実家に帰ってから、いつも通りの光景が、何故か逆に新鮮で不思議な感じだった。
春海とは毎日連絡を取っていて、ずっと、撮った写真を送り合っている。
けれど、三日もすれば物足りなくなってきて。
『会いたい、会うぞ』
『今から行く』
『今何時だと思ってんだ!明日!十時?』
『分かった』
それから、犬がお腹を見せているスタンプが送られてきて。
だから何でだよ、って笑った。
翌朝、約束通り十時に、春海のバイクの音がして。
家を出ると、嬉しそうに笑う春海がそこに居た。
「おはよう」
「おはよ」
今日は隣町の大きな図書館へ行って、自習室を借りる予定だった。
タイミングが合えば、個室も借りられるらしい。
ヘルメットを借りて、春海の後ろに跨る。
ぎゅっと腕を回せば、いつも通り優しく叩かれて、発進した。
春海は迷うこと無く道を進んで、曲がっていく。
そうして着いた図書館は、見上げる程に大きくて驚いた。
「でけ〜〜〜」
「大きいな」
横で同じ様に見上げていた春海も、感心した顔をしている。
それから二人揃って中に入ると、寒いくらいにひんやりと冷えていて心地良かった。
中の案内板通りに進むと、受け付けがあって。
個室は空いているか尋ねると、空いていますよ、とのことで、無事に個室を借りることができた。
個室に二人だとちょっと勉強にならないかもしれない可能性があったが、それでも今日は、どうしても個室が良かった。だから、少し安心する。
教えてもらった通りに進んで行くと、借りた鍵に表示されている番号が描かれた扉に辿り着く。
鍵を開けると、そこは流石にまだクーラーが付いていなくて、少し暑くて。
鍵を締めて、エアコンを付けて、テーブルに荷物を置くと、早々に春海が抱き付いて来るから暴れる。
「お前っはやい」
「だって久々」
「三日かそこらだろ」
「希は余裕だった?」
ぐ、と暴れていた手が止まる。
そのまま離れようとするのに、言うまで離さないぞの圧を感じるから、息を吐く。
「余裕じゃないから、会いたいって言ったんだろ」
「……ふふ」
満足そうに笑う、春海が近付いて来る。
けれど、唇は触れずに、お伺いを立てるように止まるから、俺から、キスをした。
「ん」
三日かそこら、と言ったけれど。
ばあちゃん家で、朝から晩まで、毎日一緒に居たんだ。
そりゃ足りないに決まってる。
会いたかったに、決まっている。
「んっ」
唇を食まれて、舐められて、鼻から声が抜ける。
きつく抱き寄せられて、俺もしがみついて、唇を合わせる。
なっ、なんか、コイツ、進化してる……!!
食まれるタイミングとか、舐められるタイミングとか、ただぶつけてくるだけじゃなくて、俺の、反応を見て動かれていて。
「ん、んっ」
漏れる声が止められない。
息つく暇も無くて苦しい。
それ以上に夢中で、必死にしがみつく。
「はぁっ」
最後にきつく吸われて、漸く離れて行く春海。
へろへろで、崩れそうになっていると、唇の濡れた春海が、自分の唇を、舐めて。
その色気にちょっとキレそうだった。
何処で覚えて来たんだよ。進化し過ぎだろ。
「大丈夫?」
「うるせえ」
余裕そうでむかつく。
軽く胸を叩くと、照れたように笑うから、敵わなかった。
並んで課題を開くと、その量の多さに気が滅入る。
夏休みなのに、休ませる気が全く無い課題の量だった。
答えがないのか真っ先に探すけれど、無い。
そんな俺を見て、春海は穏やかに笑っている。
そうだ、コイツ、勉強が苦じゃないタイプだった。
期末試験に向けて、一緒に自習に励んだ日々のことを思い出す。
ほんの数週間前のことなのに、夏休みに入ってからの記憶が濃すぎて、遠い昔のことの様に思えた。
「やるか」
「うん」
気合を入れて、取り掛かる。
暫く個室には、シャーペンの走る音だけが響いていた。
「だあ!休憩!」
「ふふ、うん」
ドリルのまあまあなページ数を進めたけれど、まだ四分の一にも満たなくて絶望する。
俺は既に疲れ切っているのに、春海は平気そうだから悔しい。
うーんと余裕そうに伸びをしているから、脇腹をつつくと倍返しにされて泣いた。笑いすぎて泣いた。
お昼はお互いおにぎりを握って来ていて、なんとなく交換して食べる。
