あーあ、またフォロワー増えとる。
超勢いすごいやんな、フユアヤ。俺はふーっと息をつきチェアに寄りかかった。
これならフォロワー数追い越されるのも時間の問題か。人が精一杯積み上げてきたのをあっという間に……。
「若いって怖〜」
まあと言うても数歳差やけどな。でも未成年と成人で結構変わるし、成人済みだと年齢なんか武器にできひんし。
大学二年生、空山蛍。……一応二つ名「圭」、歌い手をやっとる。昔から歌うことが人一倍好きで、試しに初めてみたら自分には歌い手っちゅうものがすごく合っていることに気づいた。
せやけど、最近は伸び悩んでばっかりや……。
はあっと息をつきスマホを取った。そしていつも愛用しているアプリを開く。
ええと、俺が前「俺にやってほしいこと教えて」と呟いた時のは……。
リプ欄にずらっとファンのリクエストが並んだ。俺、「圭」は表面上歌い手なので歌ってほしい曲についてのリプが圧倒的に多いわ、と眺めていると。
【良ければフユアヤという活動者とコラボをしてほしいです! 特にアヤくんという活動者と圭くんは気が合うかと……!】
……へえ。
フユアヤとコラボか。勝手にライバル視してたから、その発想はなかったわ。確かに俺もゲーム実況はたまにしてるし、あり……か。
でもわざわざ連絡取るのだるいな。そもそもあっち、多分俺のこと知らへんし。
なしやな。スクロールしようとして、一つのことを発見し「げ」と指を止めた。
……このリプ、千いいね掻っ攫ってやがる。
俺の呟きと誤差とちゃうかコラ。本家追い越そうとしてどないする。
でも、それだけ望んどる人がおるってことだよな。んー、と再び頭を捻らせた。
フユアヤとコラボしたら俺も伸びるかもしれへんし、あっちのファンに知ってもらうチャンスやし……でもフユアヤコラボ受け付けてんのか?
あーやばい。やっぱ無理。めんどくさい。
却下、とスクロールしようとして、今度はモニターの方から通知音が響いた。
次々となんなんだよもう!
力任せにスマホを閉じ、モニターを見ると、友人……と呼んでいいのか分からへん顔見知りからメッセージが来ていた。
【今って作業通話できたりする?】
作業通話か、まあちょうどこれから動画編集しようと思とったし。
【できるで】
【あざす】
早速相手と通話を繋ぐと、『こんちは〜』と気の抜けるふにゃっとした声が飛んできた。
今日もいつも通りやな、コイツは……。
呆れて半目になる。まそのノリ、嫌いとちゃうけど。
「もうこんばんはの時間やねん、千」
『細かいなあ〜。久しぶりの通話を楽しもーよ圭』
「三日ぶりな?」
『あは、俺は圭が好きだから一秒でも一緒にいたいの』
「で、本音は」
『ねえ新しい依頼ちょうだい』
──イラストレーター、千。
最初は俺がコイツにイラストを依頼をしたのが始まりやった。依頼をしていくうちに仲良くなり、今はこうして作業通話をする仲だ。
……それでも俺は千の本名を知らへん。あっちも俺の本名を知らへんし、下手すりゃ年齢すら教えてないかもしれない。
どちらかがアカウントを削除してしまえば、すぐ切れる関係。だから手放しで友人とは言われへん。
「な、千?」
『なーに?』
俺らってもう友達なんやろか。なんて言いかけた言葉は、慌てて飲み込んだ。
ダメだ、からかわれる未来しか見えへん。この距離感が心地よいのだから、わざわざ自分で壊しにいかない方がええに決まっている。
咳払いをし、なんでもないと誤魔化すと問い詰めてくることが目に見えていたので、違う話題を出した。
「そういえばお前、フユアヤのイラストも描いとったよな」
それもフユアヤの初イラストなので、超重要なキャラデザから担当している。そもそも俺がフユアヤを知るきっかけになったのもコイツや。
思い出して、ふと聞いてみた。千の『そだよ』という軽い相槌が返ってくる。
『てか俺フユの兄』
「……は?」
サラッと言うたらあかん言葉が聞こえたような?
