幼馴染に恋を拗らせていたら、いつの間にか取り返しのつかないぐらい周りを巻き込んでいたらしい!

 ◇

 さて、結論から言おう。面白かった。

 フユの受け答えは技術が高い。少しユーモアを含み、視聴者が「どうせこんな答えでしょ」なんて思うその斜め上をいく。

 それに元々の声がいいので、たまに笑みを零したり拗ねたりされると、こっちの胸がきゅっと掴まれた感覚に何度か陥った。
 好きとまではいかないが、また聞きに来てもいいかな……なんてうちにさえ思わせてしまう。恐るべし男、フユ。
 ちなみに、正しくは面白かった、ではなく面白い、だ。まだ配信は終わっていない。

『この質問で今日は終わりにしようかな。質問──「フユくんはアヤくんを尊敬していますか」』

 あ、これは。
 予想した通り、フユがその質問を読み上げた瞬間、コメントの量が一気に増えた。

 一時間ぐらい観察してて気づいたが、よっぽど視聴者は「フユアヤ」が好きらしい。

 フユがアヤの名前を呼んだ瞬間、コメントが圧倒的に増える。フユへの質問に当然のようにアヤが出てくる。

 まあ、これなら、ね……。

 苦手意識がある同性カップル売りは、心配していたよりも大丈夫そうだ。フユがそう言う話題を自分で出したことはないからかな。寧ろ視聴者にゴリ推しされてて、少し可哀想だなと思ったり思わなかったり。

『え? うん、もちろん。アヤのことは尊敬してるし』

【してる、し?】
【やっぱり尊敬してるんだ〜】
【し?】
【しが気になる】
【尊敬してるし、なんやー?】

『大好きだよ』

 激しく咳き込んだ。

【え】
【うわ】
【いきなり来た】
【尊い】
【ありがとうございます】
【サラッと言うね】
【これだからフユアヤを推すのはやめられねえ】

 なんの躊躇いもなく、うちの耳に飛び込んできた──温かい柔らかな声。
 驚いたのはその言葉だけじゃない。
 ……この人も、こんな声出すんだ。

『……何、みんな。親友に好きって言っておかしい?』

【おかしくない】
【寧ろもっとください】
【本当にただの親友か?】
【フユアヤ尊い〜】

 少し恥ずかしそうなフユの声を、スマホを、イラストを、まじまじと見つめた。

 知ってる、あの声。
 うちだって、……伊達に三年間片想いしてきてないから。
 悟った。わかった、あの声で。

 本当に好きなんだ。

 ビジネスじゃなく、本気で。
 受け止めた瞬間、胸がいっぱいになる。ぐっと唇を噛む。
 ……何で、そんなに。

『じゃ、今日はここまで──って、なんか一つ気になる質問が流れてきてたな』

 思わずコメントを打っていた。

『「同性を好きになるってどう思いますか」』

 え、……あ。
 読み上げられた。目を見開く。読み上げられてしまった。

『え、……んー?』

 反射で無意識に送ってしまったものだけど、……改めて失礼な質問だ。
 流されるかと思った。てか、何でこの人こんなめんどくさいコメント読んだんだ。返し方次第で、炎上するような危ない質問なのに。
 フユは少しだけ悩んでいた様子だったけど、しばらくして息の吸う音が聞こえた。

『別に好きな人は好きでよくない?』

 え──。

『じゃ、今度こそまたね。今日はありがとう。土曜日はアヤと配信するので、ぜひ聞きにきてください』

 パッと画面が配信終了用らしいものに切り替わった。こ……ここで切るか。
 呆然とスマホを眺める。

『別に好きな人は好きでよくない?』──綺麗事じゃなく本当にそう思ってそうなトーンだった。

 悩んでたように思えた時間は、質問の意図が理解できなかったらだろうか。我ながら、同性愛者(であろう方)には残酷すぎる質問をうちは投げた。

 なのに……あっけなく跳ね返された。

 この人は、アヤが好きなのを誤魔化す気はないし、何も後ろめたさを感じてないんだ。
 理解して、ふ、と何だか一気に気が緩んだ。顔が綻ぶ。

「……やば……」

 結構好きかも、フユ。
 そして、フユと正反対な性格と噂のアヤは、彼が好きなアヤは、どのような人間なのだろうか。アヤと一緒にいるとフユはどのような顔を見せてくれるのだろうか。もっと知りたい。
 あぁ──こうやって、ひとりひとりちゃんと沼らせていくのか。
 完全に乗せられたな。笑いながら立てていたスマホを掴む、と。

『配信終わったー!? 夜ご飯できたって!』
『ん、終わった』
『お疲れ様〜! 見てたけど、超良かった! やっぱ俺もフユ大好きだな』
『……いじってるか、それ』
『本心だって』

 これまだ、……配信切れてなくない?

【え?】
【え笑笑】
【放送事故?】
【アヤくんの声】
【アヤじゃん】
【は?】
【フユアヤ同棲してんの?】
【これ現実?】

『って、コメント欄まだなんか動いて……うわ! ミュートしてないじゃん!?』
『え、ほんとだ』

 アヤらしい人の焦った声と、フユの声を最後に、画面は暗くなった。
 うちはパチパチと目を瞬く。

 え……好きな人と同居してるの、フユ。結構上手くいってるじゃん。てか、もう付き合ってるって可能性もあるのか。
 フユアヤのファンはまだ混乱のさなかだが、うちは初めて見た配信でカミングアウトされたもんでして、驚いたけどあまり動揺はしなかった。

 同居か、いいな。うちも……もう少し、好きな人にアタックにでもしてみようか。
 そんなことを考えていると、電話がかかってきた。ちょうど頭に浮かんでいた相手で、目を見張る。

「もしもし、るり?」
『蒼葉、今の配信見てたー!?』

 取ると、耳元で思いっきり叫ばれた。顔をしかめ、──吹き出す。
 そっか、ここにもいた、フユアヤガチファン。

「うん、見てた。あの二人同居してるの?」
『新情報すぎるよ、一緒に住んでるなんて! でも確かに毎回同じ部屋で配信してたし同居してるって言われても信じれる……てかやっぱりあの二人付き合って、てことは前日の夜ご飯が一緒だったのも服入れ違いで着てたって笑ってたのも全部それでつまり私の推しは付き合ってるってことで』
「る、るりー?」

 こっちの声が聞こえないみたいで、ぶつぶつと呟きだしたるり。うちは笑いを零す。
 最近まで見れなかったるりの新しい一面が見れるの、嬉しいな。
 少し落ち着いてきそうなタイミングで、うちはまた「るり」と声をかけた。

『あっ、う、うん、なに? ごめん……』
「いーよ。……そのさ、お揃いにするとしたら、ネックレスとかどう?」

 裏返らずに、自然と聞けた……と思う。
 ドキドキと心臓が鳴る。あ、フユアヤの色で揃えよう、って話なんだけど、伝わっただろうか。
 不安になっていると、『もちろん!』と明るい声が返ってきた。

『逆にありがとうだよ。ネックレスいいね、今度買いにいこ!』
「う……うんっ」

 珍しく語尾が跳ねた。……良かった。
 頬がゆるむ。フユみたいに躊躇いもなく「大好き」なんて言える日はきっとすごく遠いけど。

 でも、いつか、伝えられたら──いや、伝えるから。

 絶対同居まで追いついてやるから、フユアヤもずっとお幸せに。うちは好きな人とスマホ越しに話しながら、フユアヤのチャンネルをフォローした。