◇
途中で千くんと別れてから(イベント始まるまでそこら辺回ってるって言ってた)、会場へ着くと、スタッフやら機材やらで賑わっていた。今回の会場は普段コンサートのようなものが行われているところで、ステージ上に参加者が集まり、後ろにゲーム画面を映してやる──と、圭から何となく説明されている。
「圭さん、おかえりなさい。と言うことは、そちらの方たちは」
スタッフらしき方に声をかけられた。なんか声聞いたことある、と言うことは……ミーティングで話した方か。
圭は帽子を外しにこっと笑うと、声を張り上げた。
「こちらフユアヤのフユさんとアヤさんです! ただいま入りましたー!」
よろしくお願いしまーす、と色々なところから温かい声が飛んでくる。
俺たちは慌てて頭を下げた。
「フユアヤのアヤです! 今日はよろしくお願いします!」
「フユアヤのフユです。よろしくお願いします」
「ん、ほな、フユアヤはこっち。紹介したい相手がおるねん」
またもや歩き出した圭に、若干駆け足で着いていく。その最中もおはようございますやよろしくお願いしますなどの声をかけられて、緊張しながらも返事と共に頭を下げた。
……なんか、ザ・現場って感じの空気だ……。
今更すぎる緊張が襲ってきた。そうだ、……俺たちは観客じゃない。
観客にパフォーマンスを届ける、出演者だ。
隣を見ると、少しだけ冬輝の顔も強張っていて、緊張しているのは自分だけじゃないのだと少しだけ安心した。
緊張を誤魔化すように、俺は息を吸う。
「え、えと……圭、会わせたい人って?」
「んーちょっと待ってや、すぐやさけ。まあ参加者とはあとあと全員と顔合わせはする予定なんやけど、先に一人だけ、な」
圭は立ち止まると、楽屋①と書かれた扉を躊躇いもなく開け放した。
驚いて目を見開く。と、開け放たれた本人も驚いたようにこちらを見ると、ふっと顔を緩ませた。
「なんだあ、圭くんか。びっくりさせないでよね」
あ──この声。
ミーティングで何度か会話を交わしたことがある。けど、あれ。
「はいはい。アヤ、フユ、こちらが今回の企画の主催者、歌い手のルノア」
「え、もしかしてアヤくんとフユくんっ?」
染めているとは思わないような綺麗な金髪を揺らしながら、その人はバッと立ち上がった。そして、こちらに寄ってくる。
「は、はい、フユアヤのアヤと申しま」
「うわ本当に高校生なんだ、ちっちゃい〜! かわいい〜! いいな、ずるい〜!」
自己紹介をさせてくれない勢いで手を掴まれた。そのまま、ぎゅっと握られる。
そ、そちらは背がお高いデスネ……。
顔を結構上げたところで、やっと目が合った。少しばかり気にしている背のことを言われていつもは拗ねるところが、頭に「?」を浮かべる。
「ず、ずるい?」
「ルノア、公式設定の身長逆サバ読みバレて荒れとったもんな」
「いえいえいえ、荒れてまーせーん! セーフだよっ、てか歌い手は声が命なんだし声が可愛いならオールオッケーだもん」
ぷくっと頬を膨める彼から奏でられる声は、確かに高くてどこか丸っこくて、可愛い。──正真正銘、俺の知っているルノア様の声だ。
す、少し、イメージとは違ったけど……でもまあ、所詮いつも身に纏っているイラストは空想上のもの。彼の言葉も一理ある──というか、全然頷ける。
握られた手と顔をまじまじと見比べていると、そこに第三者の影が割り込んだ。
「あの、俺フユアヤのフユです。よろしくお願いします。……アヤの手、離してくれませんか」
「あ、ごめんねーっ。嫉妬させちゃったよね」
ルノアさんは慌てて俺の手を離す。そっか、……もうフユアヤか。
瞬きをして、俺はいざリベンジと頭を下げた。
「改めて初めまして、フユアヤのアヤです! お誘い本当にありがとうございます、今日はよろしくお願いします!」
「ありがとうございます」
「えーいいよそんな! 昔から個人的にファンだったんだよね〜、だから参加してくれてとっても嬉しい! あ、今回の企画の主催者、歌い手のルノアだよっ、よろしくお願いしまーす!」
くるっと華麗に回って、モデルみたいにポーズを決めるルノアさん。スタイルも顔も良くて、ちゃんと様になっている。
俺は目を見開いた。
え、あ、昔から、ファン……ル、ルノアさんみたいな大先輩が?
