病弱少年はいつかお姫さまに

「市川いますか」
「ああ来ているよ、でももうちょっと寝ていたほうがいいかな」

 翌日の優凪は遅刻もせずに学校に来た。しかし二時間目の授業中、ひどい眩暈と寒気で動けなくなりやっぱり今日も保健室へ、そのまま昼休みまで寝込んでいた。凍える身体を布団で温めて少し眠ったが、まだ身体が重い。しかし午後の授業には出なければ、先週も欠席してしまったのだ。

「あれ、響魚くんよくここだってわかったねえ」
「教室のぞいたけどいなかったから。大丈夫か?」
「うん、少しましにはなった」

 保健室の机の上に響魚は購買で買った食品の入っている袋を置く。自身の昼食だろうか。ベッドに腰かける優凪の元へ幸原が来てその額に手を当てた。

「うーん、少し熱ある?」
「さあ、気のせいですよ。次の授業は出ないとやばいから、もう大丈夫」
「私から担当の先生に相談してもいいよ?」
「いや、休んじゃうと授業についていけなくて。小テストもやるって言ってたし」
「まいったねえ……あ、ふたりともこれ飲んでみない?」

 そこで幸原が出したのは三本のミルクティーのパックジュースだった。どこかで見たことあるようなパッケージ、でも有名メーカーではない。

「なんです? これ」
「三号館の一階にある自販機で売ってるミルクティー。あそこでしか買えないものなんだけど、これが密かに濃厚で味わい深くてずっとお気に入りでさ。百円でこの味だよ、でも誰も話題にもしないから……ねえ、飲んでみてよ、本当に美味しいから!」
「香料が強いとかそう言うことではなく?」
「ちゃんと紅茶の味がするの! ダージリン! ミルクもこれまた絶妙に濃厚で」
「えー、パックジュースなんてみんな同じだと思ってた。いただきまーす」

 ストローをさして、ひとくち。確かに香りが強い、人口のものではない紅茶の味だ。ミルクのコクも深く都内でも有名なカフェで飲むものと遜色はない気がする、これが百円。

「美味いな」
「でしょ? 加瀬くんならわかってくれると思ってた!」
「僕にもわかりますよ、これ美味しいです」
「だよね! ずっと誰かに言いたかった!」
「先生たちに飲ませればよかったのに」
「養護教諭は孤独なんだよ、古くからいる先生には相手にされなくてさ」
「なんか色々大変そう……」
「でも君たちに構ってもらえるだけでじゅうぶん救われた気分。大人の世界は厳しいんだ」
「ええーそんなこと言われたら、僕、大人になりたくないなぁ」

 幸原には幸原で何やら事情があるらしい。一方ミルクティーを飲み終わった響魚は購買の袋から中身を出し始めた。パンやおにぎり、しかしひとりぶんにしてはやけに多い気がする。

「優凪、好きなものを食べろ」
「えっ、これって響魚くんのお昼じゃないの?」
「俺も食べる、でもお前も食べるんだよ。いくら食欲がなくても何も食べないのは良くない。おにぎりは梅干し、さっぱりしているから食べやすいぞ」
「響魚くんが先に選んでいいよ」
「お前が食べるんだ、俺はなんでも食べられるから」

 そうは言われても、いざとなるとどれを選んだらいいのかわからないし、しかしそうして戸惑う優凪を幸原は微笑ましいと笑う。

「市川くん、よかったね。加瀬くんに気に入られちゃったみたいで」
「は……」
「仲良しなことはいいことだよ。好きなもの選ばせてもらったら?」
「……じ、じゃあ、おにぎりもらう」
「それだけでいいのか?」
「おかわりはとりあえず食べてから考えるよ」
「わかった」

 響魚の思いやりなのだろうか、その好意に少し困ってしまう。でも悪い感情をもってしてのことじゃないのだろう。まだお互いそこまで知り合っているわけではないのに、響魚は結局優しくしてくれる。この感情は一体なんだ。