これは優凪の左手薬指のサイズの指輪。響魚が優凪にプレゼントしたように、今度は優凪から響魚へ。お互いにおそろいのお守りが出来た。いつでもそばでお互いの心を守る方法。
放課後、響魚は優凪にメッセージを送った。お守りはちゃんと受け取ったと、優凪からの返信は一言、頑張って。その日も響魚はトレーニングがてらに走って帰った。感覚はほぼ戻ってきている。あと少しだ。
その晩、響魚は夢を見た。いざ大会当日、早いペースでトップを走ってはいたが真っ暗な知らない道に出てしまった。ここはどこだ、ゴールは、優凪は。気が付けば自分の前にも後にも誰も走っていない。暗闇の中、響魚は優凪を呼ぶ。しかし優凪は現れることなく、永遠の暗闇を響魚はさまようことになるのだ。
「ひ、……っ、う」
うなされていた気がする、午前三時。何だったんだ、あの夢は。呼吸を整えているうちに、響魚は恐ろしくて仕方がなくなってしまった。この夢が現実になってしまったらどうしよう。いつの間にか知らない道に迷い込んでしまって、十位どころかゴールできるのかも怪しい。
そうしたら約束は、優凪とした約束は……離れて行ってしまうかもしれない。優凪がいなくなったらどうやって生きて行ったらいいのかなんてわからない。それくらい、優凪は響魚にとっての救いだから。
思えばずっと響魚の方が孤独だった。エースだ天才だのと持ち上げられて、常に先頭を走るように強要されていた。周りがみんな敵視している気がする。響魚がいなくなればいいのに。でも響魚はただ走ることを楽しみたかったんだ。他の生徒に交じって、トレーニングのために走った土手の桜のが芽吹いている。そんな些細な幸せを目にしながら、ゴールで待っているのは……。
「優凪」
その瞬間にスマホの優凪の番号をタップしていた。風邪をひいていたと言っていた、こんな時間に出ないかもしれない。しかし三回のコールの後、突然繋がる。
「響魚くん、どうしたの。こんな時間に」
「悪いな、起こしたか?」
「ううん、眠れなくてしばらく起きてたから」
優凪の声が少しかすれている気がする。まだ風邪は酷いのだろうか。しかし電話せずにはいられなかった。この耐え難い不安から救ってくれるのは……。
「あの、指輪ありがとう。随分と指が細いんだな」
「いいえ、響魚くんがたくましすぎるんだよ。当日、身に着けてくれたら嬉しい。僕もゴールまで一緒に走らせてよ」
「一緒、に?」
「うん、一緒に。僕たちはずっともう一緒にいたじゃない。辛いときは一緒、だから響魚くんの一番つらい時に僕はそばに寄り添いたい」
「……俺、頑張るよ」
「僕はゴールでずっと響魚くんが走って来るのを待ってる。何位だって、待ってるからね」
遠いゴールから手を振る優凪。何位だっていい、例え最下位だって優凪は笑顔で迎えてくれるだろう。よく走った、そう言って彼は響魚を抱きしめる。それだけで走った価値は出るんじゃないのか。十位以内を目指す、でもそれより前に響魚は優凪の胸に飛び込みたい、倒れこむなら優凪に抱きしめてもらいたかった。
頑張るから、優凪の元へ。だからどうか名前を呼んでくれ。優凪が待っていてくれるのならきっとどこまでだって行ける。もう怖いものはない。
「おやすみ、優凪。無理しないでよく眠れよ」
「響魚くんも練習はほどほどにね。マラソン大会の日は、何があっても行くから」
そのマラソン大会は、ついに今週末に迫っていた。
放課後、響魚は優凪にメッセージを送った。お守りはちゃんと受け取ったと、優凪からの返信は一言、頑張って。その日も響魚はトレーニングがてらに走って帰った。感覚はほぼ戻ってきている。あと少しだ。
その晩、響魚は夢を見た。いざ大会当日、早いペースでトップを走ってはいたが真っ暗な知らない道に出てしまった。ここはどこだ、ゴールは、優凪は。気が付けば自分の前にも後にも誰も走っていない。暗闇の中、響魚は優凪を呼ぶ。しかし優凪は現れることなく、永遠の暗闇を響魚はさまようことになるのだ。
「ひ、……っ、う」
うなされていた気がする、午前三時。何だったんだ、あの夢は。呼吸を整えているうちに、響魚は恐ろしくて仕方がなくなってしまった。この夢が現実になってしまったらどうしよう。いつの間にか知らない道に迷い込んでしまって、十位どころかゴールできるのかも怪しい。
そうしたら約束は、優凪とした約束は……離れて行ってしまうかもしれない。優凪がいなくなったらどうやって生きて行ったらいいのかなんてわからない。それくらい、優凪は響魚にとっての救いだから。
思えばずっと響魚の方が孤独だった。エースだ天才だのと持ち上げられて、常に先頭を走るように強要されていた。周りがみんな敵視している気がする。響魚がいなくなればいいのに。でも響魚はただ走ることを楽しみたかったんだ。他の生徒に交じって、トレーニングのために走った土手の桜のが芽吹いている。そんな些細な幸せを目にしながら、ゴールで待っているのは……。
「優凪」
その瞬間にスマホの優凪の番号をタップしていた。風邪をひいていたと言っていた、こんな時間に出ないかもしれない。しかし三回のコールの後、突然繋がる。
「響魚くん、どうしたの。こんな時間に」
「悪いな、起こしたか?」
「ううん、眠れなくてしばらく起きてたから」
優凪の声が少しかすれている気がする。まだ風邪は酷いのだろうか。しかし電話せずにはいられなかった。この耐え難い不安から救ってくれるのは……。
「あの、指輪ありがとう。随分と指が細いんだな」
「いいえ、響魚くんがたくましすぎるんだよ。当日、身に着けてくれたら嬉しい。僕もゴールまで一緒に走らせてよ」
「一緒、に?」
「うん、一緒に。僕たちはずっともう一緒にいたじゃない。辛いときは一緒、だから響魚くんの一番つらい時に僕はそばに寄り添いたい」
「……俺、頑張るよ」
「僕はゴールでずっと響魚くんが走って来るのを待ってる。何位だって、待ってるからね」
遠いゴールから手を振る優凪。何位だっていい、例え最下位だって優凪は笑顔で迎えてくれるだろう。よく走った、そう言って彼は響魚を抱きしめる。それだけで走った価値は出るんじゃないのか。十位以内を目指す、でもそれより前に響魚は優凪の胸に飛び込みたい、倒れこむなら優凪に抱きしめてもらいたかった。
頑張るから、優凪の元へ。だからどうか名前を呼んでくれ。優凪が待っていてくれるのならきっとどこまでだって行ける。もう怖いものはない。
「おやすみ、優凪。無理しないでよく眠れよ」
「響魚くんも練習はほどほどにね。マラソン大会の日は、何があっても行くから」
そのマラソン大会は、ついに今週末に迫っていた。
