を合わせて踊り、笑い、歌う。
切なさと希望を乗せたポップチューンは、最後また静かなピアノの旋律へと帰っていく。
三人そろって俯き、高く掲げていた腕をゆっくり下ろす。
そして、最後の一音が消えた瞬間。
割れんばかりの拍手と歓声が会場を包み込んだ。
「Prism★Starsのみなさん、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
三人で深く一礼する。
笑顔を浮かべたまま顔を上げると、客席には色とりどりのペンライトが波のように揺れていた。
俺は今日も、問題なく〝ルナ〟をやれていただろうか。
そんなことを思いながら、俺は目の前の無数の光を見つめた。
******
〝Prism★Stars〟。通称、プリスタ。
彗星のごとく現れた、三人組の〝女装〟アイドルグループだ。
男の娘、女装男子、ジェンダーレス。
かつては日陰の存在だった彼らが、SNSの台頭とともに脚光を浴び始めたのはごく最近のことである。
そんな令和に〝Prism★Stars〟は突如としてTikTok、インスタグラムに現れた。
最初は一枚のアー写だった。
アイドル衣装を纏った、どう見ても〝可愛い女の子アイドル〟三人組を撮った一枚。
それだけなら、ただの可愛いアイドルのうちと一つとして埋もれていたかもしれない。
だが、この一枚に添えられたコピーが人々の度肝を抜いた。
『私たち、全員、男子高校生。』
『女の子より、かわいくてごめん♡』
投稿は一晩で百万回閲覧を突破。
コメント欄は、
「嘘だろ」
「加工じゃないの!?」
「右の子かわいすぎ」
「え、全員男?」
そんな驚きの声で埋め尽くされた。
〝女の子よりかわいい男子高校生アイドル。〟
その衝撃的なコンセプトは瞬く間に拡散され、正体をほとんど明かさないミステリアスな売り方も話題を呼んだ。
〝Prism★Stars〟のメンバーは三人。
メンバーカラー赤の、センターはミウ。
茶髪のロングを巻いたりサイドツインにしたり、SNSに上げる写真からも兎に角オシャレであることで知られている。
青担当のレイは、グループリーダー。
少し長めのボブヘアーに、吊り目のクールな容姿。
しっかりした性格、そして歌唱力に定評があり確固たる人気を博している。
そして黄色担当のルナ。
俺だ。
ルナこと、本名・朝倉ハヤテ。
ファンからは「Prism★Starsの姫」「清楚すぎる」なんて言われている。
けれど本当は、ルックスより十年以上続けてきたダンスの方を見てほしい。……そう思っていたら、事務所の公式プロフィールには
『特技:清楚な見た目からは想像もつかない激しいダンス』
なんて書かれていた。
まあ、それはそれでいいのかもしれない。
今では週末のライブに、YouTubeの撮影、TikTokやインスタグラムの更新。最近はテレビ出演も増え〝Prism★Stars〟は新進気鋭のアイドルグループとして名前を知られるようになっていた。
だが、その実態は。
******
収録を終え、スタッフへの挨拶を済ませて楽屋へ戻る。
マネージャーは番組スタッフと打ち合わせがあるらしく「先に着替えてて」と部屋を出て行った。
三人そろってウィッグを外し、衣装を脱いで私服へ着替える。
メイクを落とすと、鏡の中にはアイドルではなく、ごく普通の男子高校生が映っていた。
「あのさあ、ルナ」
ドライヤーで短い茶髪を乾かしながら、ミウが鏡越しにこちらを見た。
「あそこのサビ前。また走ってたよね?あれ、もう少しタメを作ってくれないと入りづらいんだけど」
「………」
また始まった。俺は心の中で小さくため息をつく。
「悪かった。でも、一拍遅れてたのはミウもだろ」
「は?」
ミウがぴたりと手を止める。
「フォーメーション入るとこ。半拍くらい遅れてた」
「あー、出ました。ルナの経験者マウント。全っ然遅れてないし。アンタがテンポ速いだけでしょ?」
途端に声を裏返しながら捲し立て、ミウは鼻で笑った。
それにイラつきながら俺は返す。
「だったら合わせろよ」
「だから速いって言ってんの」
「二人とも」
静かな一言で、楽屋の空気が止まる。
振り返ると、レイが苦笑いを浮かべていた。
ウィッグを外した短髪に、白いTシャツとジーンズ。
さっきまでクールな美少女アイドルだったとは思えない、ごく普通の長身イケメンである。
「今日は初めてのテレビでの生歌披露だったんだぞ。反省するのはいいけど、喧嘩腰になるなよ」
