病弱少年はいつかお姫さまに

 そう言えば課題を出すために学校に来たのだ。しかし結局保健室で寝込んだまま、熱は全く下がりもせず、優凪は結局放課後まで保健室で過ごしてしまった。放課後、周りからは下校や部活動に勤しむ声が聞こえる。熱い呼吸は速くかすかに揺れながらぼんやりとみえる天井を眺めていると、帰宅の準備を済ませた響魚がやって来た。

「帰ろう」
「……部活は?」
「今日は良い、一緒に帰ろう」

 胸元の空いたシャツのボタンは響魚が整えてくれた。その時透けた浮きたった骨の感触に彼は少し眉をひそめる。あまりに痩せすぎた身体はそばで誰も心配してくれる人がいなかったからだ。上着を着せて、倒れないようにゆっくりと立たせる。そして響魚がふたりぶんの荷物を持って保健室を後にすることに。

「市川くんのこと、よろしくね」
「はい」
「……」

 心配する幸原にふらつく身体で優凪は言葉すら発することも出来なかった。そんな優凪の背中を抱いてふたりは学校を後にする。すぐに息が切れてしまう優凪を響魚は気にして、ゆっくり休みながら駅まで向かった。
 優凪の自宅の最寄り駅は学校から各駅停車で三駅の距離だった。都会の住宅地にある高層マンション、かつては家族で住んでいたが今は広い部屋に優凪ひとりきり。しかしそれを寂しいと思わないくらいには優凪の感覚は麻痺していた。

「ここでいいよ、あとはひとりで帰れるから」

 マンション前でふたりは別れる。何か言いたげな響魚だったがさすがに自宅マンション内にまで勝手に入るわけにもいかず、その場で持っていた荷物を渡す。

「無理するなよ、熱が下がるまでは学校は休め」
「うん、ありがと」
「何かあったら俺に連絡しろ、連絡先は……これ」

 その場で響魚はメモ帳に自分の電話番号を書きなぐった。優凪はそのメモを受け取りポケットに入れる。

「何時でも構わない、すぐに来るから」
「はは、響魚くん心配性?」
「悪いか?」
「……ありがとう」

 優凪がふらつく身体でエントランスに消えて行く。本当はひとりになんてしたくなかった。でも優凪と響魚はまだいつでもそばにいるほどには近くない。納得いかないが仕方がない。響魚はしばらくその場にいたのち、黙って駅の方に引き返した。