フユも驚いたように口を開く。
「本当ですか……光栄です」
「うわー素直! かわいい! 圭も僕の後輩たちもさ〜、最初はこんな可愛かったのに〜」
「コイツらを呼んできたのは俺だってこと忘れへんように」
「あうん、ありがとー」
「うわあ、すっごい棒読み……嫌やわあ」
圭は言葉通り顔をしかめるけど、本気で嫌がっている様子は見受けられない。
「て今更やけど、なんでルノア歌い手やのにファンミゲーム実況にしたん? ゲーム得意やっけ?」
「ゲームなら座れるし身長誤魔化せるじゃん」
「うっわあ……」
「僕の棒読みより圭のその隠さないドン引きの方がひどいと思うんだけど?」
「はは、ごめんってルノアせーんぱい。まあさそてくれてさんきゅな、千とフユアヤとも会えたし」
仲、本当にいいんだな。思わずくすっと笑みを零した。
とりあえず、ルノアさんとも絡みやすそうでよかった。まあ、圭の心を許している相手なら、良い人確定だと思ってたけど。
「……千兄ここに連れてこなくてよかった……」
「え? 何で?」
「多分俺と同じで独占欲つよ──いや、何でもない」
どくせんよく? ……何で今そんな話になるんだ?
首を傾けるが、ルノアさんと圭にまた声をかけられ、まあ良いかと思考を放棄した。
それからそれから、共演者の方と顔を合わせたり、ステージを見てみたり、今日の流れをもう一度おさらいしたり、ステージに声が届くか確かめたり──。
あっという間に時間が過ぎていって、もう本番の時間になった。
圭とルノアさんはステージに立つ人たちだ。というか、俺たちが特別扱いらしい。
二人を見送ってから、俺たちは周りのスタッフさんに改めて「よろしくお願いします」と伝えながらも、色々なモニターとマイクが置いてあるテーブルの前に座った。
ここから、ステージに声を届ける。……はあ、また緊張してきた。
ステージと客席の様子が映し出されているモニターには、もう既に人で賑わっている。
この人たち全員に、楽しんでもらえるようなパフォーマンスをする。
そう思うと、声が硬くなって、思わず取り繕ってしまいそうで……。
「緊張してる、アヤ?」
胸がザワザワとしていると、フユに声をかけられた。はい、とコントローラーが渡される。
「うん。──フユは?」
「俺も。超緊張してる」
……確かに、表情がいつもより硬いか。変わらないように見えるけど、分かる。
ありがとうとコントローラーを受け取り、息を吐き出した。
ふは、と同時に笑みを吐く。
「そっか。一緒だ」
「うん」
刹那、凄く自然に手を取られた。そのままぎゅっと強く握りしめられて、目を瞬く。
「……どーした?」
「いや。アヤの手握ると、落ち着くから」
「ふーん……」
すぐに離れていきそうだった手を、こちらから握り返した。繋ぎ止められて、今度はフユが目を見開く。
「なら、始まるまでこうしてよ」
「……うん」
青い瞳が少しだけ揺らいだ。そして、口の端が上げられる。
「ありがとう」
「こちらこそ」
じわじわと相手の体温が伝わってくる。絡んで合わさって、俺はその手にさっきまでの感情全てを置き去った。
──まずは俺たちが、俺が楽しもう。
そう思える。
ああ、やっぱり。
コイツの隣は、ずっと俺がいいなあ。
途中で千くんと別れてから(イベント始まるまでそこら辺回ってるって言ってた)、会場へ着くと、スタッフやら機材やらで賑わっていた。今回の会場は普段コンサートのようなものが行われているところで、ステージ上に参加者が集まり、後ろにゲーム画面を映してやる──と、圭から何となく説明されている。
「圭さん、おかえりなさい。と言うことは、そちらの方たちは」
スタッフらしき方に声をかけられた。なんか声聞いたことある、と言うことは……ミーティングで話した方か。
