病弱少年はいつかお姫さまに

 翌日の放課後、約束通り響魚は病院に向かうことにした。その下校路の途中で陸上部の部員と一緒になる。彼らはちらりと響魚を見て、そして目をそらす。そのなかには庄司が、県大会の代表は彼になったと噂で聞いた。

「今日も部活に出ないのかよ!」

 庄司の言葉に、響魚は黙って会釈するしかない。もう陸上部から響魚の居場所は完全になくなってしまっていた。

「響魚くん」

 病院では待ち遠しそうな表情で優凪が待っていた。起き上がってもいいと許可が出たのか、ベッドが起こしてある。優凪は四人部屋の窓際で、その窓からは綺麗な夕焼けが見えた。ふたり夕陽に照らされて、今日一日の終わりを噛みしめる。

「調子はどうだ?」
「傷の痛みは治まったよ、腫れもそんなにひどくはないって」
「そうか」
「学校はどう? 県大会の代表、そろそろ決まるんだよね?」
「あれは……駄目だった。俺も精いっぱい努力したけど負けたんだ。実力だから仕方がない」
「そっか、残念だったね」

 県大会代表選抜の舞台にも立てなかったとは言えなかった。本当のことを知ったらきっと優凪は自分を責めるだろうと。

「あ、さっき看護師さんから聞いたんだけど、今日の夕食はデザートにりんごゼリーが出るんだって」
「好きだったのか? りんごゼリー」
「病院にひとりでいるとおやつも好きに買いにいけなくて。そろそろ出歩いてもいいとは言われてるんだけど、昨日まではトイレもひとりじゃ行けなかったからさ」
「甘いものも食べたくなるか。俺、明日何か持ってこようか?」
「本当? じゃあみかんの缶詰が食べたいなあ。病院って乾燥してるのかのども乾いちゃって」
「わかった、缶詰な。桃もいるか?」
「あ、食べたーい」

 体調も回復しているようで食欲も見られてよかった。このまま無事優凪が退院出来たらいい。失ってしまったものは決して小さいとは言えなかったが、響魚にとっての何よりは優凪が元気でそばにいることだったから。
 新しい何かはこれから探していこう。走ることよりも楽しいことが、そのうち見つかるかもしれない。将来の夢も、まだ教師の道だって残っている。

 ***

「今週末に退院できるって!」

 数日がたち、放課後見舞いに行くと嬉しそうな顔で優凪が言った。響魚も少しほっとして優凪に笑顔を向ける。優凪の父は仕事で退院に立ち会えないらしいのでその日は響魚が迎えに来ることになった。荷物も多いだろうし、その方が良いだろう。

「響魚くん、迎えに来てくれるのは嬉しいけど部活とか学校は大丈夫なの?」
「大丈夫だ、気にするな。部活はもうしばらく行かなくていいんだ。ほら、県大会の代表には選ばれなかったからさ。俺が行っても仕方ないんだよ」
「ふうん、それはそれで残念だね。部活頑張ってたのに」
「お前の方が大事だ」
「響魚くん……」

 本当は代表はほぼ響魚で決まりのようなものだったのだ。だけど、いまさらそんなことを考えても仕方がない。陸上部は皆、県大会に向けて頑張っている。響魚はそろそろ部室のロッカーから荷物を引き上げてこないといけないなと考えていた。きっともう走ることも無いだろう。響魚が望んでも期待を裏切った形になった部員が許してくれない。しばらくは優凪のそばにいる。家事や食事作りを手伝って、早くまた学校に通えるように。
 面会時間が終わり、帰り道。最寄駅から自宅まで響魚は少し走ってみた。風を正面から受ける感覚、でもすぐに息が切れる。ふと読書でも趣味にしてみようかなと思った。たまにはインドアな趣味もいいかもしれない。