「喧嘩じゃないわ」
ミウが髪を整えながら肩をすくめた。
「マネージャーも言ってるじゃない?メンバー同士でちゃんと意見を言い合えって。これは建設的なコミュニケーション」
仕事が終わっても、ミウは俺たち相手には女言葉のままだ。
それがキャラ作りなのか、素なのかは知らない。
ただ、いちいち癇に障ることだけは確かだった。
「そのコミュニケーションが一番感じ悪いんだよ」
「それはアンタもね」
「うるせえ、タケシ」
「っ……本名で呼ぶなっつってんだろ!」
「だからやめろって!」
レイが頭を抱える。結局、マネージャーが戻ってくるまで俺たちの言い合いは続いた。
初めてのテレビ出演を終えた記念日だというのに、誰一人「飯でも行こう」とは言い出さない。
マネージャーに「今日は解散。また週末のライブで」と送り出され、俺たちはそれぞれ別々の帰路についた。
******
そもそも〝Prism★Stars〟は、事務所が試験的に立ち上げたアイドルグループだった。
俺たち三人は、もともと同じ事務所に所属していたものの、思うように芽が出ていないタレントだった。
俺も中学までは子役やジュニアモデルの仕事が少しずつあった。
でも卒業が近づく頃には、それもほとんどなくなっていた。
(芸能界はもう無理かもしれない)
そう思っていたし、俺自身はそれでも構わなかった。
ただ、幼い頃からオーディションに連れて行き、ダンスやレッスンに通わせ続けてくれた母さんは違った。
俺の仕事が減るごとに、目に見えて落ち込んでいた。
そんな期待に応えられないことが、俺は少しだけ申し訳なかった。
そんなある日のこと。
事務所に所属する十代のタレントたちが親同伴で集められ、新しいプロジェクトについて説明を受けた。
「新しいコンセプトのアイドルグループを立ち上げます。興味のある方だけ、来週のオーディションに来てください」
会議室には十五人ほどがいた。
配られた企画書の表紙には〝新感覚ボーイズグループ〟という文字。
(どんなグループなんだろう)
胸が高鳴った。
けれどページをめくった瞬間、思考が止まる。
『男子高校生が女装をして歌い、踊るアイドルグループ』
その時は何も答えを出さないまま、母さんと二人で事務所を後にした。
家までの帰り道。
重い沈黙に耐えきれず、俺は口を開いた。
「あのさ、母さん……あれ、どう思った?」
内心では、こう言ってくれるのを期待していた。
────さすがに無理よ。
────女の子の格好なんて、やめておきましょう。
でも返ってきたのは、予想とは正反対の言葉だった。
「お母さんは、いいと思うな」
振り向いた母さんの目は「いいと思う」ではなく「やってほしい」と語っていた。
「今の時代って、ちょっと新しいコトするとすごく目立つでしょ?ホラ、あのジェンダーレスモデルの子もインスタでよく見るし、有名なタレントの人でも多いじゃない?そういうの。
だからもしグループがバズったら、すごく人気になると思うの!そうしたら何にだってなれるチャンスが広がるし、何よりハヤテは前から可愛い感じのが似合うと思ってたから人気出ると思うのよ〜!」
「………」
畳み掛けるような笑顔の母さんに俺は閉口した。
本当は止めて欲しかったしやりたくなかった。
でも、俺はわかってたんだ。
自分が芸能界で芽が出なかったから、それを息子に託して成功してほしいって、母さんが思ってたこと。
だから俺は頷いて、
「わかった」
って言った。
その後、参加を希望した十人でオーディションが行われた。
そして最後に残った三人で〝Prism★Stars〟は結成された。
暗闇に無数のペンライトが星空のように揺れる中、一筋スポットライトが落ちる。
徐々に明るくなるステージバックにはトライアングルカットの装飾が、ピンク、薄紫、水色へと色を変えながら幻想的な光を放っている。
その正面に立つのは、赤、青、黄色のフリルやリボンに飾られた、華やかな衣装に身を包んだ三人のアイドル。
〝彼女たち〟は小さく微笑むと、息を合わせて歌い始めた。
♪Shining stars 目の前のその一つを手に取って
ほらすぐそこ 見えるでしょう?♪
次の瞬間、ビートが一気に加速する。
三人のフォーメーションが軽やかに動き出した。
ステップを刻み、腕を伸ばし、リズムに乗って踊る。
くるん、とターンしたミウの赤いスカートがふわりと舞った。
♪あの日から幾つ時を重ねたんだろう
ねえ 君は覚えてる?
