それから、料理は三人で作ることが定番になった。
ばあちゃんはなるべく説明をしながら作ってくれて、いつもより時間も負担も掛かるだろうけれど、嬉しそうにしていてくれて、有難かった。
今日はかき氷でもしようねぇ、と、ばあちゃんが蔵からかき氷機を出して来てくれて。
俺と春海で一生懸命氷を削って、三人で縁側で食べた。
あの雨は嘘だったかのように、また暑さを増した空が、青々としていた。
次の日は、また川へ遊びに行った。
雨の影響で、水嵩が高ければ帰っておいでねぇと言われていたけれど、そんなに変化は無いように見えたので、春海と浸かって涼む。
浅瀬で横になると、俺の上を川が流れて行くから面白い。
春海は俺の横に座って、影を作って俺を守っていたから、相変わらずの過保護だった。
今日はばあちゃんがずっと貸してくれている麦わら帽子を被っているから、大丈夫なのに。
春海に水を掛けると、覆いかぶさってきて、キスするよって脅される。
いいよって答えたら、ちょっと迷ってから、結局キスしてきたので笑った。
「キス、いつも聞かなくていいのに」
離れて行った春海に言うと、こちらを見た春海に微笑まれる。
「希が、したくない時はしたくないから」
そういうことか、と、その笑顔を眩しく思う。
「俺も聞くようにする」
俺は、いつも聞かずにぶつけていたから。
ちょっと反省していると、春海はきょとんとして、笑う。
「希がしたい時は、俺もしたい時だよ」
「……」
言うようになったな、と思う。
あんなに触れ合いに照れて、逃げていたのに。
「でもキスしたいっておねだりする希は見てみたいかも」
「……調子に、乗るな!」
余裕が出て来すぎではないだろうか。
水を全力で掛けて、頭を物理的に冷やしてやった。
次の日、朝から何やら春海がそわそわとスマホを見ていて。
何だと思っていたら、玄関へ駆けて行き、戻ってくると、その腕には小さな箱を抱えていた。
「何だそれ」
「ふふ」
嬉しそうな春海が、箱を開けていく。
すると中から出てきたのは、
「カメラ?」
「そう、インスタントカメラ、買ったんだ」
何でまた急に、と思ったけれど、あ、と思い至る。
ばあちゃんとの思い出を、収めておく為か。
春海は説明書を見ると、早速触り初めて、俺にカメラを向ける。
じと、と見ていたら、容赦なくシャッターを切るから焦った。
「な、んで今撮るんだよ!」
「え?かわいかったから」
「うるせーーー!」
呆れていたら、またその顔も撮られて、カメラ押さえる。
「おま、もったいねぇ!」
「もっと撮りたい」
「もう撮っただろ!」
「毎秒撮りたい」
ぎゃあぎゃあ争っていたら、笑顔のばあちゃんが現れて、あの笑顔こそ撮るべきだろ、とカメラを押さえていた手を離す。
そしたら春海は俺とばあちゃんを画角に収めて、写真を撮る。
「俺は入れなくていい!」
「え?入れたい」
「貸せっ」
結局、俺がカメラを構えて、春海とばあちゃんを画角に収めて撮ってやると、撮られる気恥ずかしさが伝わった様で、そこから春海は無闇矢鱈にはシャッターを切らなくなった。
けれどその後、俺なんかスマホで良いだろ、と言ったのは、失言だったなと思う。
嬉々として、春海がインスタントカメラとスマホの両手持ちをし始めたので、本当に迂闊だった。
春海のスマホのロック画面と、待受が俺の写真になるのは、それから数秒もしない間の出来事だった。
料理を三人で作っては食べて、川と、スーパーを行き来して。
写真を撮って、撮られて、春海と触れ合う日々。
もうずっとこのままが良い。
一生、このままが良い。
けれど、そろそろ帰らなくてはいけなくて。
最終日、春海と共に、丁寧に写真を撮って回った。
バイクが停められた玄関。
初めて見た縁側。
雑草を一緒に抜いた庭と、
いろんな、夏を満喫できるアイテムが入っていた蔵。
母屋の台所に、大きなスイカを詰め込んだ、冷蔵庫。
顔みたいな模様がある広い和室。
三人で何度もご飯を食べたテーブルに、
三人で採寸をし合った場所。
長い廊下を歩けば、二人で電球を変えたお風呂場があって、ぬるい温度にして二人で浸かった、大きなお風呂。
離れは、もう一生、この光景を覚えていると思う。
俺らがお団子を食べたり、くっついていた和室。
廊下からの光景に、触れ合った寝室。
離れのお風呂も、何度も入らせてもらった。
それから、また川へ行く。
突然現れる森に、道無き道。
木々が開けたと思ったら、泳げる程の広い川があって、ここでも沢山過ごした。
大きな入道雲は今日も見えて、