圭は帽子を外しにこっと笑うと、声を張り上げた。
「こちらフユアヤのフユさんとアヤさんです! ただいま入りましたー!」
よろしくお願いしまーす、と色々なところから温かい声が飛んでくる。
俺たちは慌てて頭を下げた。
「フユアヤのアヤです! 今日はよろしくお願いします!」
「フユアヤのフユです。よろしくお願いします」
「ん、ほな、フユアヤはこっち。紹介したい相手がおるねん」
またもや歩き出した圭に、若干駆け足で着いていく。その最中もおはようございますやよろしくお願いしますなどの声をかけられて、緊張しながらも返事と共に頭を下げた。
……なんか、ザ・現場って感じの空気だ……。
今更すぎる緊張が襲ってきた。そうだ、……俺たちは観客じゃない。
観客にパフォーマンスを届ける、出演者だ。
隣を見ると、少しだけ冬輝の顔も強張っていて、緊張しているのは自分だけじゃないのだと少しだけ安心した。
緊張を誤魔化すように、俺は息を吸う。
「え、えと……圭、会わせたい人って?」
「んーちょっと待ってや、すぐやさけ。まあ参加者とはあとあと全員と顔合わせはする予定なんやけど、先に一人だけ、な」
圭は立ち止まると、楽屋①と書かれた扉を躊躇いもなく開け放した。
驚いて目を見開く。と、開け放たれた本人も驚いたようにこちらを見ると、ふっと顔を緩ませた。
「なんだあ、圭くんか。びっくりさせないでよね」
あ──この声。
ミーティングで何度か会話を交わしたことがある。けど、あれ。
「はいはい。アヤ、フユ、こちらが今回の企画の主催者、歌い手のルノア」
「え、もしかしてアヤくんとフユくんっ?」
染めているとは思わないような綺麗な金髪を揺らしながら、その人はバッと立ち上がった。そして、こちらに寄ってくる。
「は、はい、フユアヤのアヤと申しま」
「うわ本当に高校生なんだ、ちっちゃい〜! かわいい〜! いいな、ずるい〜!」
自己紹介をさせてくれない勢いで手を掴まれた。そのまま、ぎゅっと握られる。
そ、そちらは背がお高いデスネ……。
顔を結構上げたところで、やっと目が合った。少しばかり気にしている背のことを言われていつもは拗ねるところが、頭に「?」を浮かべる。
「ず、ずるい?」
「ルノア、公式設定の身長逆サバ読みバレて荒れとったもんな」
「いえいえいえ、荒れてまーせーん! セーフだよっ、てか歌い手は声が命なんだし声が可愛いならオールオッケーだもん」
ぷくっと頬を膨める彼から奏でられる声は、確かに高くてどこか丸っこくて、可愛い。──正真正銘、俺の知っているルノア様の声だ。
す、少し、イメージとは違ったけど……でもまあ、所詮いつも身に纏っているイラストは空想上のもの。彼の言葉も一理ある──というか、全然頷ける。
握られた手と顔をまじまじと見比べていると、そこに第三者の影が割り込んだ。
「あの、俺フユアヤのフユです。よろしくお願いします。……アヤの手、離してくれませんか」
「あ、ごめんねーっ。嫉妬させちゃったよね」
ルノアさんは慌てて俺の手を離す。そっか、……もうフユアヤか。
瞬きをして、俺はいざリベンジと頭を下げた。
「改めて初めまして、フユアヤのアヤです! お誘い本当にありがとうございます、今日はよろしくお願いします!」
「ありがとうございます」
「えーいいよそんな! 昔から個人的にファンだったんだよね〜、だから参加してくれてとっても嬉しい! あ、今回の企画の主催者、歌い手のルノアだよっ、よろしくお願いしまーす!」
くるっと華麗に回って、モデルみたいにポーズを決めるルノアさん。スタイルも顔も良くて、ちゃんと様になっている。
俺は目を見開いた。
え、あ、昔から、ファン……ル、ルノアさんみたいな大先輩が?
