幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◇

 はあああ。文化祭に似合わない、大きいため息をつく。

 やっぱり、全然冬輝と話せない……。
 十分の休憩時間、俺は隅っこに少しだけ作られている休憩スペースでぐたっと壁に背中を預けた。

「すっごいため息だな。お疲れー、遠藤」
「あぁ、うん。お疲れ、中谷も休憩?」
「そ。にしても裏方とて忙しいな、男装カフェ。結構女子たちの提案も的をついてたってわけか?」

 ま、俺にはわざわざ異性の格好をしたい気持ちなんてこれっぽっちも分からんけど。そう言い捨てた中谷は、男女逆転喫茶になるなら休んでやると宣言した奴のひとりである。
 彼の言葉に苦笑いを零しながらも、天井を仰ぎ手を伸ばした。

 ふう……そろそろ復活しようかな。
 じゃあばいばい、と中谷に声をかけようとして。

「なあお前、篠山と何かあった?」

 シンプルに、そう告げられた。何も躊躇いのない声に、目を瞬く。
 きょとんとして……思わず、笑いが滲み出た。

「あー、ちょっとだけ?」
「へえ、お前らでも喧嘩するんだなー。二人で一つみたいなイメージだったからさ」
「まあそれなりに。でもちゃんと仲直りするつもり」
「良かった良かった。女子たちが嘆いてたぜ」

 それはどういう意味だ。

「何で?」
「気づいてねえの? 篠山の笑顔、お前がいないと見れないんだって」

 ふゆは基本あやくんの前やあやくん関連の話題でしか笑わないよ。いつだったか、千くんから聞いた言葉が頭を過った。
 その時は何それどゆことって否定したんだけど、……そっか。

 今は何だか無性に嬉しい。

「んー、知ってる」

 少しばかりの優越感に浸り、図々しくも肯定してみた。ニッと口角を持ち上げる。
 と、中谷は呆れたように笑って、「あー」と声を上げた。

「俺も彼女欲しー。てか、篠山早く彼女の一人でも作れよなー! おかげで淡い希望を抱いて片想いをする女子がちゃくちゃくと増えてるじゃんか」
「あっはは」
「遠藤もそう思うだろ? 仲間だもんなー俺ら」

 何故俺も勝手に彼女いない認定されてるのだろう。まあ事実だけど。そう不満を零せば、

「だって低身長男子はモテないし」

 と一括された。なあ流石に怒っていいよな?
 キレようとすると、休憩スペースを囲っていたカーテンレールが突如開け放たれる。

「いた! 遠藤!」
「頼みがあります!」

 入ってきたのは、接客中のはずの女子。男装でパッと見誰か分からないが、声的に清水と前田だよな。多分。
 何かあったのだろうか。無意識に背筋を伸ばし、二人を捉える。

「ど、どうかした?」
「遠藤に、接客に回って欲しいの!」
「は?」

 ……接客に?
 いやいやここは男装カフェであって。

「な、何で?」
「今日女子一人風邪で休んじゃったじゃん、それで足りないの! あとこんなに混むと思わなかった〜っ」
「それは大変そうだけど。でも俺男子だし」
「大丈夫! 遠藤の身長や体格なら背の高い女子で誤魔化せるから!」

 今日は低身長をいじられる日か何かなのか? そうなのか?
 戸惑っていると、中谷が「じゃ俺行くな……」と去っていった。逃げんなー! 置いてくなー!

「てことで! ね、お願い!」
「いや、無理無理無理」
「クラスのために! お願い遠藤! 文化祭はみんなで協力して作るものでしょ!」
「午後にはお客さんも減ると思うし、そしたら特別に長く休み取っていいから〜!」

 知っている。こういう時の女子は引かないということを。
 そして、午後が休めるのは……結構デカいかもしれない。
 押しに弱く、そして魅力的な条件を提示され、……あっけなく頷いてしまった。

「……わかった」
「やったー!」
「ありがとうー! マジ救世主!」

 結構高レベルな男装の姿でぴょんぴょん跳ねられると、少し変な光景を見ている気分になる。まあそんな喜ばれるなら結構いい気がしてきて、我ながら現金だよなと思った。

「あ、でも、声は?」
「遠藤元々声高いし、誤魔化せばいけるくない?」
「ぜんっぜん大丈夫だって! 何なら女装の才能あるよ遠藤!」

 それは果たして褒め言葉として受け取っていいのだろうか。とりあえず黙って聞き流した。