広い空と、沢山の緑と、時々の家々の黒色。
全部全部、丁寧に見て回って、二人で写真を沢山撮った。
「残り一枚だ」
インスタントカメラを見た春海が、そう言うから。
「ばあちゃんと撮ってやる」
そう、手を差し出す。
少し考えた春海は、首を振ると、笑って。
「三人で撮りたい」
「……分かった」
代わりに、俺はその顔を、スマホで撮った。
「ああ!」
「油断したな」
撮られた春海が、慌ててスマホを出すから、俺は笑ってそのまま逃げる。
写真を沢山撮ったスマホは、熱を持っていて。
それでも、撮るのを止めなかった。
また来たい、と、もう最後かもしれない、が、同じくらいの量、俺たちの思考を占めていたから。
ばあちゃん家に戻ると、ばあちゃんを呼んで、玄関で、三人並んで立つ。
俺と春海は腰を落として、ばあちゃんを挟んで。
「ばあちゃん、ありがとう!」
そう、春海が言うから。
「ありがとう、ばあちゃん」
俺もばあちゃんを見てそう言うと、そこで、シャッターが切られた。
ばあちゃんは擽ったそうに笑っていて、凄くかわいい表情だと思った。
出会えて、本当に良かった。
夜、晩御飯を食べ終えると、ばあちゃんに呼ばれる。
二人揃って広い和室へ行くと、そこには揃いの浴衣が、並んでいて。
「浴衣できたよぉ、着てごらんねぇ」
そう言われて、廊下に出て着替えてみる。
サイズは採寸しただけあって、ピッタリで。
隣を見ると、浴衣が良く似合った春海が居て、少し見蕩れた。
春海もじっと俺を見ていて、多分、同じことを考えている。
気恥ずかしくて先に和室へ戻ると、ばあちゃんは似合う似合うと喜んでくれて、照れる。
「「ありがとう、ばあちゃん」」
俺と春海、声が揃って笑う。
また、最高の思い出が増えた。
翌朝、俺と春海は朝御飯を食べた後、おにぎりを貰って、門に立つ。
「お世話になりました」
「ありがとう、ばあちゃん、また来るね」
「気を付けてなぁ、ありがとうなぁ」
春海が頷いて、ばあちゃんを抱き締める。
見守っていたら、ちょっと泣いているばあちゃんが、俺も力強く抱き締めてくれて、少し貰い泣きをした。
「ありがとう、ばあちゃん。また」
俺の言葉に何度も頷いてくれたばあちゃんと、手を振って、バイクに乗り別れる。
大きな大きな入道雲が、ずっと、ずっと、ミラーに映っていた。
ばあちゃんはなるべく説明をしながら作ってくれて、いつもより時間も負担も掛かるだろうけれど、嬉しそうにしていてくれて、有難かった。
今日はかき氷でもしようねぇ、と、ばあちゃんが蔵からかき氷機を出して来てくれて。
俺と春海で一生懸命氷を削って、三人で縁側で食べた。
あの雨は嘘だったかのように、また暑さを増した空が、青々としていた。
次の日は、また川へ遊びに行った。
雨の影響で、水嵩が高ければ帰っておいでねぇと言われていたけれど、そんなに変化は無いように見えたので、春海と浸かって涼む。
浅瀬で横になると、俺の上を川が流れて行くから面白い。
春海は俺の横に座って、影を作って俺を守っていたから、相変わらずの過保護だった。
今日はばあちゃんがずっと貸してくれている麦わら帽子を被っているから、大丈夫なのに。
春海に水を掛けると、覆いかぶさってきて、キスするよって脅される。
いいよって答えたら、ちょっと迷ってから、結局キスしてきたので笑った。
「キス、いつも聞かなくていいのに」
離れて行った春海に言うと、こちらを見た春海に微笑まれる。
「希が、したくない時はしたくないから」
そういうことか、と、その笑顔を眩しく思う。
「俺も聞くようにする」
俺は、いつも聞かずにぶつけていたから。
ちょっと反省していると、春海はきょとんとして、笑う。
「希がしたい時は、俺もしたい時だよ」
「……」
言うようになったな、と思う。
あんなに触れ合いに照れて、逃げていたのに。
「でもキスしたいっておねだりする希は見てみたいかも」
「……調子に、乗るな!」
余裕が出て来すぎではないだろうか。
水を全力で掛けて、頭を物理的に冷やしてやった。
次の日、朝から何やら春海がそわそわとスマホを見ていて。
何だと思っていたら、玄関へ駆けて行き、戻ってくると、その腕には小さな箱を抱えていた。
「何だそれ」
「ふふ」
嬉しそうな春海が、箱を開けていく。
すると中から出てきたのは、
「カメラ?」
「そう、インスタントカメラ、買ったんだ」
何でまた急に、と思ったけれど、あ、と思い至る。
ばあちゃんとの思い出を、収めておく為か。
春海は説明書を見ると、早速触り初めて、俺にカメラを向ける。
