病弱少年はいつかお姫さまに

 今年は思えばいろんなことがあった。なんとか受験して高校に入学するが、体調不良は続いていて保健室に行きがち。いじめに遭っているわけではないが孤独だった優凪を救ってくれた響魚。自分の大切なものを捨ててまで優凪のそばにいてくれた響魚は、いまではもう誰よりもかけがえのない大切な存在になった。
 来年はそんな響魚に恩返しができる一年にしたい。彼の夢を応援する、そして叶うことならば優凪自身も夢を見つけること。愛情が執着になってはいけないから、そろそろ自分の人生を歩み始めるのだ。でもそのときはいつでも隣で見守って、優凪と響魚の絆がそこにはある。
 ゴール地点では少しずつ準備が始まっていた。優凪はスポーツドリンクを持って、生徒を待つ。遠くから誰かが走って来る、あのジャージの色は一年生だ。

「響魚くん? あ、いや……」

 響魚、彼を信じている。しかしゴールテープを一位で切ったのは今年のバスケ部のエースだった。スポーツに盛んで全国大会まで行くほどの実力をもった部活動のチームがこの学校にはいくつかあった。優凪はゴールした彼にスポーツドリンクを、響魚じゃないのが残念だったが実力のある生徒が一位になるのは当然だ。
 次々と生徒がゴールしてくる。軒並み運動部だが、なかには部活動に入っていなくても上位をとる生徒も。すでに六位までが決まっていた、あと四人。そのなかに響魚はいるのか。

「市川くん!」

 幸原の声で優凪は振り向いた。もうすぐゴールする生徒の集団の中に響魚の姿がある。響魚はまだ疲れ果ててはいない、限界を感じながら走り続ける。上級生に囲まれても彼はあきらめてはいなかった。

「来た、響魚くん……」

 優凪の姿が見えたのだろうか。きっと苦しいはずなのに響魚はそこから一気にスピードを上げた。そのスピードで集団から一人二人と追い抜いて、まもなく彼は……優凪は胸元につけている響魚の指輪を握り締める。あともう少し、もう少しだから。

「響魚くん! 頑張れー!」

 優凪の目の前を全力で駆け抜けてラストスパート、加瀬響魚、七位でゴール。
 それはこれまでの響魚の才能と努力が実を結んだ瞬間だった。

 ***

「約束だったからな、守るよ」

 庄司は響魚に続き十二位でゴールした。やがて全ての生徒がゴールした後、土手に全員集められて、十位までの入賞者の表彰が行われていた。響魚もその中の一人に。離れたところで優凪は庄司と表彰されている響魚の姿を見守っていた。そこで庄司は荷物の中から大きな紙袋を取り出して、多少ぶっきらぼうな感じで優凪の元へ。

「これ、加瀬に渡しといて。来週の月曜日、放課後に体育倉庫前で。陸上部はマラソン大会の振り返りをするからって伝えておいて」
「これは、上着?」
「今年の陸上部のウインドブレーカーだ。加瀬の分。寒い日が多くなってきたからな、ジャージだけじゃきついだろ」
「響魚くんのものも作ってくれたの?」
「当然だろ、おれだっていつかは戻るって思ってたよ。あいつはやっぱりいまでも陸上部のエースだ、悔しいけどな」
「庄司くんもゴールは上位だったじゃない」
「でも加瀬には勝てなかった、そういうことだ」
「庄司くん……」
「来年は負けねえよ。これで正々堂々と勝負の舞台にお互いが立ったってことだからな。お前も油断するなよ、あいつがいつまでもエースでいられると思ったら大間違いだぞ」

 表彰された響魚は記念の賞状を受け取ってそっと優凪を見た。優凪は響魚を見つめて笑顔で手を振った、響魚も小さく振り返す。そんなふたりのやりとりに気が付いた生徒数人が、お姫さまが……とささやく。響魚のためのお姫さまはずっと彼を信じていた。