「あれ、めずらしいね。最近は体調がいいのかと思って安心していたのに」
「季節の変わり目かなあ……眩暈がひどくて」
「ああ、それは困ったね。いいよいいよ、ゆっくりしていきなさい」
朝晩はだいぶ涼しくなった、寒いと凍える日もあるくらいだ。数週間ぶりに訪れた保健室で、優凪は幸原に許可をとっておなじみの窓際のベッドに横になる。午後の授業の最中に教室から抜け出してきたのだ。
朝から調子が悪いなと思っていたが、持ち直すだろうと少し無理をした。このことは響魚には言っていない。ばれたら怒られるだろうか、近頃は優凪と響魚はいつも一緒にいた。
気持ち悪い、目の前がくらくらと回って吐き気がする。いますぐに家に帰りたいけれど、きっとひとりじゃ帰れない。なんて情けないんだろう、もう高校生になって半年も過ぎたのに。
「熱はないみたいだけど、顔色悪いね。吐きそう?」
「……っ、ちょっと」
「袋、渡しておこうか?」
「い、いい……我慢できる……ッ」
「無理しないで、横向いてほら、深呼吸」
幸原の言葉に沿ってゆっくりと深呼吸した。苦しいから吐きたくない、優凪は目をぎゅっと閉じて回る世界を忘れようとした。だけど今度は耳鳴りが酷くて、もうどうしたらいいのかわからない。
「熱はなさそうだけど……困ったね」
ぼんやりとした意識の中、校庭から鳴るホイッスルが聞こえた。どこかのクラスが体育の授業をしているのだろう。
「ああ、加瀬くん走ってるよ」
「え……」
「校庭でさ、体育の授業。加瀬くんのクラスだよ、持久走やってる。やっぱり足速いなあ、フォームも完璧だし多分才能なんだろうね。走る才能が彼にはあるよ」
その才能をつぶしたのは優凪だ。走るために生まれてきた響魚からその才能をいかすチャンスを奪ってしまった。響魚はあれきり部活や走ることに関して何も言おうとはしなかったが、本当はまだその足で校庭を自由に駆けまわりたいのだと思う。誰よりも速いピードで風を切って、それが許される世界が彼にはとても似合っていた。
どうしたらいいのだろう、どうしたら彼をその世界に返してやれるのだろう。響魚が一切優凪を責めないからそれが余計罪悪感を募らせる。彼は走ることに変わる何かを見つけることが出来たのだろうか。優凪のそばにいてくれることは、何よりも嬉しいことだったけれど、果たして響魚はそれで幸せなのか……ああ、わからない。そもそも響魚にとっての幸せって、なんだろう。
「優凪」
「き、響魚くん……?」
「大丈夫か」
気がついたら体育の授業を受けていたはずの響魚がベッドのカーテンを開けていた。制服姿、いつの間に授業が終わったのだろう。どうやら優凪は眠ってしまっていたらしい。響魚は荷物を持っている、もう授業は終わったのか。
「教室行ったらいないし、もしかしてと思って保健室に来たら寝込んでるから……大丈夫か?」
「ちょっと眠ったら、だいぶ落ち着いてきた……」
「そうか、よかった。起き上がれるか? 帰ろう、今日は家まで送るよ」
目と目があったら、少し笑った。そんな響魚は今日も優しい。走り疲れはしなかったのだろうか、体育の授業の持久走は広い校庭を何周もするからなかなかにハードそうだ。優凪は滅多に体育に参加することはなかったが。
「響魚くん……」
「なんだ?」
「ううん、なんでもない」
「季節の変わり目かなあ……眩暈がひどくて」
「ああ、それは困ったね。いいよいいよ、ゆっくりしていきなさい」
朝晩はだいぶ涼しくなった、寒いと凍える日もあるくらいだ。数週間ぶりに訪れた保健室で、優凪は幸原に許可をとっておなじみの窓際のベッドに横になる。午後の授業の最中に教室から抜け出してきたのだ。
朝から調子が悪いなと思っていたが、持ち直すだろうと少し無理をした。このことは響魚には言っていない。ばれたら怒られるだろうか、近頃は優凪と響魚はいつも一緒にいた。
気持ち悪い、目の前がくらくらと回って吐き気がする。いますぐに家に帰りたいけれど、きっとひとりじゃ帰れない。なんて情けないんだろう、もう高校生になって半年も過ぎたのに。
「熱はないみたいだけど、顔色悪いね。吐きそう?」
「……っ、ちょっと」
「袋、渡しておこうか?」
「い、いい……我慢できる……ッ」
「無理しないで、横向いてほら、深呼吸」
幸原の言葉に沿ってゆっくりと深呼吸した。苦しいから吐きたくない、優凪は目をぎゅっと閉じて回る世界を忘れようとした。だけど今度は耳鳴りが酷くて、もうどうしたらいいのかわからない。
「熱はなさそうだけど……困ったね」
ぼんやりとした意識の中、校庭から鳴るホイッスルが聞こえた。どこかのクラスが体育の授業をしているのだろう。
「ああ、加瀬くん走ってるよ」
「え……」
「校庭でさ、体育の授業。加瀬くんのクラスだよ、持久走やってる。やっぱり足速いなあ、フォームも完璧だし多分才能なんだろうね。走る才能が彼にはあるよ」
その才能をつぶしたのは優凪だ。走るために生まれてきた響魚からその才能をいかすチャンスを奪ってしまった。響魚はあれきり部活や走ることに関して何も言おうとはしなかったが、本当はまだその足で校庭を自由に駆けまわりたいのだと思う。誰よりも速いピードで風を切って、それが許される世界が彼にはとても似合っていた。
どうしたらいいのだろう、どうしたら彼をその世界に返してやれるのだろう。響魚が一切優凪を責めないからそれが余計罪悪感を募らせる。彼は走ることに変わる何かを見つけることが出来たのだろうか。優凪のそばにいてくれることは、何よりも嬉しいことだったけれど、果たして響魚はそれで幸せなのか……ああ、わからない。そもそも響魚にとっての幸せって、なんだろう。
「優凪」
「き、響魚くん……?」
「大丈夫か」
気がついたら体育の授業を受けていたはずの響魚がベッドのカーテンを開けていた。制服姿、いつの間に授業が終わったのだろう。どうやら優凪は眠ってしまっていたらしい。響魚は荷物を持っている、もう授業は終わったのか。
「教室行ったらいないし、もしかしてと思って保健室に来たら寝込んでるから……大丈夫か?」
「ちょっと眠ったら、だいぶ落ち着いてきた……」
「そうか、よかった。起き上がれるか? 帰ろう、今日は家まで送るよ」
目と目があったら、少し笑った。そんな響魚は今日も優しい。走り疲れはしなかったのだろうか、体育の授業の持久走は広い校庭を何周もするからなかなかにハードそうだ。優凪は滅多に体育に参加することはなかったが。
「響魚くん……」
「なんだ?」
「ううん、なんでもない」
