幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◇

 連れて来られたところは、近所のアイスクリーム店だった。
 開けた広場にポツンと立っているコンテナ式みたいなやつ。夏から秋にかけてのみやっていて、地元民には親しまれている。

 そう言えばいつかの配信で奢るとかいったっけ、と今更すぎる約束を思い出し、とりあえずと持ってきたスマホを取り出した。ここスマホ決済できるっけ。

「何味がいい?」

 訊きながら見上げると、冬輝は不思議そうに目を瞬く。

「俺が奢る」

 いやいや冬輝が奢るのは意味わからないし有り得ない。

「夏の課題手伝ってくれたのと、テスト勉強付き合ってくれたのと、その他もろもろのお礼。てことで、俺が奢る」
「無理。せめて割り勘」
「いや何で」

 母親から少しだけれどお小遣いは貰ってるし、ありがたいことにフユアヤの収入もあるし。
 それは冬輝も知っているはずだ。なのに「無理」と来たか。
 困った、よりも面食らっていると、「だから」と冬輝にくるっと人差し指を回され、刺される。

「将来倍返しでよろしく」
「……えぇ?」

 思わず本当に驚きの声が漏れた。

『もちろんお金で全部返せると思ってないけど……でもいつか、海外旅行とか連れてくから。上手くいくかは分からないけど、覚悟しといて』
『親孝行ってやつ?』
『そうそう……って、俺の親じゃないけど』

 フユアヤをやる前の会話が頭を過った。そうだ、友達に活動者をお勧めされて、元父親譲りで自分の声は何となく良いことは自覚していたから……一人で活動者をやるって言い出したんだっけ。

 それに一人じゃ心配だから俺もやるって冬輝が言い出して、フユアヤになったんだよな。
 今では無謀だったよなと思える。冬輝がいなければ、きっと俺はすぐにやめていた。
 声がいい、動画がいいなんて活動者、星の数ほどいるんだ。そこから埋もれず人に見つけてもらうのは、たった一握り。

 俺は本当に幸運だったのだ。冬輝が付き合ってくれて、奇跡的に伸びて、今はたくさんの人に見つけて、好きになってもらえた。
 そんな、昔の思い出やら自分は幸せ者だとか考え浸っている間に、

「はい」

 ……会計が終わってますよと。

 まあつまり、冬輝が言いたかったのは今溜めてるお金は大人になってから一気に返してこいと言うことだろう。
 もちろんそれだけの意味ではないと、気づいているが。
 当然のように差し出されたバニラアイスに、俺は申し訳なさを通し越して、もう笑えてきた。

「ありがとう。将来って、大人になっても仲良くしてくれるってこと?」
「もちろん。……あ、綾斗はそのつもりじゃなかった?」
「いやいやいやぜひ仲良くさせてください冬輝サマ」

 少し悲しそうな色を宿した冬輝の言葉に、俺は慌てて首を横に振る。その衝撃でアイスが落ちそうになり、とりあえず座ろうかと移動した。
 無事アイスを守りながらベンチに座って一息つく。ふと冬輝は口を開いた。

「じゃあさ、……ルームシェアとかどう?」
「二人で?」
「うん」

 何と。冬輝から誘ってくれるとは。
 嬉しくなって、笑みが弾けた。

「いいな、それ。てかそもそも今とあんま変わらなくない?」
「でも、家事とか」
「あー……自炊か、練習しとかないと」
「うん。同居疑惑、本当になっちゃうな」

 なんかあったな、そういうやつ。
 あれは本当にビビったけど……奇跡的に本名は呼んでなかったと言うことで、今は冬輝の可愛い失敗談として俺の記憶に刻まれている。
 かもなと笑い飛ばし、ふと、口に出た疑問。

「フユアヤ……いつまで続ける?」

 今は高校生だから何とか両立しているけれど、就職するとなるとそうはいかなくなるかも。
 いやでも、大学生の間はいけるか? 首を傾げ冬輝へ視線を巡らせると、彼は眉を上げる。

「綾斗がやる限り、続ける」
「……何それ、フユアヤの最後は俺に託されてるってこと?」
「そう」

 責任重大じゃん。呆れもありがたさも含んだ笑みを零しながら、パクッとアイスを口に放り込んだ。

 でも……そうだな。
 あの場所が好きだ。フユが好きだ。アヤを好きだと言ってくれる人たちが好きだ。

 それでも、終わるべき時は終わらないといけない。
 そして、その瞬間はいつか必ずやってくる。

 どちらかがフユアヤより大事なものを見つけた時。どちらかが新しい家族を持った時。どちらかが引っ越して、会えなくなった時。どちらかが、帰らぬ人となった時。
 終わるべき瞬間は、案外すぐにやってくるかもしれないし、数年後かもしれない。

 隣の冬輝に、身体を寄せ預けた。突然のことに、冬輝の身体が固まる。

「フユ」
「……どうかした?」

 だからこそ、今この時間を大切にしよう。

「明日、頑張ろ」

 アヤでいられる時は、ずっと冬輝は俺の隣にいてくれるらしいし。言質取ったからな、ちゃんと最後までは責任とって。
 アイスを持っているのとは別の手で拳を作り差し出すと、冬輝の身体からふっと力が抜けた。……ような気がした。
 そして、すぐ近くで柔らかな笑い声が聞こえる。

「うん、頑張ろう」

 コツン、と。
 俺より少し大きい手が、拳に当たった。

 ──当たったところが、妙な熱を持ったのは。

 果たして冬輝の手が熱かったのか、俺の気のせいか。
 考えたら負けな気がして、俺はアイスを口に含んだ。