次の日、登校するとまた金井くんはヘルメットの入ったカバンを持っていて。
本当にこれから毎日送る気なのかな、と思う。
何となく申し訳なく思っていると、金井くんと目が合って。ふん、て若干のドヤ顔をするから驚いた。どういう感情だよ、それ。
今日は体育のある日で、男女で分かれて着替える。
僕はまあ、ちょっといろんな目で見られがちなので、トイレに移動して着替える。
そうしたら、もう既に着替えていた金井くんが付いて来るから驚く。今日は驚かされてばっかりだ。
「なに、着替えるだけだよ」
「うん」
会話は、それだけ。
金井くんをちらちら見ながらも、トイレの個室に行くと、金井くんはトイレの入口で立ち止まる。
ああ、もしかして。
見張り役的なことを、しに来てくれた?
そう思うと、顔が熱くなって、動揺して、着替えに手間取った。
金井くんは静かに、待ってくれていた。
今日のお昼は、お弁当とカバンを持って行く。
ちら、と金井くんの視線を受けたけれど、特に何も言われなかった。
今日も別棟の階段に来て、二人並んで座る。
お弁当を開けるとまた梅干しを贈呈される。
なんでいつもくれるんだろう、と思うけれど、好きだし美味しいので一番に食べる。
今日の金井くんはいんげんの胡麻和えを選んだ。和の味付けが好きなのかな、とじっと見る。
そうしたら、またお弁当の蓋を差し出されたので、蓋を催促していると思ったのだと分かって面白かった。
きょと、とする金井くんに、また種を返す。
じっと見られるから、舌をべっと出すと、冷たい顔をされた。じゃあなんでいつも見るんだよ。
金井くんはいつも、先に食べ終わるとお弁当を片付けて、ぼーっとする。
それから、僕が食べ終わって、お弁当を片付けるのを確認してから、寝始める。
僕が食べ終わるのを待たずに寝ても良いのに、毎回待つから律儀だなと思う。
そして今日も寝ようとするから、その頭の下にカバンを滑り込ませた。
「っふ、」
カバンが見事に挟まって、思わず吹き出す。じっと金井くんに見られて、素直に謝った。
「ごめん、いつも腕を枕にしてるから、しんどくないかなと思って」
言いながら、小さな笑いが止まらない。だって本当に綺麗に、ピッタリと挟まったから。
物言いたげな金井くんは尚じっと僕を見た後、そのまま目を閉じる。
一応、カバンにタオルを入れて来たけれど、痛くないかな、と気になる。
でもまたすうすうと穏やかな寝息が聞こえるから、寝られはしたのだなと安心した。
そのまま、膝に頬をついて、金井くんを眺める。
スマホを見て時間を潰したって良いのに、この時間は眠る金井くんを見るのが癒しだった。
好意も好奇も性愛も、何一つ向けて来ない金井くん。
それが若干、寂しくもあるけれど。静かに、真っ直ぐに、大事に、扱われているのは分かる。
だから居心地が悪い、あの空気感が無い。
応えなきゃ、って思う、あの空気感が。
僕の武器である、笑顔を纏わなくても大丈夫だと思える。
だからこの時間が、僕の逃げ場みたいな時間だった。
予鈴が鳴って、金井くんが起きる。
いつもはすぐに起き上がるのに、今日は少しぼーっとしていて珍しかった。
それから枕にしていた僕のカバンを、立ち上がって叩いているから、やっぱり律儀だなと思う。
「ありがとう」
両手で渡して来るから、丁寧、も感想に付け加えた。
放課後、また金井くんが来る。
クラスメイトは「お迎えが来た」って言うから、照れている風の、笑顔を作る。
この距離でお迎えとか言ってたら、バイクできっちり家まで送り届けてもらっていることを知ったら、卒倒するんじゃないか、と思いながら。
「また明日」
「うん、また明日」
避けてくれたクラスメイトの間を抜け、金井くんと駐輪場へ向かう。
金井くんはお昼と放課後以外、話しかけてこない。それ以外の休み時間、僕の周りにクラスメイトが群がっていても、特に止めに来ない。混ざることもしない。
遠慮しているのか、配慮なのか、分からなかったけれど、話すなら金井くんと話していたいなと思う。
実際金井くんと、そんなに話したことが無いし。
けれど、まあ。
クラスメイトとの交流は大事だと思うし、大事にもしてきたので、そこを尊重されているような気もする。
金井くんはどこまでも、僕のことを考えてくれているから。
駐輪場に着くと、またヘルメットを渡してくれる。
今日は一人で被ってみる、と思ったけれど、ヘルメットの開け方が分からずまごついた。
そしたら金井くんが「ここ」って教えてくれて、僕も自力でヘルメットを開くことができた。
「やった」
思わず漏れた言葉は、金井くんの柔らかくなった目元を見て後悔した。悪かったな、初めてなんだよこっちは。
それからまた、肩に掴まってバイクに乗る。
ぎゅ、と金井くんのお腹に手を回すと、その腕をぽんぽん、と叩かれて発進する。
また風を感じて、エンジン音を感じて、振動が、心地よくて。ヘルメットで隠れているから、作った笑顔ではなく、自然と上がる口角を、そのままにしていた。
またしっかり僕の家の前まで送り届けてもらって、ヘルメットを脱いで。返そうとして、ふと思う。
「これ、毎日二つ持つの大変?僕も持つ?」
聞くと、金井くんはぼくをじっと見て、手を、伸ばして来て。
なんだ、撫でられる?と思ったら、頭のてっぺんの髪が一束、反対に向く感覚。
あ、髪を直してくれたのか、と思うと、ヘルメットは今日も回収されてしまう。
「荷物になるからいーよ、ありがとう」
そして、また「入って」と言われて。
荷物になるから、持つよって言ったのにな。
上手く伝えられなかったな、と思う。
けれど促されて、家に入る。
それからエンジン音が遠ざかって、考える。
そっか、僕が金井くんを気遣う様に、金井くんも僕を気遣って、行動してくれていたのかと、ちょっとほっこりしかけて。
でも、
思い出す。
金井くんは、僕が危なっかしいから傍に居てくれているだけなんだ、ってことを。
本当にこれから毎日送る気なのかな、と思う。
何となく申し訳なく思っていると、金井くんと目が合って。ふん、て若干のドヤ顔をするから驚いた。どういう感情だよ、それ。
今日は体育のある日で、男女で分かれて着替える。
僕はまあ、ちょっといろんな目で見られがちなので、トイレに移動して着替える。
そうしたら、もう既に着替えていた金井くんが付いて来るから驚く。今日は驚かされてばっかりだ。
「なに、着替えるだけだよ」
「うん」
会話は、それだけ。
金井くんをちらちら見ながらも、トイレの個室に行くと、金井くんはトイレの入口で立ち止まる。
ああ、もしかして。
見張り役的なことを、しに来てくれた?
そう思うと、顔が熱くなって、動揺して、着替えに手間取った。
金井くんは静かに、待ってくれていた。
今日のお昼は、お弁当とカバンを持って行く。
ちら、と金井くんの視線を受けたけれど、特に何も言われなかった。
今日も別棟の階段に来て、二人並んで座る。
お弁当を開けるとまた梅干しを贈呈される。
なんでいつもくれるんだろう、と思うけれど、好きだし美味しいので一番に食べる。
今日の金井くんはいんげんの胡麻和えを選んだ。和の味付けが好きなのかな、とじっと見る。
そうしたら、またお弁当の蓋を差し出されたので、蓋を催促していると思ったのだと分かって面白かった。
きょと、とする金井くんに、また種を返す。
じっと見られるから、舌をべっと出すと、冷たい顔をされた。じゃあなんでいつも見るんだよ。
金井くんはいつも、先に食べ終わるとお弁当を片付けて、ぼーっとする。
それから、僕が食べ終わって、お弁当を片付けるのを確認してから、寝始める。
僕が食べ終わるのを待たずに寝ても良いのに、毎回待つから律儀だなと思う。
そして今日も寝ようとするから、その頭の下にカバンを滑り込ませた。
「っふ、」
カバンが見事に挟まって、思わず吹き出す。じっと金井くんに見られて、素直に謝った。
「ごめん、いつも腕を枕にしてるから、しんどくないかなと思って」
言いながら、小さな笑いが止まらない。だって本当に綺麗に、ピッタリと挟まったから。
物言いたげな金井くんは尚じっと僕を見た後、そのまま目を閉じる。
一応、カバンにタオルを入れて来たけれど、痛くないかな、と気になる。
でもまたすうすうと穏やかな寝息が聞こえるから、寝られはしたのだなと安心した。
そのまま、膝に頬をついて、金井くんを眺める。
スマホを見て時間を潰したって良いのに、この時間は眠る金井くんを見るのが癒しだった。
好意も好奇も性愛も、何一つ向けて来ない金井くん。
それが若干、寂しくもあるけれど。静かに、真っ直ぐに、大事に、扱われているのは分かる。
だから居心地が悪い、あの空気感が無い。
応えなきゃ、って思う、あの空気感が。
僕の武器である、笑顔を纏わなくても大丈夫だと思える。
だからこの時間が、僕の逃げ場みたいな時間だった。
予鈴が鳴って、金井くんが起きる。
いつもはすぐに起き上がるのに、今日は少しぼーっとしていて珍しかった。
それから枕にしていた僕のカバンを、立ち上がって叩いているから、やっぱり律儀だなと思う。
「ありがとう」
両手で渡して来るから、丁寧、も感想に付け加えた。
放課後、また金井くんが来る。
クラスメイトは「お迎えが来た」って言うから、照れている風の、笑顔を作る。
この距離でお迎えとか言ってたら、バイクできっちり家まで送り届けてもらっていることを知ったら、卒倒するんじゃないか、と思いながら。
「また明日」
「うん、また明日」
避けてくれたクラスメイトの間を抜け、金井くんと駐輪場へ向かう。
金井くんはお昼と放課後以外、話しかけてこない。それ以外の休み時間、僕の周りにクラスメイトが群がっていても、特に止めに来ない。混ざることもしない。
遠慮しているのか、配慮なのか、分からなかったけれど、話すなら金井くんと話していたいなと思う。
実際金井くんと、そんなに話したことが無いし。
けれど、まあ。
クラスメイトとの交流は大事だと思うし、大事にもしてきたので、そこを尊重されているような気もする。
金井くんはどこまでも、僕のことを考えてくれているから。
駐輪場に着くと、またヘルメットを渡してくれる。
今日は一人で被ってみる、と思ったけれど、ヘルメットの開け方が分からずまごついた。
そしたら金井くんが「ここ」って教えてくれて、僕も自力でヘルメットを開くことができた。
「やった」
思わず漏れた言葉は、金井くんの柔らかくなった目元を見て後悔した。悪かったな、初めてなんだよこっちは。
それからまた、肩に掴まってバイクに乗る。
ぎゅ、と金井くんのお腹に手を回すと、その腕をぽんぽん、と叩かれて発進する。
また風を感じて、エンジン音を感じて、振動が、心地よくて。ヘルメットで隠れているから、作った笑顔ではなく、自然と上がる口角を、そのままにしていた。
またしっかり僕の家の前まで送り届けてもらって、ヘルメットを脱いで。返そうとして、ふと思う。
「これ、毎日二つ持つの大変?僕も持つ?」
聞くと、金井くんはぼくをじっと見て、手を、伸ばして来て。
なんだ、撫でられる?と思ったら、頭のてっぺんの髪が一束、反対に向く感覚。
あ、髪を直してくれたのか、と思うと、ヘルメットは今日も回収されてしまう。
「荷物になるからいーよ、ありがとう」
そして、また「入って」と言われて。
荷物になるから、持つよって言ったのにな。
上手く伝えられなかったな、と思う。
けれど促されて、家に入る。
それからエンジン音が遠ざかって、考える。
そっか、僕が金井くんを気遣う様に、金井くんも僕を気遣って、行動してくれていたのかと、ちょっとほっこりしかけて。
でも、
思い出す。
金井くんは、僕が危なっかしいから傍に居てくれているだけなんだ、ってことを。