春海のおにぎりはやっぱり大きくて、ぎゅっと握られていて、重量がある。
俺のはどう見えているんだろうと春海を見ると、「綺麗な三角」って感動していたから、ちょっと嬉しかった。
春海のおにぎりは種の抜かれた梅干しで、俺のはおかかを詰めてきていた。
「美味しい」
「ん、美味い」
お互い交換したおにぎりは直ぐに無くなって、また、課題に取り組む。
暫く集中していたら、カシャ、と音が聞こえて。
「はぁ〜?」
「ふふっ」
人が、一生懸命課題と向き合っているのに。
春海ときたら、俺をスマホのカメラで撮っていやがる。
だから俺もスマホを向けて、連写してやる。
そうしたら狂った様にカシャカシャ音が鳴るから、俺も春海も暫く笑いが止まらなかった。
邪魔をしたりされたりで、漸くドリルが半分ほど終わった頃。
ずっと座っていた身体が疲れて来たので、一旦図書館の中を歩き回ってみることにする。
ここは隣町の図書館だから、そもそも図書館へ行くことが無い俺としてはとても新鮮な場所だった。
「春海は図書館よく行くの」
長い廊下を歩きながら聞くと、春海は首を振る。
「ううん、全然」
「そっか。でも道よく迷わなかったな」
「……調べて来たから」
ちょっと照れている春海に、心臓がきゅっとする。
悔しかったので、春海の二の腕に俺の拳をぐりぐりとねじ込ませた。
よろけたフリをした春海がくすくす笑っていて、ご機嫌で、楽しい。
やっぱり春海と一緒が楽しいなと思う。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、春海に微笑まれて、照れ隠しで緩く肩をぶつけた。
館内は広くて、利用者も沢山居て。
夏休みだから小さい子も多くて、広場の方では読み聞かせもあるみたいだった。
全然知らなかったけれど、いろんな取り組みがあるのだなと感動する。
読み聞かせのお知らせを見ていたら、隣りにいた春海に腕を引かれて。
紙を指差しているから、見れば夏祭りのお知らせだった。
「おお」
開催を、全然知らなかった。
それもその筈、ここは隣町で。
日程を見れば、丁度明日になっていた。なんて良いタイミング。
「……行く?」
春海の問い掛けに、頷く。
「ばあちゃんの浴衣、着るタイミングがもう来たな」
「……ほんとだ」
春海が目をキラキラさせているからかわいい。
俺は、また明日も春海と会えることが嬉しかった。
ちょっと癪なので、言いはしないが。
その後も一通り館内を見て回る。
料理本が沢山並んであって、ばあちゃんと料理した時間を思い出した。
忘れてしまう前に、ばあちゃんの味付けの煮物を再現したいなと思った。
同じことを考えているのか、春海と目が合って笑う。
ばあちゃんと過ごした時間は、本当に、本当に素敵な時間だった。
歩き回って身体が解れたので、また個室に戻る。
一人ならもうとっくに投げ出しているが、一緒に頑張ってくれる春海が居るから、もう少し踏ん張ろうと思える。
黙々と取り組んで、時々話して、集中力が切れると、春海にちょっかいを掛ける。
けれど返り討ちにされるから悔しい。
ばあちゃん家での触れ合いを経て、なのか。
春海のレベルが上がっていて、正直、追い付けていない。
俺の弱点情報を着実に集められている感覚がして焦る。
勝負事ではないが、唯一、勝っていた部分だったのに。
これは特訓が必要だ、と思う。
けど、触れ合いの特訓ってどうやるんだよ。
春海はどうやって進化したんだよ。
夕方にはそのことで頭がいっぱいで、あまり課題が進まなかった。
春海は平気な顔して課題を進めて、一冊まるっと終わらせていたから悔しかった。
上手くいかない時はいろんなことが連動して上手くいかなくなる。
それは春海と付き合うようになって、実感したことの一つだった。
「お疲れ、帰ろう」
ぼーっとしている俺を見て、春海は課題疲れだと思っている。
けれど、そうじゃないと言えば説明をしなくちゃいけなくて。
お前に敵わないから悩んでた、なんて、よく分からないことは言いたくなくて、頷く。
春海もずっと課題と向き合っていて、疲れただろうに。
俺を乗せて、また安全運転で連れ帰ってくれて、何から何まで敵わないなと思う。
本当に、本当は、ずっと、最初から、何一つ敵う部分なんて無かった。
春海とは毎日連絡を取っていて、ずっと、撮った写真を送り合っている。
けれど、三日もすれば物足りなくなってきて。
『会いたい、会うぞ』
『今から行く』
『今何時だと思ってんだ!明日!十時?』
『分かった』
それから、犬がお腹を見せているスタンプが送られてきて。
だから何でだよ、って笑った。
翌朝、約束通り十時に、春海のバイクの音がして。
家を出ると、嬉しそうに笑う春海がそこに居た。
「おはよう」
「おはよ」
今日は隣町の大きな図書館へ行って、自習室を借りる予定だった。
タイミングが合えば、個室も借りられるらしい。
ヘルメットを借りて、春海の後ろに跨る。
ぎゅっと腕を回せば、いつも通り優しく叩かれて、発進した。
春海は迷うこと無く道を進んで、曲がっていく。
そうして着いた図書館は、見上げる程に大きくて驚いた。
「でけ〜〜〜」
「大きいな」
横で同じ様に見上げていた春海も、感心した顔をしている。
それから二人揃って中に入ると、寒いくらいにひんやりと冷えていて心地良かった。
中の案内板通りに進むと、受け付けがあって。
個室は空いているか尋ねると、空いていますよ、とのことで、無事に個室を借りることができた。
個室に二人だとちょっと勉強にならないかもしれない可能性があったが、それでも今日は、どうしても個室が良かった。だから、少し安心する。
教えてもらった通りに進んで行くと、借りた鍵に表示されている番号が描かれた扉に辿り着く。
鍵を開けると、そこは流石にまだクーラーが付いていなくて、少し暑くて。
鍵を締めて、エアコンを付けて、テーブルに荷物を置くと、早々に春海が抱き付いて来るから暴れる。
「お前っはやい」
「だって久々」
「三日かそこらだろ」
「希は余裕だった?」
ぐ、と暴れていた手が止まる。
そのまま離れようとするのに、言うまで離さないぞの圧を感じるから、息を吐く。
「余裕じゃないから、会いたいって言ったんだろ」
「……ふふ」
満足そうに笑う、春海が近付いて来る。
けれど、唇は触れずに、お伺いを立てるように止まるから、俺から、キスをした。
「ん」
三日かそこら、と言ったけれど。
ばあちゃん家で、朝から晩まで、毎日一緒に居たんだ。
そりゃ足りないに決まってる。
会いたかったに、決まっている。
「んっ」
唇を食まれて、舐められて、鼻から声が抜ける。
きつく抱き寄せられて、俺もしがみついて、唇を合わせる。
なっ、なんか、コイツ、進化してる……!!
食まれるタイミングとか、舐められるタイミングとか、ただぶつけてくるだけじゃなくて、俺の、反応を見て動かれていて。
「ん、んっ」
漏れる声が止められない。
息つく暇も無くて苦しい。
それ以上に夢中で、必死にしがみつく。
「はぁっ」
最後にきつく吸われて、漸く離れて行く春海。
へろへろで、崩れそうになっていると、唇の濡れた春海が、自分の唇を、舐めて。
その色気にちょっとキレそうだった。
何処で覚えて来たんだよ。進化し過ぎだろ。
「大丈夫?」
「うるせえ」
余裕そうでむかつく。
軽く胸を叩くと、照れたように笑うから、敵わなかった。
並んで課題を開くと、その量の多さに気が滅入る。
夏休みなのに、休ませる気が全く無い課題の量だった。
答えがないのか真っ先に探すけれど、無い。
そんな俺を見て、春海は穏やかに笑っている。
そうだ、コイツ、勉強が苦じゃないタイプだった。
期末試験に向けて、一緒に自習に励んだ日々のことを思い出す。
ほんの数週間前のことなのに、夏休みに入ってからの記憶が濃すぎて、遠い昔のことの様に思えた。
「やるか」
「うん」
気合を入れて、取り掛かる。
暫く個室には、シャーペンの走る音だけが響いていた。
「だあ!休憩!」
「ふふ、うん」
ドリルのまあまあなページ数を進めたけれど、まだ四分の一にも満たなくて絶望する。
俺は既に疲れ切っているのに、春海は平気そうだから悔しい。
うーんと余裕そうに伸びをしているから、脇腹をつつくと倍返しにされて泣いた。笑いすぎて泣いた。
お昼はお互いおにぎりを握って来ていて、なんとなく交換して食べる。
春海のおにぎりはやっぱり大きくて、ぎゅっと握られていて、重量がある。
