翌朝、強い日差しで目を覚ます。
春海はまだ俺と同じ布団の中に居て、穏やかな寝息を立てている。
良かった、と思う。
きっと、漸く思考に折り合いが付いて、思う存分、今眠れているのだと思う。
俺は布団を抜け出して、トイレに行って。
喉が乾いたから、台所へ行くと、丁度、玄関が開く音がする。
「のぞむちゃん、おはよぉ、お留守番ありがとねぇ、雨大丈夫だったかい」
「ばあちゃん。おかえり、大丈夫だったよ」
会うのが久々に感じるばあちゃんは、両手に沢山の紙袋を下げていて。
預かって運ぶと、何度もありがとうと言われて照れる。
「のぞむ!!」
「っおお」
突然、春海が台所に現れるから驚く。
肩で息をして、本気で慌てているから、何事かと思った。
「あ、ばあちゃん……おかえり、雨大丈夫だった?」
「ははっ」
春海とばあちゃん、二人揃って、同じ心配の仕方をしているから、微笑ましくて笑う。
笑う俺に、春海はきょとんとして、ばあちゃんはにこにこしている。
春海は、起きた時俺が居なくて焦ったのだろう。
理解して、愛しい気持ちになる。
そんなに慌てなくても、俺は居なくならないよ。
「二人ともおはよぉ、ばあちゃんは大丈夫よぉ。朝御飯にしようねぇ」
「うん」
台所に立つばあちゃんは数日前と変わらず、元気そうで。
頷いた俺は、春海に寄って、髪を手で梳いてやる。
「おはよう。良かったな」
「……うん」
朝日の差し込む台所で、ばあちゃんを眩しそうに見ていた春海が頷く。
それから俺と目が合って、嬉しそうに笑うから。
少しだけ、指先を絡めて、離した。
ばあちゃんが作る御飯はやっぱり美味しい。
だから俺は、ばあちゃんの料理を知りたい、と思って。
「ばあちゃん、俺料理覚えたいから、側で見てても良い?」
そう聞いてみると、ばあちゃんも春海も、同じ顔をして驚いているから笑う。
それから、大きな笑顔を見せてくれたばあちゃんが、俺の立つ場所を開けてくれる。
「良いよぉ、良いよぉ、もちろん良いよぉ」
おいでおいでぇ、と招かれて、春海も連れて、側に立つ。
俺達は見ているだけではなく、手伝わせてもらえることになって、俺はイカを切り、春海はインゲンの筋取りをする。
慣れない俺達の横で、ばあちゃんは包丁を使って、大根の皮をスルスルと器用に剥くから凄い。
感動して見ていたら、それに気付いたばあちゃんが、見やすい様に、ゆっくりと手を動かしてくれて。
そういった優しさも、春海と似ているなと思った。
二人ともよく人のことを見ていて、相手の為の行動が、自然とできる人達。
俺は三人で並んで台所に立てていることが嬉しくて、ずっと楽しくて、わくわくしていた。
三人で協力して下処理した食材達は、全て煮物になるらしい。
ばあちゃんは、醤油も砂糖もみりんも、全部計らず感覚で入れていくから笑った。
少し煮立たせた後、タレを味見させてくれて、このくらいかねぇと笑っているばあちゃんの味を、覚えておきたいと思った。
それから、お団子作りも見せてもらう。
俺と春海も丸める作業をやったけれど、全然ばあちゃんみたいに丸くならなくて、難しいけれど面白い。
ばあちゃんの三分の一くらいの速度でできたお団子達は、ばあちゃんがちゃんと全部茹でてくれて、俺達のおやつになった。
ばあちