幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◇

 無事、二時間ほどの初リアルイベントが終わった。

 お疲れ様でしたーっと、スタッフや共演者の方と数分かプライベートで話したあと、ファンの方が全員退場したのを確認してから解散。
 コラボの約束も何個かしてから、俺たちは遅れて会場を出た。圭は気づけばいなくなっていると思ってたら、スマホに【千とカフェで話してるわ】とのメッセージが。

 なので、今近くにいるのは冬輝のみだ。
 俺は外の息を吸い込み、思いっきり吐く。

「はーっ、楽しかった!」
「うん。皆さんゲーム上手かったし優しかったな」
「な、しかも面白いし! さすが人気活動者様って感じ」

 あー、参加してよかった。
 ハプニングもなかったし、リスナーさんにも楽しんでもらえた様子だったし……本当にあっという間だった。
 またやりたいなあ。上機嫌で呟きながら都会の道を歩く。

「ええと、千くんと圭はどこのカフェにいるんだっけ?」
「あともう少しで着くはず」
「おけ、ありがとう!」

 早く千くんに会って、観客席からの感想を聞きたい。早く圭に会って、この高揚感を共有したい。自然と歩くスピードが早くなる。
 共有するといえば、明日は久しぶりの配信の予定だ。リアルイベントの振り返り。

 何を話そう。

 圭と会ったこと?
 イラストレーターの千くんが付き添いをしてくれたこと?
 ルノアさんがとても面白くて憧れの人なこと?
 スタッフも共演者の皆さんもとても優しかったこと?
 フユが始まる前、手を握ってくれたこと?

 あぁ、全部話したい。早く話したい。
 ファンのみんなに思いを馳せていると、「綾斗」と冬輝に服を引っ張られ我に返った。

「ここから特に人通り多いから。気をつけて」
「あ……う、うん! 了解!」

 本当だ、都会でしか見れないぐらいの人の量だ……。冬輝にくっついて歩いていると、「アヤくんがさ!」という声が耳に入ってきて、ビクッと肩が震えた。
 冬輝も聞こえたのか、ふと立ち止まる。視線を巡らせると、オレンジ色のワンピースと淡いターコイズブルーのゆったりとしたトップスを着た同年代ぐらいの女子二人を見つけた。

「圭さんたちに囲まれて超〜弟っぽくなかった!? 可愛いすぎて萌え死にするとこだった」
「んね、フユの前でただでさえ弟っぽいのに……。そういえば、フユ、ルノアさんにいじられてたよね。珍しくて一番記憶に残ってる」
「だねだね〜! あー来てよかった! 蒼葉、付き合ってくれてありがとう」
「ううん、うちもフユアヤ応援してたし。寧ろ誘ってくれてありがとう」
「えっへへ〜どういたしまして〜」

 服──フユアヤの色だ。
 それに、フユアヤの話。……リアルイベント、来てくれたんだ。
 胸が温かくなってくる。冬輝も嬉しそうに顔を綻ばせると、俺へ視線を向けた。

「ここからじゃさすがにバレないと思うけど、行こう。盗み聞きするのも悪いし」
「うん」

 嬉しいな。笑いかけると、冬輝も柔らかな顔で頷いた。止めていた足を、また動かせる。

 そのまま、ふわふわとした気持ちでカフェへ向かっていると、今度はルノアさんと圭のグッズを付けた人たちを見つけた。
 さっきのも会ってか無意識に視界が広くなっていて、自然と目についた、二十代ぐらいの男女。

「今日の夜ご飯何にする?」
「んー。食べたいの、せーので言おっか」
「お好み焼き」
「タルト」
「……やっぱり推しの好物になるよねえ」
「お好み焼きと、デザートにタルトは?」
「カロリー超高いけど、でもまあいいや。今日は圭に会えたしね」
「ルノアにも」

 ……夫婦か、カップルかなあ。
 幸せそうで、そして圭とルノアさんのグッズをつけているからか冬輝も見つめていた。俺はそっとそんな横顔を盗み見る。

 冬輝に恋をしていた頃に、少しだけ考えたことがある。
 俺が女子だったら、冬輝は好きになってくれたんじゃないかって。
 幼馴染だし、親友だし、距離感超近いし。

 お似合いな男女へまた視線を移す。

「……いいな」

 少なくとも、俺は初恋を諦めたりはしなかった。
 いやでも、男子同士だからこそ仲良くなれたしフユアヤになれたのか。それなら男子でよかったような気がしてくる。
 ほうと小さい息をついた。

 あー、やめやめ。もう終わったことなんだから引きずらない気にしなーい。アヤでもあるまいし。

 首を横に振り考えを打ち消す。今日は結構「アヤ」になっていたから思考が引っ張られたかな。
 顔をあげ、さらに横へ動かした。

「冬輝、カフェここら辺だよね──」

 いっしゅん。
 何をされたか、分からなくて。

 くいっと俺の顎を持ち上げるひんやりとした指。気がつけば、視界を占領する綺麗な肌。すぐそばで絡み合う澄んだ青い瞳。少しだけかかる甘い吐息。鼻をくすぐる、落ち着く香り。額に擦れるように触れる黒い髪。
 唇に当たった柔らかいものは、それこそ五秒も立たない間に離れていき。
 触れたのかすら、危うい。

 硬直して、息をするのも忘れるぐらい、呆然としていて。
 ようやく頭が回ってきた時のこと。

 未だに理解は不能だった。

「……は?」

 ……今、何された?