俺のはどう見えているんだろうと春海を見ると、「綺麗な三角」って感動していたから、ちょっと嬉しかった。
春海のおにぎりは種の抜かれた梅干しで、俺のはおかかを詰めてきていた。
「美味しい」
「ん、美味い」
お互い交換したおにぎりは直ぐに無くなって、また、課題に取り組む。
暫く集中していたら、カシャ、と音が聞こえて。
「はぁ〜?」
「ふふっ」
人が、一生懸命課題と向き合っているのに。
春海ときたら、俺をスマホのカメラで撮っていやがる。
だから俺もスマホを向けて、連写してやる。
そうしたら狂った様にカシャカシャ音が鳴るから、俺も春海も暫く笑いが止まらなかった。
邪魔をしたりされたりで、漸くドリルが半分ほど終わった頃。
ずっと座っていた身体が疲れて来たので、一旦図書館の中を歩き回ってみることにする。
ここは隣町の図書館だから、そもそも図書館へ行くことが無い俺としてはとても新鮮な場所だった。
「春海は図書館よく行くの」
長い廊下を歩きながら聞くと、春海は首を振る。
「ううん、全然」
「そっか。でも道よく迷わなかったな」
「……調べて来たから」
ちょっと照れている春海に、心臓がきゅっとする。
悔しかったので、春海の二の腕に俺の拳をぐりぐりとねじ込ませた。
よろけたフリをした春海がくすくす笑っていて、ご機嫌で、楽しい。
やっぱり春海と一緒が楽しいなと思う。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、春海に微笑まれて、照れ隠しで緩く肩をぶつけた。
館内は広くて、利用者も沢山居て。
夏休みだから小さい子も多くて、広場の方では読み聞かせもあるみたいだった。
全然知らなかったけれど、いろんな取り組みがあるのだなと感動する。
読み聞かせのお知らせを見ていたら、隣りにいた春海に腕を引かれて。
紙を指差しているから、見れば夏祭りのお知らせだった。
「おお」
開催を、全然知らなかった。
それもその筈、ここは隣町で。
日程を見れば、丁度明日になっていた。なんて良いタイミング。
「……行く?」
春海の問い掛けに、頷く。
「ばあちゃんの浴衣、着るタイミングがもう来たな」
「……ほんとだ」
春海が目をキラキラさせているからかわいい。
俺は、また明日も春海と会えることが嬉しかった。
ちょっと癪なので、言いはしないが。
その後も一通り館内を見て回る。
料理本が沢山並んであって、ばあちゃんと料理した時間を思い出した。
忘れてしまう前に、ばあちゃんの味付けの煮物を再現したいなと思った。
同じことを考えているのか、春海と目が合って笑う。
ばあちゃんと過ごした時間は、本当に、本当に素敵な時間だった。
歩き回って身体が解れたので、また個室に戻る。
一人ならもうとっくに投げ出しているが、一緒に頑張ってくれる春海が居るから、もう少し踏ん張ろうと思える。
黙々と取り組んで、時々話して、集中力が切れると、春海にちょっかいを掛ける。
けれど返り討ちにされるから悔しい。
ばあちゃん家での触れ合いを経て、なのか。
春海のレベルが上がっていて、正直、追い付けていない。
俺の弱点情報を着実に集められている感覚がして焦る。
勝負事ではないが、唯一、勝っていた部分だったのに。
これは特訓が必要だ、と思う。
けど、触れ合いの特訓ってどうやるんだよ。
春海はどうやって進化したんだよ。
夕方にはそのことで頭がいっぱいで、あまり課題が進まなかった。
春海は平気な顔して課題を進めて、一冊まるっと終わらせていたから悔しかった。
上手くいかない時はいろんなことが連動して上手くいかなくなる。
それは春海と付き合うようになって、実感したことの一つだった。
「お疲れ、帰ろう」
ぼーっとしている俺を見て、春海は課題疲れだと思っている。
けれど、そうじゃないと言えば説明をしなくちゃいけなくて。
お前に敵わないから悩んでた、なんて、よく分からないことは言いたくなくて、頷く。
春海もずっと課題と向き合っていて、疲れただろうに。
俺を乗せて、また安全運転で連れ帰ってくれて、何から何まで敵わないなと思う。
本当に、本当は、ずっと、最初から、何一つ敵う部分なんて無かった。
