病弱少年はいつかお姫さまに

 季節は夏が訪れていた。
 あれから響魚は部活中心の生活に戻ったが休みの日は必ず優凪の元へ。優凪は響魚が部活が終わるまでいつも保健室で待っていた。すでにふたりは幸原公認の仲だ。

「加瀬くん速いよー、ぐんぐん周りの子抜いている。これは一位だなあ」
「響魚くんだもん、エースだからさ」
「ああ、ゴールした! 新記録じゃない? おーい、おつかれ!」

 幸原の呼び声に手を振って応える響魚。優凪は誇らしい気持ちでいっぱいだ、響魚はやっぱりすごい。そばにいるとき以上にこうして活躍している響魚を見るのが好きだった。

「王子さまは格好いいね」
「王子さま? えっ、響魚くんが。似合わないなあ、王子さまってことは白馬の騎士とか……?」
「はは、でも君たちがあまりにお似合いだからさ。ねえお姫さま?」
「あ……」

 今でも優凪をお姫さまと呼んでいる一部のものがいるというのは気が付いていた。でもそんな生徒は響魚がじろりとにらんで一掃する。おかげで助かるところはあるがそもそも優凪にとってはもとからいい気持ちはしないことだ。

「君は綺麗な顔してるんだから気にしなきゃいいのになあ」
「もう、先生、綺麗なんかじゃないですよーほんと、嫌になっちゃう」

  ***

 響魚が部活を終えて着替えている間、優凪も制服を整えて帰る準備をしていた。しわのよったワイシャツをなおす。最近は優凪の体調不良も落ち着いてきたような気がする。夜も眠れるようになり、顔色もいい。授業の内容にも少しずつついて行けるようになって来た。

「今日は食べたいものはあるのか?」
「玉子焼き」
「弁当に入っている、あの?」
「だめかなあ」
「いや、いいけどそれだけじゃ足りないんじゃないのか」
「甘い玉子焼きが食べたいんだよねえ。近所のスーパー弁当のはしょっぱくて」
「野菜も食べろよ」
「はあい」

 優凪の自宅で響魚は食事を作っていた。誰かに作ってもらったほうが優凪も美味しく食事が出来るだろう。優凪をひとりにしない、響魚はそう決めたんだ。

「これは大根の煮物?」
「薄く味付けしたから食べやすいと思うぞ」
「あ、豚汁もある。響魚くんの作る豚汁好きなんだー」
「多めに作ったから明日の朝も食べるように、米と合わせたら立派な朝ごはんだ」

 湯気のたつ、いい香りの夕食が出来上がった。顔をほころばせる優凪に小さく微笑む響魚。こういった響魚の気遣いも優凪の健康に役立っているのだろう。

「響魚くん、今度さ、お家の方に断って泊りにおいでよーうちはこの通り空いているし、泊りで遊んだらきっと楽しいんじゃない? 朝までゲームとかしようよ。もうすぐ夏休みなんだし」
「……それは、お前の覚悟があるという上での言葉なのか?」

 覚悟、つまりはそう言うことだと。キスもまだだからすっかり油断していた、響魚の向ける視線は友情を超えている。それに気が付いた優凪は思わず口ごもる。それはまだ、ちょっと早い……。

「冗談だ」
「響魚くん……」

 でも響魚はきっと、そんな冗談は言わない。
 響魚は台所の片づけをしに行ってしまった。食事は美味しかったがすっかり味の感じられないものに。友情を超えた時、ふたりの関係は一体どうなってしまうのだろう。
 優凪の心はきっと周りよりもまだ幼いのだ。付き合った人間だっているわけじゃない。
 響魚は過去に誰かいたのだろうか。彼のスペック的にいて間違いない、文武両道の高身長。彼が注目を集めないはずはなかった。