幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ただいまーと声をあげリビングに行けば、ソファでスマホをいじっていた彼は顔をあげ瞳を柔らかくした。

「おかえり」

 その甘い瞳には、数年経った今でも慣れない。
 もう俺が照れているのは相手にはバレバレだと思うので、誤魔化さずに突っ込む。

「何やってんの、冬輝」
「ファンの人のコメントに、ハート押してる」
「え待って待って、俺も一緒にやる」

 部屋着に着替えてから、俺は冬輝の隣に腰掛けた。こてん、と彼の肩に甘えるように頭を預ける。

 もう大学二年生になり、そしてそれはフユアヤを卒業してから二年だと言うことを示す。
 高校二年生の十月に付き合って、十一月に付き合ってることをネット上に明かして、高校を卒業すると同時にフユアヤをやめて──。

 卒業を発表した時にはありがたいことに名残惜しまれ、そして最後の投稿についたコメントには、未だ全てにハートを押せていない。
 だから同棲している今、時間があるときに二人で見てハートを押していっているのだ。

【フユアヤのおかげで一生付き合っていきたい親友を見つけました。正直めちゃくちゃ寂しいけど、本当にありがとう。今日も明日もこの先もずっと推すし、大好きです!】

「あ、この人……よく配信に来てくれてた子だよね」
「うん。卒業した今もデビュー日とか記念日に色々と呟いてくれてるみたい」
「うわ、ありがたすぎる」

 心がぽかぽかと温かくなった。やっぱりこういうコメントを見ると、少しばかりフユアヤを辞めたことを後悔するけど。
 それでも、昔二人で沢山話し合ってようやく下した決断だ。間違った選択だとは思っていない。

【末永くお幸せにね。フユ、アヤを幸せにしてやるように】

 すると、色んな名残惜しむ声に紛れて、温度が他と明らかに違うコメントを見つけた。レモンのアイコン。

「……言われなくても」

 冬輝は少し不本意そうだ。ふふ、幸せにしろ、だってさー。

「フユファンかな。良かったじゃん?」
「……まあ、嬉しいけど。もう末永く幸せになってるよな、俺ら」
「末永くって言うにはまだまだじゃなーい?」
「別れる予定とかあんの」
「ない」
「なら大丈夫、叶ってる」

 自分がずっと俺を好きだっていう自信はどこから出てくるのか。呆れたような嬉しいような笑みを零す。

 あぁ、幸せだ。

 身体を委ねていると、冬輝のスマホが震えた。通知音が二重に鳴ったと思えば、俺のスマホもだ。

「あ、蛍から」
「え、どれ?」

 自分のスマホを取りに行くのがめんどくさく冬輝のスマホを覗き込む。開かれたのは、俺と冬輝、蛍と千くんのグループ。
 メッセージは、

【千里と来週の日曜日カラオケ行こうってことになってるんやけど、二人もきぃひん?】

 とのこと。

 ちなみに千くんは俺たちが大学に進学すると同時に家を出て、関西にいる蛍の近くに引っ越している。

「いや、簡単に言ってくれるけどさあ……」
「こことそっちじゃ電車で何時間かかると思ってるんだ、蛍は」

 二人で顔を見合わせ苦笑した。んー、でも、カラオケかあ。
 数年前のコラボ歌ってみたを思い出して、少し懐かしい記憶に浸る。蛍の歌は聴きたいかもなあ……。未だに圭として活動してるから聴けるっちゃ聴けるんだけど、やはり生歌だと別物だと言うか。

 悩んでいると、

【ちょっと、大切なとこ伝え忘れてるよ。カラオケで動画を取るから、“フユアヤ”として参加しない? ってこと】

 新たな情報……というか、一番大事な情報が千くんによって投下された。目を見開く。

「千くんついに声出しするの!?」

 そう驚けば、冬輝がそれをそのまま「by綾斗」と付け加えてメッセージを送る。

【ツッコむとこそこなん?笑笑】
【俺はマラカス担。声出しはしないよ〜】
【めっちゃ頼んどんのに一向に折れへんのよこの人。声ええから絶対伸びるのに】
【はいはい。で、二人ともどする?】

 ふと、冬輝と顔を見合わせた。

 別に、復活してって言われているわけではない。他チャンネルに、一回だけ出演してみない? と言われてるだけ。

 澄んだ青い瞳に俺が映る。

 卒業してから、フユアヤには一回もなっていない。

 自然と手を絡ませた。思わずとでもいう風に溢れた笑みは、果たしてどちらからだったか。

 たった二年。されど二年。もう二年。それでも、懐かしい。
 少しばかりのファンサぐらいは、してあげてもいいのではないか──なんて。

 そんなこと偉そうに思っちゃったりして、きっとフユアヤに一番会いたくなってるのは、俺たちだ。

 冬輝が送信ボタンを押した。

【行きます】

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