「え、いない?」
「うーん、来てないよ。教室じゃないのかな?」
「……わかりました」
翌日、朝の待ち合わせ場所に優凪がいなかったから連絡をしたがスマホも繋がらない。でも休むときは連絡をするように約束はしたし、先に学校に行ったのかと思い響魚は保健室をのぞく。体調不良で寝込んでいるんじゃないかと思ったからだ。しかし、幸原の言う通り保健室にも優凪はいなかった。
響魚は保健室から去って行く。その足音を聞きながら窓際のベッドのカーテンが開いた。
「良かったの? 市川くん。加瀬くん探してたよ」
「いいんです。僕、ちょっと迷惑かけてたし、彼は部活に専念したほうがきっといいし。だって才能って望んでも手に入るものじゃないじゃないですかあ」
「加瀬くんは市川くんだから大切にしてくれたんじゃないかな」
「部活に熱心になったら忘れます。僕なんて所詮そのくらいの存在だと思うし」
「おいおい、市川くんもそんなに卑屈になる必要ないのになあ」
「できそこないなのは僕も悪いし、そのうち好きなことでも見つけますよ」
最初から救われたいなんて思う方が悪かったのだ。そんなわがまま、望みすぎた。
その日は昼休みも優凪は保健室で過ごして、放課後は響魚は部活に行った。保健室からトラック駆け抜ける響魚が見える。やっぱり、彼が一番速い。まるで風のように、陸上の神様はきっと響魚を愛するのだろう。それくらいの才能は大切にしたほうがいい。
そして優凪はまたひとりになった。これから何を楽しみに生きようか。少なくとも響魚と過ごした放課後は楽しいものだった。でもそれも束の間の夢だ。
それから数日後、朝礼があった。
その日は春にしては暑い日で並んでいるうちに誰かが倒れたとの噂がが走った。その言葉を聞き逃さなかったのは響魚だ。そっと列を抜け出して騒ぎになっているところまで。横たわって幸原に手当てされていたのはやはりあの優凪だった。
「優凪!」
汗だくの割に顔色が悪かった。意識は朦朧としているのか話しかけても反応は鈍い。幸原は慌てて優凪の頬を叩き意識を取り戻させようとする。響魚は動揺していた。
***
「もう、気分が悪いなら早く言いなさいよ、君も」
「まだいけるかな、って思ったんですよお」
「駄目だったじゃない」
「はあ」
保健室でひと眠りしたら軽口も叩けるようになったが、本当は病院に救急搬送するか迷うところだった。今ではへらへらと笑っている優凪だったが、その顔色は悪い。教室に戻るとは言うが何かあったら困るのであと一時間は横になっているか、それとも帰るか。でも迎えの当てのない優凪にはひとりで帰宅するしかなく、それも心配だ。
時刻はちょうど昼休み、幸原が何か買って来てくれるとは言うが、スポーツドリンクを飲みすぎてお腹が空かないという優凪。でも食べたほうがいいのは確かなので、幸原はそのまま出かけて行った。優凪がひとりになった、その時だ。
「おい」
「はーい、あ……」
むすっと不機嫌な響魚が保健室をのぞいている。しまった、カーテンを開けっぱなしにしていたのを忘れていた。
「響魚、くん」
「体調は大丈夫なのか?」
「あ、うん、もう平気」
「……お前、最近俺を避けていたよな?」
「え、いや、そんなことは……」
「嫌いになったのか」
「違う」
「……部活のことか」
庄司にきつく言われて、優凪も考えたのだ。懸命に走る響魚が好きだ、だから……。
「僕のせいで君が走れなくなったらきっとこの先後悔をする。だから、僕は」
しかし響魚はその優凪の言葉を塞いだ。優しい手はあまりにたくましい。
「俺は自分のためだけじゃなくお前のために生きてみたかった それはだめなことか? だから少しでもお前の役に立ちたかったんだよ」
「でも、陸上部の、エース……」
「そんなもの二年の終わりには引退する。結果を残しても終わりは来るんだ。だけどお前とはそれから先もずっと一緒にいたい」
「……っ、ふ」
涙は見せたくなかった、でも響魚があまりに優しいから。優凪の頬を濡らす涙を響魚は黙って拭う、何もあきらめない。部活も優凪も、そばにいるから。
「泣くな」
「泣いてない」
「嘘つけ、お姫さまは嘘が下手だな」
