幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◆◇◆

「てことで〜、しばらく配信おやすみになります! ごめんみんな!」
「ごめん。待ってて」

 夜、配信中。いつものゲーム実況を終えこれがリアルイベント終了まで最後の配信になると告げると、コメント欄がすごい速さで動いた。了解したやら寂しいやら温かいコメントで溢れて、頬が緩む。
 リアルイベントはもう飛び入り参加者として告知されているから、俺らの投稿を見てくれた方なら知っているはず。

「リアイベ、まだ少しチケット余ってるらしいので、会いに来てくれたら嬉しいです!」
「まあ俺らは顔出しNGなのでいつもとあまり変わらないけどな。でも、来てくれると嬉しい」
「圭とか、他の有名活動者様も勢揃いだよ〜!」

【ちょうどその日予定ある! 悔しすぎます】
【行きます! 絶対!】
【別の推しが参加しててチケット取ってたからフユアヤ飛び入り参加って聞いて舞い踊りました】
【もうちょっと早く告知されてたら死ぬ気で予定開けたのに……!】
【なんでフユアヤだけ飛び入り参加なんですか?】

 飛び入り参加については賛否両論あると思うから、気ぃつけて。圭の言葉が頭に蘇り言葉を選べずにいると、頭の回転の速いフユが口を開いた。

「主催者の方がありがたいことに前々から俺たちに興味を持っていてくれたらしくて、圭伝いで誘ってきてくれたんだ。俺も好奇心に負けちゃって……ごめん。色々土産話を持って帰ってくるよ」
「お、俺からも、ごめん。これからは気をつける、もっと早く告知します」

 あちらには見えてないけれど二人で頭を下げると、視界の隅でコメント欄が動いた。

【謝んないで!】
【今回は行けないけど、次楽しみにしてます!】
【説明ありがとうございます! 責めようと思って言ったわけじゃないので汗】
【良ければまた開いてね!】

 あぁ……温かいなあ。
 フユアヤのファンのみんなは、とても優しい。

「ありがとう」
「……ありがとう」

 だからこそ、フユはともかく、アヤを好きになってくれたことが、とても不思議で、奇跡のように感じる。
 無意識に微笑んでいると、気になる質問が流れてきた。

「【質問です! 十月下旬まで配信なしということでしたが、圭様との歌ってみたはどうなるのでしょうか?】」

 思わず反射で声に出してから、確かに言ってなかったなと思い出した。

「圭との歌ってみたは、圭のチャンネルでええっと、三日後に通常通りあげられます! みんな! 最高だからほんと聴いて!」
「超いいから、ほんとに」

 自分で言うのも何だが、できたものは、本当に最高だ。それ以外の言葉が見つからないぐらいに、最高。

 アヤとフユ、圭、そして──千くん。
 四人で作り上げたもの。

 自分もいい歌を歌えたと思うし、圭とフユは超〜上手かった。千くんに見せてもらったイラストは思わず息を呑んでしまうほどの綺麗で温かい仕上がり。

 それが合わさって、……思わず俺が泣きそうになったほどだ。それを自信作と言わず何になる。

 自信満々で言うと、コメント欄に【楽しみ】と言う声が溢れた。……ただ、早くみんなに聴いてもらいたいなと思うと同時に、少しばかりの気まずさもあったりする。

 千くんに、好きな人を思い受かべて歌ってと言われて、……フユを思い受かべながら歌ったんだよなあ、俺。

 冬輝は綾斗の“元好きなひと”だし、それに、アヤが好きと言えば、フユしかあり得ないから。

 だからそうやって歌ったものを大勢に聞かれるとなると、どうしても拭えない気恥ずかしさがあるんだけど……まあもうしょうがないか。

「じゃあ、そろそろ配信終わりにします。みんなまたね!」

【まって! 最後にファンサください!】

「ふぁんさ?」

 フユと共に眉を顰める。そんな急に言われても。
 声を上げると、他のファンも乗って、コメント欄がファンサを急かす声でいっぱいになった。
 こ、これは……やらなきゃいけないノリか。

「え、ええと、みんな大好きだよ……?」

 首を傾けながら、語尾に疑問符を残しながら出した、精一杯なファンサの答え。
 これでいいかなとコメント欄を見ると、アヤのファンサに満足している──わけでもなく。

【違うそうじゃない】
【ありがとうだけど違う】
【私なんてどうでもいいんだよ】
【ごめんねそうじゃない】
【違あああああう】

 なんか、大好き全力拒否されてるんですけど!

 あれこれ、振られる流れだった……? 若干なショックを受けながらもフユもやったら、と視線を向ける。
 すると、マイクから顔を離したフユに、何故か不機嫌そうな瞳で捉えられた。
 ……ん?

「アヤ」

 な、何でしょう……。
 指が伸びてきて、俺の前髪を絡め取った。
 そしてくいっと、肩をあげ首を傾げるようなあざとポーズ。

「俺の方が好き?」

 ……ええっと?
 一瞬顔が熱くなり声が詰まりそうになったが、慌てて我にかえる。
 こ、これは配信、そしてフユも親友として訊いてるだけ! 勘違いすんな遠藤綾斗!

「……好きだよ?」

 そして俺も、冬輝の親友で、フユのパートナー!
 言い聞かせながら、素直に頷くと、フユは満足そうな顔をしてマイクの方に戻って行った。

「だって」

【それが聞きたかったあああああ】
【うわああああああああ】
【ありがとう……ありがとう……】
【そして尚、まだ結ばれてない様子】
【いや!!! もう付き合ってるでしょこれは!!!】
【フユ様よく分かってらっしゃる】
【てかもう絶対フユは確信犯】
【声が一ミリも揺らがなかったアヤ様。これは慣れているからですよねそうですよね】
【ありがとう今のを糧に私もテスト頑張ってくるよ】

 こ、これがいいのか……。
 フユもこれを分かっていてやったのか? 動揺しながらも、苦笑いを落とした。そして、口を開く。

「はーい、じゃみんな、またね! 今日も配信来てくれてありがとう!」
「また。今日もありがとう、おやすみ」

 今度こそ配信を切って、俺は息をついた。目を閉じて、深呼吸して、冬輝を見つめる。

 配信が終わった時に訪れる感情は、不思議な高揚感と満足感、安堵感、そして──少しばかりの罪悪感。

 ファンのみんなは、フユアヤの良いところは取り繕わないところ、自然体なところだと言う。
 確かに否定はできない。身の回りで起きたことはなるべくそのまま話しているし、ゲーム実況は躊躇いもなく叫んで、実況者の中でも感情をむき出しにしている方だと自覚している。

 でも、ごめん。俺と冬輝の中に想像しているような特別な関係はないし、好きだと言い合うのも、フユアヤに成り切っている時のみだ。

 所詮、アヤは限りなく綾斗に近いけれど、偽者。そしてそれはきっと、フユも同じ。

 ……なんて言ったら、ファンのみんな泣くかなあ。
 自嘲も含んだ笑みを零していると、冬輝に「綾斗」と名前を呼ばれた。

「はーい、何?」
「早く帰ろう」
「……帰ったら?」
「勉強」
「うわああ……」

 ゲーム実況の名残で感情に任せて叫ぶと、冬輝は気分を悪くした様子もなく不敵に笑った。

「目指すは二人とも学年五十位以内」
「リアルイベントも文化祭もあるのに……?」
「何とかなる」
「たまに出てくるよね冬輝の謎な自信!」

 まあいいけどさ。今度こそ、あはっと明るい笑みを零した。