フユも驚いたように口を開く。
「本当ですか……光栄です」
「うわー素直! かわいい! 圭も僕の後輩たちもさ〜、最初はこんな可愛かったのに〜」
「コイツらを呼んできたのは俺だってこと忘れへんように」
「あうん、ありがとー」
「うわあ、すっごい棒読み……嫌やわあ」
圭は言葉通り顔をしかめるけど、本気で嫌がっている様子は見受けられない。
「て今更やけど、なんでルノア歌い手やのにファンミゲーム実況にしたん? ゲーム得意やっけ?」
「ゲームなら座れるし身長誤魔化せるじゃん」
「うっわあ……」
「僕の棒読みより圭のその隠さないドン引きの方がひどいと思うんだけど?」
「はは、ごめんってルノアせーんぱい。まあさそてくれてさんきゅな、千とフユアヤとも会えたし」
仲、本当にいいんだな。思わずくすっと笑みを零した。
とりあえず、ルノアさんとも絡みやすそうでよかった。まあ、圭の心を許している相手なら、良い人確定だと思ってたけど。
「……千兄ここに連れてこなくてよかった……」
「え? 何で?」
「多分俺と同じで独占欲つよ──いや、何でもない」
どくせんよく? ……何で今そんな話になるんだ?
首を傾けるが、ルノアさんと圭にまた声をかけられ、まあ良いかと思考を放棄した。
それからそれから、共演者の方と顔を合わせたり、ステージを見てみたり、今日の流れをもう一度おさらいしたり、ステージに声が届くか確かめたり──。
あっという間に時間が過ぎていって、もう本番の時間になった。
圭とルノアさんはステージに立つ人たちだ。というか、俺たちが特別扱いらしい。
二人を見送ってから、俺たちは周りのスタッフさんに改めて「よろしくお願いします」と伝えながらも、色々なモニターとマイクが置いてあるテーブルの前に座った。
ここから、ステージに声を届ける。……はあ、また緊張してきた。
ステージと客席の様子が映し出されているモニターには、もう既に人で賑わっている。
この人たち全員に、楽しんでもらえるようなパフォーマンスをする。
そう思うと、声が硬くなって、思わず取り繕ってしまいそうで……。
「緊張してる、アヤ?」
胸がザワザワとしていると、フユに声をかけられた。はい、とコントローラーが渡される。
「うん。──フユは?」
「俺も。超緊張してる」
……確かに、表情がいつもより硬いか。変わらないように見えるけど、分かる。
ありがとうとコントローラーを受け取り、息を吐き出した。
ふは、と同時に笑みを吐く。
「そっか。一緒だ」
「うん」
刹那、凄く自然に手を取られた。そのままぎゅっと強く握りしめられて、目を瞬く。
「……どーした?」
「いや。アヤの手握ると、落ち着くから」
「ふーん……」
すぐに離れていきそうだった手を、こちらから握り返した。繋ぎ止められて、今度はフユが目を見開く。
「なら、始まるまでこうしてよ」
「……うん」
青い瞳が少しだけ揺らいだ。そして、口の端が上げられる。
「ありがとう」
「こちらこそ」
じわじわと相手の体温が伝わってくる。絡んで合わさって、俺はその手にさっきまでの感情全てを置き去った。
──まずは俺たちが、俺が楽しもう。
そう思える。
ああ、やっぱり。
コイツの隣は、ずっと俺がいいなあ。