兄。あに、アニ、兄、……お兄ちゃん?
はあっ!? 叫ぶと、千はケラケラと笑った。
『言ってなかったっけ?』
「ま、全く知らなかったわぼけ……」
まさかライバル視をしていた奴の身内がこんな近くにおるとは。改めて世界は、そして特にこの界隈は狭い。
力が抜けてチェアに身体を預けた。
『で、なんで? 圭がフユアヤの話するの珍しくない?』
「いや……あわよくばコラボとかできひんかな、って思ってて」
『わーお。いいじゃんコラボ。圭×フユアヤ? カオス〜』
「すると決まったわけちゃうし、連絡すんのだるいし」
本気で出来ると思ってへん。投げやりに言うと、ヘッドホンからくすっと笑う声が直に届いた。
コイツ、絵だけやなく声もええんやよな。
『俺から持ちかけてみようか?』
「え?」
絶対イラストレーター系活動者やったら伸びる。そんなことを考えていた所為で、千の言葉に反応するのが遅れた。
持ちかける。誰に、何を。話の流れ的に、フユアヤのコラボの話しかないか……って。
「そないなことできんの!?」
『もち。俺はフユの兄兼フユアヤの親よ? 逆にできないとでも?』
「そら……そうか」
千という仲介役を使った方がコラボは圧倒的に実現しやすい。とてもありがたい申し出だ。
……でもそれは、コラボを絶対したい! と言う事情があった時のみ。
俺は別に絶対したいわけやない。そして現役高校生陽キャ男子二人とすぐ仲良くなれるようなコミュ力も持ち合わせていない、包み隠さず言うとコラボの準備をするのもめんどくさい。
よし。やっぱりなしや、断ろう。
「すまん千、ありがたいけど──」
『え? なに? もうメッセージ送っちゃったけど』
「え?」
『え?』
分かりきっとるけれど、聞かずにはいられない。
「誰……に?」
『もちろんフユに』
「ですよね」
早すぎんだろが、なあ千行動に移す前に本人の意見を少しぐらいは聞こか?
どないしよと口が引きつる。でも送ってしもうたのだからやっぱ無理とは言われへんし、……あ、せや。
相手は高校生だ。普段の活動に勉強に加えコラボなんてやる余裕ないはず。
結局断れるのがオチや。あとは申し訳なく(する千の姿はあまり思い浮かべへんが)断られたと言う千にさも残念そうに俺が答えるのみ。
そんな未来が想像できて、少し余裕が戻ってくる。
『あ、そうそう、聞きたいこと! 圭から──プロ歌い手から見て、あの「フユアヤ」ってビジネスに見える? それともマジ?』
チェアに寄りかかっていた身体を復活させると、そんな言葉が間髪入れずに飛んできた。
千の声がいつも以上に高い。……面白がられとるな、これ。
モニターの隣に置いていた水を飲んでから、「ん〜」と考えている風の声を出した。
フユアヤが、そっち系で人気なことはもちろん把握している。あの声にビジュ(イラストやけど)、ほんで何よりあの距離の近さ。こりゃそういうファンがついてもしゃあないと納得した覚えがある。
そして今聞かれとるのはあの仲良しはビジネスなのかガチなのか。いっぺんは考えたことがあるものや。高校生でこれが人気だと当て見事ファンを獲得していて凄いなと思っていたが、……なるほど。裏で千が兄として先輩としてそう手引きしていたのなら腑に落ちる。
「ビジネスやろ?」
なんてことのないように言い切った。流石に「どうせ」をつけるのは失礼かと思い言葉にしなかったが、トーンできっとバレバレだ。
千は沈黙する。そして、『ふはっ』と子供っぽい笑みを漏らした。
『それは話してみてからのお楽しみ』
語尾にハートが見えてきそうな甘い声。やっぱこいつ声ええな。
「そ?」
別にビジネスでやっとる奴なんてこの界隈にはなんぼでもいる。だから悪い事ではないのに。
──もったいぶる千に、この先にドッキリを仕掛けた幼子のように笑う千に、少しだけ違和感を持った。