胸に隠した痛み 苦しみ♪
歌い出しはセンターのミウ。
激しく揺れる茶髪のサイドポニー。
ハスキーな声がメロディーをリードする。
♪ 泣きそうな夜だって 心蝕む闇だって
そのどれももう遠いよ
だって貴方がいるから♪
語りかけるように被せるのは青い衣装のレイ。
黒髪のボブヘアーがよく似合っている。
〝彼女〟の歌声は、慈雨のように優しい。
そして、サビ前。
俺────いや、〝僕〟の出番だ。
グループではルナ。
メンバーカラーは黄色で、黒髪のロングヘアがトレードマークだ。
♪加速するこの気持ち
止まらない止めたくない
どうかお願い♪
音程を外さないように。
カメラから目を逸らさないように。
笑顔を忘れないように。
胸の鼓動を押し隠しながら、真正面のレンズへ歌を届ける。
♪ Shining Star 君と私だけの夢
何度でも叶えよう ほら 夜空に瞬く
一番星みたいに♪
三人そろってステージ前へ飛び出す。
歓声がさらに大きくなる。
カメラがぐるりと俺たちを囲むように旋回した。
コーラスだからといって気は抜けない。
いつ誰がアップで映るかわからないのだ。
息を合わせて踊り、笑い、歌う。
切なさと希望を乗せたポップチューンは、最後また静かなピアノの旋律へと帰っていく。
三人そろって俯き、高く掲げていた腕をゆっくり下ろす。
そして、最後の一音が消えた瞬間。
割れんばかりの拍手と歓声が会場を包み込んだ。
「Prism★Starsのみなさん、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
三人で深く一礼する。
笑顔を浮かべたまま顔を上げると、客席には色とりどりのペンライトが波のように揺れていた。
俺は今日も、問題なく〝ルナ〟をやれていただろうか。
そんなことを思いながら、俺は目の前の無数の光を見つめた。
******
〝Prism★Stars〟。通称、プリスタ。
彗星のごとく現れた、三人組の〝女装〟アイドルグループだ。
男の娘、女装男子、ジェンダーレス。
かつては日陰の存在だった彼らが、SNSの台頭とともに脚光を浴び始めたのはごく最近のことである。
そんな令和に〝Prism★Stars〟は突如としてTikTok、インスタグラムに現れた。
最初は一枚のアー写だった。
アイドル衣装を纏った、どう見ても〝可愛い女の子アイドル〟三人組を撮った一枚。
それだけなら、ただの可愛いアイドルのうちと一つとして埋もれていたかもしれない。
だが、この一枚に添えられたコピーが人々の度肝を抜いた。
『私たち、全員、男子高校生。』
『女の子より、かわいくてごめん♡』
投稿は一晩で百万回閲覧を突破。
コメント欄は、
「嘘だろ」
「加工じゃないの!?」
「右の子かわいすぎ」
「え、全員男?」
そんな驚きの声で埋め尽くされた。
〝女の子よりかわいい男子高校生アイドル。〟
その衝撃的なコンセプトは瞬く間に拡散され、正体をほとんど明かさないミステリアスな売り方も話題を呼んだ。
〝Prism★Stars〟のメンバーは三人。
メンバーカラー赤の、センターはミウ。
茶髪のロングを巻いたりサイドツインにしたり、SNSに上げる写真からも兎に角オシャレであることで知られている。
青担当のレイは、グループリーダー。
少し長めのボブヘアーに、吊り目のクールな容姿。
しっかりした性格、そして歌唱力に定評があり確固たる人気を博している。
そして黄色担当のルナ。
俺だ。
ルナこと、本名・朝倉ハヤテ。
ファンからは「Prism★Starsの姫」「清楚すぎる」なんて言われている。
けれど本当は、ルックスより十年以上続けてきたダンスの方を見てほしい。……そう思っていたら、事務所の公式プロフィールには
『特技:清楚な見た目からは想像もつかない激しいダンス』
なんて書かれていた。
まあ、それはそれでいいのかもしれない。
今では週末のライブに、YouTubeの撮影、TikTokやインスタグラムの更新。最近はテレビ出演も増え〝Prism★Stars〟は新進気鋭のアイドルグループとして名前を知られるようになっていた。
だが、その実態は。
******
収録を終え、スタッフへの挨拶を済ませて楽屋へ戻る。
マネージャーは番組スタッフと打ち合わせがあるらしく「先に着替えてて」と部屋を出て行った。
三人そろってウィッグを外し、衣装を脱いで私服へ着替える。
メイクを落とすと、鏡の中にはアイドルではなく、ごく普通の男子高校生が映っていた。
「あのさあ、ルナ」
ドライヤーで短い茶髪を乾かしながら、ミウが鏡越しにこちらを見た。