じと、と見ていたら、容赦なくシャッターを切るから焦った。
「な、んで今撮るんだよ!」
「え?かわいかったから」
「うるせーーー!」
呆れていたら、またその顔も撮られて、カメラ押さえる。
「おま、もったいねぇ!」
「もっと撮りたい」
「もう撮っただろ!」
「毎秒撮りたい」
ぎゃあぎゃあ争っていたら、笑顔のばあちゃんが現れて、あの笑顔こそ撮るべきだろ、とカメラを押さえていた手を離す。
そしたら春海は俺とばあちゃんを画角に収めて、写真を撮る。
「俺は入れなくていい!」
「え?入れたい」
「貸せっ」
結局、俺がカメラを構えて、春海とばあちゃんを画角に収めて撮ってやると、撮られる気恥ずかしさが伝わった様で、そこから春海は無闇矢鱈にはシャッターを切らなくなった。
けれどその後、俺なんかスマホで良いだろ、と言ったのは、失言だったなと思う。
嬉々として、春海がインスタントカメラとスマホの両手持ちをし始めたので、本当に迂闊だった。
春海のスマホのロック画面と、待受が俺の写真になるのは、それから数秒もしない間の出来事だった。
料理を三人で作っては食べて、川と、スーパーを行き来して。
写真を撮って、撮られて、春海と触れ合う日々。
もうずっとこのままが良い。
一生、このままが良い。
けれど、そろそろ帰らなくてはいけなくて。
最終日、春海と共に、丁寧に写真を撮って回った。
バイクが停められた玄関。
初めて見た縁側。
雑草を一緒に抜いた庭と、
いろんな、夏を満喫できるアイテムが入っていた蔵。
母屋の台所に、大きなスイカを詰め込んだ、冷蔵庫。
顔みたいな模様がある広い和室。
三人で何度もご飯を食べたテーブルに、
三人で採寸をし合った場所。
長い廊下を歩けば、二人で電球を変えたお風呂場があって、ぬるい温度にして二人で浸かった、大きなお風呂。
離れは、もう一生、この光景を覚えていると思う。
俺らがお団子を食べたり、くっついていた和室。
廊下からの光景に、触れ合った寝室。
離れのお風呂も、何度も入らせてもらった。
それから、また川へ行く。
突然現れる森に、道無き道。
木々が開けたと思ったら、泳げる程の広い川があって、ここでも沢山過ごした。
大きな入道雲は今日も見えて、
広い空と、沢山の緑と、時々の家々の黒色。
全部全部、丁寧に見て回って、二人で写真を沢山撮った。
「残り一枚だ」
インスタントカメラを見た春海が、そう言うから。
「ばあちゃんと撮ってやる」
そう、手を差し出す。
少し考えた春海は、首を振ると、笑って。
「三人で撮りたい」
「……分かった」
代わりに、俺はその顔を、スマホで撮った。
「ああ!」
「油断したな」
撮られた春海が、慌ててスマホを出すから、俺は笑ってそのまま逃げる。
写真を沢山撮ったスマホは、熱を持っていて。
それでも、撮るのを止めなかった。
また来たい、と、もう最後かもしれない、が、同じくらいの量、俺たちの思考を占めていたから。
ばあちゃん家に戻ると、ばあちゃんを呼んで、玄関で、三人並んで立つ。
俺と春海は腰を落として、ばあちゃんを挟んで。
「ばあちゃん、ありがとう!」
そう、春海が言うから。
「ありがとう、ばあちゃん」
俺もばあちゃんを見てそう言うと、そこで、シャッターが切られた。
ばあちゃんは擽ったそうに笑っていて、凄くかわいい表情だと思った。
出会えて、本当に良かった。
夜、晩御飯を食べ終えると、ばあちゃんに呼ばれる。
二人揃って広い和室へ行くと、そこには揃いの浴衣が、並んでいて。
「浴衣できたよぉ、着てごらんねぇ」
そう言われて、廊下に出て着替えてみる。
サイズは採寸しただけあって、ピッタリで。
隣を見ると、浴衣が良く似合った春海が居て、少し見蕩れた。
春海もじっと俺を見ていて、多分、同じことを考えている。
気恥ずかしくて先に和室へ戻ると、ばあちゃんは似合う似合うと喜んでくれて、照れる。
「「ありがとう、ばあちゃん」」
俺と春海、声が揃って笑う。
また、最高の思い出が増えた。
翌朝、俺と春海は朝御飯を食べた後、おにぎりを貰って、門に立つ。
「お世話になりました」
「ありがとう、ばあちゃん、また来るね」
「気を付けてなぁ、ありがとうなぁ」
春海が頷いて、ばあちゃんを抱き締める。
見守っていたら、ちょっと泣いているばあちゃんが、俺も力強く抱き締めてくれて、少し貰い泣きをした。
「ありがとう、ばあちゃん。また」
俺の言葉に何度も頷いてくれたばあちゃんと、手を振って、バイクに乗り別れる。
大きな大きな入道雲が、ずっと、ずっと、ミラーに映っていた。