超勢いすごいやんな、フユアヤ。俺はふーっと息をつきチェアに寄りかかった。
これならフォロワー数追い越されるのも時間の問題か。人が精一杯積み上げてきたのをあっという間に……。
「若いって怖〜」
まあと言うても数歳差やけどな。でも未成年と成人で結構変わるし、成人済みだと年齢なんか武器にできひんし。
大学二年生、空山蛍。……一応二つ名「圭」、歌い手をやっとる。昔から歌うことが人一倍好きで、試しに初めてみたら自分には歌い手っちゅうものがすごく合っていることに気づいた。
せやけど、最近は伸び悩んでばっかりや……。
はあっと息をつきスマホを取った。そしていつも愛用しているアプリを開く。
ええと、俺が前「俺にやってほしいこと教えて」と呟いた時のは……。
リプ欄にずらっとファンのリクエストが並んだ。俺、「圭」は表面上歌い手なので歌ってほしい曲についてのリプが圧倒的に多いわ、と眺めていると。
【良ければフユアヤという活動者とコラボをしてほしいです! 特にアヤくんという活動者と圭くんは気が合うかと……!】
……へえ。
フユアヤとコラボか。勝手にライバル視してたから、その発想はなかったわ。確かに俺もゲーム実況はたまにしてるし、あり……か。
でもわざわざ連絡取るのだるいな。そもそもあっち、多分俺のこと知らへんし。
なしやな。スクロールしようとして、一つのことを発見し「げ」と指を止めた。
……このリプ、千いいね掻っ攫ってやがる。
俺の呟きと誤差とちゃうかコラ。本家追い越そうとしてどないする。
でも、それだけ望んどる人がおるってことだよな。んー、と再び頭を捻らせた。
フユアヤとコラボしたら俺も伸びるかもしれへんし、あっちのファンに知ってもらうチャンスやし……でもフユアヤコラボ受け付けてんのか?
あーやばい。やっぱ無理。めんどくさい。
却下、とスクロールしようとして、今度はモニターの方から通知音が響いた。
次々となんなんだよもう!
力任せにスマホを閉じ、モニターを見ると、友人……と呼んでいいのか分からへん顔見知りからメッセージが来ていた。
【今って作業通話できたりする?】
作業通話か、まあちょうどこれから動画編集しようと思とったし。
【できるで】
【あざす】
早速相手と通話を繋ぐと、『こんちは〜』と気の抜けるふにゃっとした声が飛んできた。
今日もいつも通りやな、コイツは……。
呆れて半目になる。まそのノリ、嫌いとちゃうけど。
「もうこんばんはの時間やねん、千」
『細かいなあ〜。久しぶりの通話を楽しもーよ圭』
「三日ぶりな?」
『あは、俺は圭が好きだから一秒でも一緒にいたいの』
「で、本音は」
『ねえ新しい依頼ちょうだい』
──イラストレーター、千。
最初は俺がコイツにイラストを依頼をしたのが始まりやった。依頼をしていくうちに仲良くなり、今はこうして作業通話をする仲だ。
……それでも俺は千の本名を知らへん。あっちも俺の本名を知らへんし、下手すりゃ年齢すら教えてないかもしれない。
どちらかがアカウントを削除してしまえば、すぐ切れる関係。だから手放しで友人とは言われへん。
「な、千?」
『なーに?』
俺らってもう友達なんやろか。なんて言いかけた言葉は、慌てて飲み込んだ。
ダメだ、からかわれる未来しか見えへん。この距離感が心地よいのだから、わざわざ自分で壊しにいかない方がええに決まっている。
咳払いをし、なんでもないと誤魔化すと問い詰めてくることが目に見えていたので、違う話題を出した。
「そういえばお前、フユアヤのイラストも描いとったよな」
それもフユアヤの初イラストなので、超重要なキャラデザから担当している。そもそも俺がフユアヤを知るきっかけになったのもコイツや。
思い出して、ふと聞いてみた。千の『そだよ』という軽い相槌が返ってくる。
『てか俺フユの兄』
「……は?」
サラッと言うたらあかん言葉が聞こえたような?