「あそこのサビ前。また走ってたよね?あれ、もう少しタメを作ってくれないと入りづらいんだけど」
「………」
また始まった。俺は心の中で小さくため息をつく。
「悪かった。でも、一拍遅れてたのはミウもだろ」
「は?」
ミウがぴたりと手を止める。
「フォーメーション入るとこ。半拍くらい遅れてた」
「あー、出ました。ルナの経験者マウント。全っ然遅れてないし。アンタがテンポ速いだけでしょ?」
途端に声を裏返しながら捲し立て、ミウは鼻で笑った。
それにイラつきながら俺は返す。
「だったら合わせろよ」
「だから速いって言ってんの」
「二人とも」
静かな一言で、楽屋の空気が止まる。
振り返ると、レイが苦笑いを浮かべていた。
ウィッグを外した短髪に、白いTシャツとジーンズ。
さっきまでクールな美少女アイドルだったとは思えない、ごく普通の長身イケメンである。
「今日は初めてのテレビでの生歌披露だったんだぞ。反省するのはいいけど、喧嘩腰になるなよ」
「喧嘩じゃないわ」
ミウが髪を整えながら肩をすくめた。
「マネージャーも言ってるじゃない?メンバー同士でちゃんと意見を言い合えって。これは建設的なコミュニケーション」
仕事が終わっても、ミウは俺たち相手には女言葉のままだ。
それがキャラ作りなのか、素なのかは知らない。
ただ、いちいち癇に障ることだけは確かだった。
「そのコミュニケーションが一番感じ悪いんだよ」
「それはアンタもね」
「うるせえ、タケシ」
「っ……本名で呼ぶなっつってんだろ!」
「だからやめろって!」
レイが頭を抱える。結局、マネージャーが戻ってくるまで俺たちの言い合いは続いた。
初めてのテレビ出演を終えた記念日だというのに、誰一人「飯でも行こう」とは言い出さない。
マネージャーに「今日は解散。また週末のライブで」と送り出され、俺たちはそれぞれ別々の帰路についた。
******
そもそも〝Prism★Stars〟は、事務所が試験的に立ち上げたアイドルグループだった。
俺たち三人は、もともと同じ事務所に所属していたものの、思うように芽が出ていないタレントだった。
俺も中学までは子役やジュニアモデルの仕事が少しずつあった。
でも卒業が近づく頃には、それもほとんどなくなっていた。
(芸能界はもう無理かもしれない)
そう思っていたし、俺自身はそれでも構わなかった。
ただ、幼い頃からオーディションに連れて行き、ダンスやレッスンに通わせ続けてくれた母さんは違った。
俺の仕事が減るごとに、目に見えて落ち込んでいた。
そんな期待に応えられないことが、俺は少しだけ申し訳なかった。
そんなある日のこと。
事務所に所属する十代のタレントたちが親同伴で集められ、新しいプロジェクトについて説明を受けた。
「新しいコンセプトのアイドルグループを立ち上げます。興味のある方だけ、来週のオーディションに来てください」
会議室には十五人ほどがいた。
配られた企画書の表紙には〝新感覚ボーイズグループ〟という文字。
(どんなグループなんだろう)
胸が高鳴った。
けれどページをめくった瞬間、思考が止まる。
『男子高校生が女装をして歌い、踊るアイドルグループ』
その時は何も答えを出さないまま、母さんと二人で事務所を後にした。
家までの帰り道。
重い沈黙に耐えきれず、俺は口を開いた。
「あのさ、母さん……あれ、どう思った?」
内心では、こう言ってくれるのを期待していた。
────さすがに無理よ。
────女の子の格好なんて、やめておきましょう。
でも返ってきたのは、予想とは正反対の言葉だった。
「お母さんは、いいと思うな」
振り向いた母さんの目は「いいと思う」ではなく「やってほしい」と語っていた。
「今の時代って、ちょっと新しいコトするとすごく目立つでしょ?ホラ、あのジェンダーレスモデルの子もインスタでよく見るし、有名なタレントの人でも多いじゃない?そういうの。
だからもしグループがバズったら、すごく人気になると思うの!そうしたら何にだってなれるチャンスが広がるし、何よりハヤテは前から可愛い感じのが似合うと思ってたから人気出ると思うのよ〜!」
「………」
畳み掛けるような笑顔の母さんに俺は閉口した。
本当は止めて欲しかったしやりたくなかった。
でも、俺はわかってたんだ。
自分が芸能界で芽が出なかったから、それを息子に託して成功してほしいって、母さんが思ってたこと。
だから俺は頷いて、
「わかった」
って言った。
その後、参加を希望した十人でオーディションが行われた。
そして最後に残った三人で〝Prism★Stars〟は結成された。

