幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ︎︎◇

 一旦あやくんの歌の後に会話は挟まず、続けてふゆの歌を聴き終わり。
 俺は複雑な感情で腕を組んだ。

 うーん……何ていうか、えーと。

『微妙』

 包み隠さず言いましたね圭サン。

 でも、言いたいことは分かる、ていうか的確な感想だ。微妙、その一言に尽きる。

 詳しく言えば、聴けなくはないし歌も上手い方の部類なんだけど、もう一回聴きたい、とはならないというか……。

 圭に負けず劣らずどちらもいい声なのに、何故だろう。フユアヤの人を惹きつける魅力が上手いことに殺されている気がする。

 これじゃ、世間に出せないな……。
 何とか直したいけれどどこが悪いのか分からず難しい顔になっていると、ふゆあやも気分を害した様子もなくこくこくと頷いた。

「そうなんです、なんか、納得いかないと言うか」
「しっくりこないんだよな……」
『難しいなー、けど』

 唸ったあと、今日の先生、もとい圭はポツンと呟いた。

『無機質、かも』
「「「無機質」」」

 口の中で転がし繰り返す。無機質、無機質──あぁ!
 何となく腑に落ちた気がする、なるほど。客観的に聴いていた自分は納得できたけど、本人たちは気づいてないようで、不思議そうに目を瞬いていた。
 あやくんが、真剣な顔でタブレットの方に身を乗り出す。

「詳しく説明求めます、圭先生」
『任せとき〜。ええと、無機質っちゅうのは何ていうの、バッサリ言わせてもらうと感情がこもってへんというか……歌をただの歌だと思って歌ってるんちゃうかな、と』
「え、歌は歌じゃないの?」
『俺が歌う時に気をつけてるのは、その歌詞や曲の感情を読み取って成り切ること。ラブソングなら目の前に好きな人がおるように、青春ソングなら高校生に戻った時みたいに。情景を思い浮かべると、感情がこもりやすいで』

 情景……か、なるほど。
 さすがプロ歌い手だ、アドバイスがためになる。
 口元に指を当て考えるような仕草をしていたふゆが、ふと口を開いた。

「曲を一つの物語だと思うみたいな?」
『そう、そないな感じ!』
「な、なるほど……!? えぇでも、難しいな」

 あやくんはまだ何となくしっくり来てない様子だ。まあもう一度歌ってみた方が早いだろうと、俺はマウスに手を置く。

 次は……ラブソングか。
 片思いを繊細に甘酸っぱく描いた曲。確か、十年代を中心に共感を集めて昨年ぐらいにヒットしていた曲だ。
 俺は顔をあげ、あやくんを見つめた。

「あやくん。好きな人を思い浮かべて歌ってみて」
「え」

 声を上げたのは何故かふゆの方だった。……あぁ、ふゆは知らないもんね、あやくんに想い人がいるってこと。

 圭はきっともう気づいている。想われてる本人だけ気づいてないとか少し気の毒だな、なんて。目を細め、口にカーブを描き笑いかけてみた。あやくんは驚いたように目を瞬くと、俺にふゆへの恋心をバレてることに気づいたのか、顔を赤らめる。

 そのあと、チラっと想い人──ふゆへ視線を移した。

 大きな赤い瞳がぼんやりと熱を帯びる。きゅ、と唇が引き結ばれる。雰囲気が甘く柔らかになる。
 思わずゆっくり目を見開くと、あやくんはまた俺の方を見た。

「やってみます!」

 まだ甘美な雰囲気を残した、綺麗な瞳。

「……うん」

 その姿を見失わない間に。俺は素早く再生ボタンを押した。