優凪と響魚、その距離は日に日に近くなって行く。朝は駅で待ち合わせをして、昼は中庭で共に、放課後は響魚の都合がつくときは一緒に図書室で勉強をした。勉強が遅れがちな優凪のために、放課後の先生は響魚だ。
「響魚くん、英語の……これわかんない」
「教科書のこの例文とか参考になると思う。ここが過去形だってことに気を付けて」
「うーん……」
響魚の言うことは至極適格だ。彼の言うとおりにすれば苦手な英語の問題も解けるのだけれど、いざひとりで解くとなるとそこに至る思考がわからない。そもそもの出来が違うのだろう、響魚は優秀で優凪はできそこない。それを実感してしまえば優凪はなんとなく落ち込んでしまう。もちろん響魚が悪いわけじゃない。
「勉強は大したことない、繰り返して解いていけばいつかは出来るようになるから」
「それは響魚くんが優秀だからでしょ」
「そんなことはない。優凪はやればできる」
「またまたあ」
そうこうしているうちに下校時刻が迫って来る。一通り出ている課題に手を付けて、残りは家で。そうしてふたりが図書室から出たその時だった。
「加瀬!」
ジャージ姿の目つきの悪い生徒、部活を終えたばかりなのか汗をかいている。
「庄司……」
「響魚くん、知り合い?」
「同じ中学だった、部活も一緒なんだ。庄司真実、同級生」
庄司と呼ばれた生徒はじろりと優凪をにらみつける。唐突な悪意に少し後ずさってしまった優凪を無視して彼は響魚にくってかかる。
「お前何日部活休む気だよ、大事な時期なのわかってるだろうが」
「明日は行くよ、用事があったから休んだだけだ。部長には言ってある」
「部長が良いって言うかよ」
「言ったよ、別に俺がそこまで期待されているわけじゃないし」
庄司は納得出来ていない様子だった。しかしここ数日響魚が優凪のそばにいてくれたのは部活がなかったわけじゃなくて、休んだのか。響魚の気遣いに気が付かなかった優凪は眉をひそめる。響魚に部活をさぼらせたかったわけじゃない。
「記録作っといてそれはないだろ? お前に憧れたおれを馬鹿にするつもりか」
「別に部活を軽視してはいない」
「じゃあきちんと毎回出ろよ。おい、もしかしてお前がさぼらせたわけじゃないだろうな」
「え……っ」
じろりと優凪をにらみつける。庄司の怒りの矛先が優凪に向いた。優凪は戸惑い、助けを求めるように響魚の顔を見る。
「やめろ、優凪は悪くない。あくまで部活のことは俺の考えだ」
「そいつをかばうのかよ。知ってるぞ、よく保健室で見るよな。さぼりはてめえのことだけにしとけよ、加瀬を巻き込むな」
「庄司」
響魚がかばってくれているのはわかったが庄司の言葉は優凪の心に響いた。自分が悪い。その都合も考えないで響魚に迷惑をかけてしまった。自己肯定感はもともと高いほうじゃない。
「……明日は来いよ。待ってるからな」
「ああ、わかった」
庄司は優凪をひとにらみして去っていった。すっかり落ち込んで言葉少なになった優凪の頭を響魚は撫でる。
「お前は悪くないからな、気にするな優凪」
「そんなこと言われたって、響魚くん」
「庄司はひときわ部活に熱心なんだよ。でも部活の取り組み方は人それぞれだ」
響魚の手のひらは柔らかだった。だからこそ優凪は責任を感じてしまう。ここのところ響魚を振り回しすぎてしまった。彼が部活でいづらくなったら自分のせいだ。響魚の可能性をこれ以上優凪の都合で台無しにするわけにはいかない。
「響魚くん、英語の……これわかんない」
「教科書のこの例文とか参考になると思う。ここが過去形だってことに気を付けて」
「うーん……」
響魚の言うことは至極適格だ。彼の言うとおりにすれば苦手な英語の問題も解けるのだけれど、いざひとりで解くとなるとそこに至る思考がわからない。そもそもの出来が違うのだろう、響魚は優秀で優凪はできそこない。それを実感してしまえば優凪はなんとなく落ち込んでしまう。もちろん響魚が悪いわけじゃない。
「勉強は大したことない、繰り返して解いていけばいつかは出来るようになるから」
「それは響魚くんが優秀だからでしょ」
「そんなことはない。優凪はやればできる」
「またまたあ」
そうこうしているうちに下校時刻が迫って来る。一通り出ている課題に手を付けて、残りは家で。そうしてふたりが図書室から出たその時だった。
「加瀬!」
ジャージ姿の目つきの悪い生徒、部活を終えたばかりなのか汗をかいている。
「庄司……」
「響魚くん、知り合い?」
「同じ中学だった、部活も一緒なんだ。庄司真実、同級生」
庄司と呼ばれた生徒はじろりと優凪をにらみつける。唐突な悪意に少し後ずさってしまった優凪を無視して彼は響魚にくってかかる。
「お前何日部活休む気だよ、大事な時期なのわかってるだろうが」
「明日は行くよ、用事があったから休んだだけだ。部長には言ってある」
「部長が良いって言うかよ」
「言ったよ、別に俺がそこまで期待されているわけじゃないし」
庄司は納得出来ていない様子だった。しかしここ数日響魚が優凪のそばにいてくれたのは部活がなかったわけじゃなくて、休んだのか。響魚の気遣いに気が付かなかった優凪は眉をひそめる。響魚に部活をさぼらせたかったわけじゃない。
「記録作っといてそれはないだろ? お前に憧れたおれを馬鹿にするつもりか」
「別に部活を軽視してはいない」
「じゃあきちんと毎回出ろよ。おい、もしかしてお前がさぼらせたわけじゃないだろうな」
「え……っ」
じろりと優凪をにらみつける。庄司の怒りの矛先が優凪に向いた。優凪は戸惑い、助けを求めるように響魚の顔を見る。
「やめろ、優凪は悪くない。あくまで部活のことは俺の考えだ」
「そいつをかばうのかよ。知ってるぞ、よく保健室で見るよな。さぼりはてめえのことだけにしとけよ、加瀬を巻き込むな」
「庄司」
響魚がかばってくれているのはわかったが庄司の言葉は優凪の心に響いた。自分が悪い。その都合も考えないで響魚に迷惑をかけてしまった。自己肯定感はもともと高いほうじゃない。
「……明日は来いよ。待ってるからな」
「ああ、わかった」
庄司は優凪をひとにらみして去っていった。すっかり落ち込んで言葉少なになった優凪の頭を響魚は撫でる。
「お前は悪くないからな、気にするな優凪」
「そんなこと言われたって、響魚くん」
「庄司はひときわ部活に熱心なんだよ。でも部活の取り組み方は人それぞれだ」
響魚の手のひらは柔らかだった。だからこそ優凪は責任を感じてしまう。ここのところ響魚を振り回しすぎてしまった。彼が部活でいづらくなったら自分のせいだ。響魚の可能性をこれ以上優凪の都合で台無しにするわけにはいかない。