「うーん、来てないよ。教室じゃないのかな?」
「……わかりました」
翌日、朝の待ち合わせ場所に優凪がいなかったから連絡をしたがスマホも繋がらない。でも休むときは連絡をするように約束はしたし、先に学校に行ったのかと思い響魚は保健室をのぞく。体調不良で寝込んでいるんじゃないかと思ったからだ。しかし、幸原の言う通り保健室にも優凪はいなかった。
響魚は保健室から去って行く。その足音を聞きながら窓際のベッドのカーテンが開いた。
「良かったの? 市川くん。加瀬くん探してたよ」
「いいんです。僕、ちょっと迷惑かけてたし、彼は部活に専念したほうがきっといいし。だって才能って望んでも手に入るものじゃないじゃないですかあ」
「加瀬くんは市川くんだから大切にしてくれたんじゃないかな」
「部活に熱心になったら忘れます。僕なんて所詮そのくらいの存在だと思うし」
「おいおい、市川くんもそんなに卑屈になる必要ないのになあ」
「できそこないなのは僕も悪いし、そのうち好きなことでも見つけますよ」
最初から救われたいなんて思う方が悪かったのだ。そんなわがまま、望みすぎた。
その日は昼休みも優凪は保健室で過ごして、放課後は響魚は部活に行った。保健室からトラック駆け抜ける響魚が見える。やっぱり、彼が一番速い。まるで風のように、陸上の神様はきっと響魚を愛するのだろう。それくらいの才能は大切にしたほうがいい。
そして優凪はまたひとりになった。これから何を楽しみに生きようか。少なくとも響魚と過ごした放課後は楽しいものだった。でもそれも束の間の夢だ。
それから数日後、朝礼があった。
その日は春にしては暑い日で並んでいるうちに誰かが倒れたとの噂がが走った。その言葉を聞き逃さなかったのは響魚だ。そっと列を抜け出して騒ぎになっているところまで。横たわって幸原に手当てされていたのはやはりあの優凪だった。
「優凪!」
汗だくの割に顔色が悪かった。意識は朦朧としているのか話しかけても反応は鈍い。幸原は慌てて優凪の頬を叩き意識を取り戻させようとする。響魚は動揺していた。
***
「もう、気分が悪いなら早く言いなさいよ、君も」
「まだいけるかな、って思ったんですよお」
「駄目だったじゃない」
「はあ」
保健室でひと眠りしたら軽口も叩けるようになったが、本当は病院に救急搬送するか迷うところだった。今ではへらへらと笑っている優凪だったが、その顔色は悪い。教室に戻るとは言うが何かあったら困るのであと一時間は横になっているか、それとも帰るか。でも迎えの当てのない優凪にはひとりで帰宅するしかなく、それも心配だ。
時刻はちょうど昼休み、幸原が何か買って来てくれるとは言うが、スポーツドリンクを飲みすぎてお腹が空かないという優凪。でも食べたほうがいいのは確かなので、幸原はそのまま出かけて行った。優凪がひとりになった、その時だ。
「おい」
「はーい、あ……」
むすっと不機嫌な響魚が保健室をのぞいている。しまった、カーテンを開けっぱなしにしていたのを忘れていた。
「響魚、くん」
「体調は大丈夫なのか?」
「あ、うん、もう平気」
「……お前、最近俺を避けていたよな?」
「え、いや、そんなことは……」
「嫌いになったのか」
「違う」
「……部活のことか」
庄司にきつく言われて、優凪も考えたのだ。懸命に走る響魚が好きだ、だから……。
「僕のせいで君が走れなくなったらきっとこの先後悔をする。だから、僕は」
しかし響魚はその優凪の言葉を塞いだ。優しい手はあまりにたくましい。
「俺は自分のためだけじゃなくお前のために生きてみたかった それはだめなことか? だから少しでもお前の役に立ちたかったんだよ」
「でも、陸上部の、エース……」
「そんなもの二年の終わりには引退する。結果を残しても終わりは来るんだ。だけどお前とはそれから先もずっと一緒にいたい」
「……っ、ふ」
涙は見せたくなかった、でも響魚があまりに優しいから。優凪の頬を濡らす涙を響魚は黙って拭う、何もあきらめない。部活も優凪も、そばにいるから。
「泣くな」
「泣いてない」
「嘘つけ、お姫さまは嘘が下手だな」