兄。あに、アニ、兄、……お兄ちゃん?
はあっ!? 叫ぶと、千はケラケラと笑った。
『言ってなかったっけ?』
「ま、全く知らなかったわぼけ……」
まさかライバル視をしていた奴の身内がこんな近くにおるとは。改めて世界は、そして特にこの界隈は狭い。
力が抜けてチェアに身体を預けた。
『で、なんで? 圭がフユアヤの話するの珍しくない?』
「いや……あわよくばコラボとかできひんかな、って思ってて」
『わーお。いいじゃんコラボ。圭×フユアヤ? カオス〜』
「すると決まったわけちゃうし、連絡すんのだるいし」
本気で出来ると思ってへん。投げやりに言うと、ヘッドホンからくすっと笑う声が直に届いた。
コイツ、絵だけやなく声もええんやよな。
『俺から持ちかけてみようか?』
「え?」
絶対イラストレーター系活動者やったら伸びる。そんなことを考えていた所為で、千の言葉に反応するのが遅れた。
持ちかける。誰に、何を。話の流れ的に、フユアヤのコラボの話しかないか……って。
「そないなことできんの!?」
『もち。俺はフユの兄兼フユアヤの親よ? 逆にできないとでも?』
「そら……そうか」
千という仲介役を使った方がコラボは圧倒的に実現しやすい。とてもありがたい申し出だ。
……でもそれは、コラボを絶対したい! と言う事情があった時のみ。
俺は別に絶対したいわけやない。そして現役高校生陽キャ男子二人とすぐ仲良くなれるようなコミュ力も持ち合わせていない、包み隠さず言うとコラボの準備をするのもめんどくさい。
よし。やっぱりなしや、断ろう。
「すまん千、ありがたいけど──」
『え? なに? もうメッセージ送っちゃったけど』
「え?」
『え?』
分かりきっとるけれど、聞かずにはいられない。
「誰……に?」
『もちろんフユに』
「ですよね」
早すぎんだろが、なあ千行動に移す前に本人の意見を少しぐらいは聞こか?
どないしよと口が引きつる。でも送ってしもうたのだからやっぱ無理とは言われへんし、……あ、せや。
相手は高校生だ。普段の活動に勉強に加えコラボなんてやる余裕ないはず。
結局断れるのがオチや。あとは申し訳なく(する千の姿はあまり思い浮かべへんが)断られたと言う千にさも残念そうに俺が答えるのみ。
そんな未来が想像できて、少し余裕が戻ってくる。
『あ、そうそう、聞きたいこと! 圭から──プロ歌い手から見て、あの「フユアヤ」ってビジネスに見える? それともマジ?』
チェアに寄りかかっていた身体を復活させると、そんな言葉が間髪入れずに飛んできた。
千の声がいつも以上に高い。……面白がられとるな、これ。
モニターの隣に置いていた水を飲んでから、「ん〜」と考えている風の声を出した。
フユアヤが、そっち系で人気なことはもちろん把握している。あの声にビジュ(イラストやけど)、ほんで何よりあの距離の近さ。こりゃそういうファンがついてもしゃあないと納得した覚えがある。
そして今聞かれとるのはあの仲良しはビジネスなのかガチなのか。いっぺんは考えたことがあるものや。高校生でこれが人気だと当て見事ファンを獲得していて凄いなと思っていたが、……なるほど。裏で千が兄として先輩としてそう手引きしていたのなら腑に落ちる。
「ビジネスやろ?」
なんてことのないように言い切った。流石に「どうせ」をつけるのは失礼かと思い言葉にしなかったが、トーンできっとバレバレだ。
千は沈黙する。そして、『ふはっ』と子供っぽい笑みを漏らした。
『それは話してみてからのお楽しみ』
語尾にハートが見えてきそうな甘い声。やっぱこいつ声ええな。
「そ?」
別にビジネスでやっとる奴なんてこの界隈にはなんぼでもいる。だから悪い事ではないのに。
──もったいぶる千に、この先にドッキリを仕掛けた幼子のように笑う千に、少しだけ違和感を持った。
