幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◇

 詳しくというとそれ以上の口外を拒否され、無理やり他の話題に移された。そんな冬輝は珍しく、本気と言うことを突きつけられる。

 ……冬輝に、好きな人、少なくとも気になる人がいるなんて。親友なんだから、言ったっていいじゃんか。

 モヤモヤとした気持ちを抱えながら篠山家に帰宅すると、物音が聞こえたのか、千くんがわざわざ部屋から出てきて出迎えてくれた。

「おかえり、二人とも」
「ただいま」
「ただいまです!」

 何か用事でもあるのだろうか。首を傾げると、思った通り言葉が続けられる。

「圭が、フユアヤに話したいことあるんだって。今時間ある?」

 フユアヤに、圭が?
 何か歌ってみたについてかな。きょとんと二人で顔を見合わせ、とりあえず頷いた。

「はい!」
「了解」
「良かった〜、ありがとうね」

 千くんに返事をしてから、とりあえず手を洗い冬輝の部屋で部屋着に着替える。楽な格好になってから、それぞれパソコンを開いた。圭と千くんの通話している部屋に入る。

『あ、アヤ、フユ! 時間取ってもらっておおきに〜!』
『やほやほ』

 さて、ここからは、俺は綾斗ではなくアヤだ。
 目を一瞬閉じてから、圭たちには見えてないけれど、笑顔を浮かべた。

「いーえ! 圭の声聞けて嬉しい」
『アヤお前なあ……まあええわ、俺もやでって返しとくな一応』
「一応?」
「……圭、それでどうかしたの?」
『ほーらアヤがそないなこと言うから俺が嫉妬された! 千助けてお前の弟声低すぎへん?』
『はは、俺に助けられる力があると思う?』

 フユの思わず凍えてしまうほどの低い声と、圭の言葉を笑いながら流した。

 ……嫉妬か、リアルではあり得ないな。
 でも、今はどちらも冬輝と綾斗ではなく、フユとアヤだから。否定も肯定もできない。
 それよりもっ、と俺は手を叩いた。

「圭、どうしたの? 話って?」
『あぁ、それな』
『圭、これって俺退室した方がいい?』
『いや、聞いてて大丈夫。ほんで……単刀直入に言います』

 圭が、いつもと打って変わって真剣な声色になった。それだけで空気がピリッとして、俺は背筋を伸ばす。

『リアルイベントに参加せぇへんか、フユアヤ』

 りあるいべんと?
 思ってもみなかった言葉で、目を瞬く。

 えっと……それは。
 困惑していると、圭は詳しく説明を始めてくれた。

『ファンミーティングみたいな感じのやつ。色々な活動者とそのファンが同じところに集まって、ほぼいつも通り実況するだけ』
『どうしてフユアヤが?』
『主催者の方が、フユアヤに前から興味を持っとったらしくてな。俺とコラボしとんのを見て、誘ってこいって脅された』

 お、脅され……はは。
 圭の言い方に苦笑する。でも、そんな結構大きなイベントを開ける方が……フユアヤに興味を持ってくれていたなんて、嬉しい。
 頬を緩ますと、隣のフユが自分のパソコンに身を乗り出した。

「でも俺ら、顔出しNGだけど」
『もちろんそれも把握してるで。だから会場に声と画面を繋ぐだけでええ。でも、顔合わせとか電波の問題とかあるさけ、会場には来て欲しいって。交通費もこちら持ちやから安心して』

 淡々と告げる圭に、当然だが本気なのだと感じる。

 リアイベ、ファンミか。

 そういうものが存在するのは知っていたし、フユアヤもいつか出来たらいいなと少しの願望を抱いていた。
 でも、それは成人してからの話で……。

「何日?」
『十月二十四日』
「文化祭のちょうど一週間前か……」
「その前にテストあるよ、アヤ」
「んげっ」

 やば、超忘れてた。
 思わず声をあげ顔をしかめると、リアルでフユと目が合った。しょうがない子を見るような、呆れと少しばかりの甘さを混じった瞳の色。普通の人なら、自分のこと好きなのか? と自惚れても仕方ないような。

 でも。
 ……ち、違う、これは冬輝じゃない。

 フユが見ているのはアヤだから。

 バッとパソコンに向き直り、俺は跳ねた心臓を落ち着かせ思考する。

 テスト明けの最初の休みがリアルイベント、そして一週間後には文化祭か……。
 テスト期間はフユアヤとしての活動も休みにしてるし、それで今まで何とか乗り切ってきた。

 でも、それにリアルイベントが乗っかってくるとなると……。
 冬輝はともかく、俺が赤点を取りかねない。眉を下げ、またフユの方を向きアイコンタクトを取った。

 ……うん。残念だけど、今回は断らせてもらおう。

 言葉にするため息を吸うと、『えっと』と千くんが遠慮がちに口を開いた。

『それって、圭も参加するやつだよね?』
『もちろん』
『てことはつまり……圭にリアルで会える、ってこと?』

 え。目を瞬くと、あっけないほどに圭は軽く頷く。

『まあ、そうやな』

 そ、そうか、リアルイベントだから会えるのか……圭と、会える。
 え、それは、会いたい……。
 魅力的な条件に断ろうとした気持ちが揺らぐ。でもな、テストと文化祭がな……。迷っていると、フユが、

「やります」

 即答した。
 え、あ、……ん?

『ほんまか!?』
「俺ら勉強もクラスのこともあるんで、準備とかあまり協力できないことを理解してくれるのなら。あと親に許可取れたら、で」
『もちろん。言っとくわ』
「それと、リアルイベント、俺らだけじゃ心細いから……千兄、連れて行っていいですか」
『え、俺っ?』
『それこそもっちろん、俺からも主催者に頼んどくわ。俺だって千に会いたいし』
「うん」
『え、あ、け、圭には俺も会いたいというか……その、フユ、さんきゅ』
「ん。じゃ、また」

 フユは退室のボタンを押すと、フリーズしたまま俺まで退室される。
 目の前に伸びてきた腕を眺めながら、俺はハッとフユへ視線を移動させた。

「ふ、フユ……!?」

 俺、いいって言ってない!
 目で訴えると、フユは申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめん」
「う」

 そ、そんな素直に謝られたら、責めれないというか……。
 そもそもフユが俺の意見を聞かずに決めるのは珍しい。彼には彼なりの理由があるのだろうと、息をついた。

「いいよ。てか、俺も圭に会いたかったし」
「うん」
「でも、テストどうしよー!」

 そうだ、一番の問題は、そこ!
 頭を抱えると、フユ──冬輝は笑みを零す。

「やろう、今から。付き合うから」
「い、今、からですかっ」

 一週間前からとかじゃ、……いや。前回一週間前から勉強漬けだった時もギリギリ平均点だったよな、そういえば。
 苦々しい気持ちになってから、俺は覚悟を決め頭を下げた。

「よろしくお願いします、冬輝先生!」
「ん」

 ──さて、テスト、リアルイベント、そして文化祭。
 やると決めたからには、精一杯、頑張ろう!