◆◇◆
今日も母親はピアニストを続けながら、パートを頑張ってくれている。
離婚したのは俺がとても小さい頃だったから、父親のことは記憶にない。それでも、母親と同じ音楽関係、歌手だったことは聞かされていた。
音楽家同士話は合うけれど、それでもお互い音楽が一番らしいのだ。結婚したはいいものもお互いの一番は変わらず、ついに離婚した──らしい。
俺だって、未だに母親の一番になれた気はしない。
それでも、ちゃんと育ててくれるし、それに、
「あ、ふゆ、おかえり〜」
「ただいま。……もう帰ってきて数十分経ってるんだけど」
「あっははめんご、部屋にこもってた」
──冬輝たちに会わせてくれた。
お風呂上がり、髪を拭きながら脱衣所から出ると冬輝と千くんが談笑していた。
ふと、千くんの視線がこちらへ向く。
「あ、あやくんも、おかえり」
少し長い黒髪に、藍色の瞳。それをふわっと揺らせられ、俺は心がほぐされる。
冬輝と同じで、千くん声も顔もいいんだよなあ。
「ただいま、です!」
篠山家は、俺の第二の家みたいだ。
母親はパートやらコンサートやらで家に居ないことが多い。だからその間、小さい頃から俺を篠山家で預かってくれていた。
本当に冬輝の両親のふゆママふゆパパ、千くん、そして冬輝には頭が上がらない。
食費や俺の世話相応のお金は母親が払ってくれているらしいが、それでもやはり足りないのではないか、と。
俺が「フユアヤ」になってお金が欲しいのは、篠山家に恩返ししたいことも理由に含まれる。
本当のお兄ちゃんみたいな存在の千くんに笑い返していたら、冬輝がこちらへ寄ってきた。サッと手に持っていたタオルを奪われ、頭に乗せられる。
「ちゃんと乾かさないと、風邪ひく。……てこれ、言うの何回目だ」
「さー何回目でしょー」
「全く……風邪ひいたらファンの人が悲しむ」
ごめん、わざとだよ。
冬輝に甘えたいから。──なんて、これは恋じゃなくて、友情でも……有り得るよな?
少し心に影がかかり、こういう時俺は、「アヤ」の人格に逃げる。
一瞬目を閉じてから、微笑んだ。
「フユはファン想いだよな、ほんとに」
「……それはアヤもだろ」
「そりゃあもう、アヤを好きになってくれた人はみんな大好きですから」
「……」
「あ、嫉妬してる?」
「してない」
ふざけるように口に出すと、タオルを持つ手が、少し強張った。
けれど、俺の髪を傷つけないようにタオルを扱う手つきは優しいままで、顔が緩む。
言葉が足りないところや無口なところも確かにあるけれど、冬輝はそれ以上にいつも優しい。
「あ、そういえば、冬輝」
「何?」
「今日さ、……冬輝の布団に潜り込んでいい?」
ちなみに、俺はいつも篠山家にいる時は冬輝の部屋で寝ているから、まず一人にはならない、が。
今日はホラゲーやったから、絶対暗闇の中で眠れない……。
タオルの隙間から冬輝を見上げると、青い瞳と視線が重なる。その瞳が少し見開かれ、……ふいっと逸らされた。
「……いいけど」
「ありがと! まじあのゲーム怖すぎた」
「眠くなるまで企画の案出しでもする?」
「いいねそれ! やろー!」
笑い合っていると、ずっとこちらを見ていた千くんは呆れたように息をつき、
「ちゃんと睡眠は取ってネー」
何故か微妙なカタコトで、そう呟いた。
今日も母親はピアニストを続けながら、パートを頑張ってくれている。
離婚したのは俺がとても小さい頃だったから、父親のことは記憶にない。それでも、母親と同じ音楽関係、歌手だったことは聞かされていた。
音楽家同士話は合うけれど、それでもお互い音楽が一番らしいのだ。結婚したはいいものもお互いの一番は変わらず、ついに離婚した──らしい。
俺だって、未だに母親の一番になれた気はしない。
それでも、ちゃんと育ててくれるし、それに、
「あ、ふゆ、おかえり〜」
「ただいま。……もう帰ってきて数十分経ってるんだけど」
「あっははめんご、部屋にこもってた」
──冬輝たちに会わせてくれた。
お風呂上がり、髪を拭きながら脱衣所から出ると冬輝と千くんが談笑していた。
ふと、千くんの視線がこちらへ向く。
「あ、あやくんも、おかえり」
少し長い黒髪に、藍色の瞳。それをふわっと揺らせられ、俺は心がほぐされる。
冬輝と同じで、千くん声も顔もいいんだよなあ。
「ただいま、です!」
篠山家は、俺の第二の家みたいだ。
母親はパートやらコンサートやらで家に居ないことが多い。だからその間、小さい頃から俺を篠山家で預かってくれていた。
本当に冬輝の両親のふゆママふゆパパ、千くん、そして冬輝には頭が上がらない。
食費や俺の世話相応のお金は母親が払ってくれているらしいが、それでもやはり足りないのではないか、と。
俺が「フユアヤ」になってお金が欲しいのは、篠山家に恩返ししたいことも理由に含まれる。
本当のお兄ちゃんみたいな存在の千くんに笑い返していたら、冬輝がこちらへ寄ってきた。サッと手に持っていたタオルを奪われ、頭に乗せられる。
「ちゃんと乾かさないと、風邪ひく。……てこれ、言うの何回目だ」
「さー何回目でしょー」
「全く……風邪ひいたらファンの人が悲しむ」
ごめん、わざとだよ。
冬輝に甘えたいから。──なんて、これは恋じゃなくて、友情でも……有り得るよな?
少し心に影がかかり、こういう時俺は、「アヤ」の人格に逃げる。
一瞬目を閉じてから、微笑んだ。
「フユはファン想いだよな、ほんとに」
「……それはアヤもだろ」
「そりゃあもう、アヤを好きになってくれた人はみんな大好きですから」
「……」
「あ、嫉妬してる?」
「してない」
ふざけるように口に出すと、タオルを持つ手が、少し強張った。
けれど、俺の髪を傷つけないようにタオルを扱う手つきは優しいままで、顔が緩む。
言葉が足りないところや無口なところも確かにあるけれど、冬輝はそれ以上にいつも優しい。
「あ、そういえば、冬輝」
「何?」
「今日さ、……冬輝の布団に潜り込んでいい?」
ちなみに、俺はいつも篠山家にいる時は冬輝の部屋で寝ているから、まず一人にはならない、が。
今日はホラゲーやったから、絶対暗闇の中で眠れない……。
タオルの隙間から冬輝を見上げると、青い瞳と視線が重なる。その瞳が少し見開かれ、……ふいっと逸らされた。
「……いいけど」
「ありがと! まじあのゲーム怖すぎた」
「眠くなるまで企画の案出しでもする?」
「いいねそれ! やろー!」
笑い合っていると、ずっとこちらを見ていた千くんは呆れたように息をつき、
「ちゃんと睡眠は取ってネー」
何故か微妙なカタコトで、そう呟いた。
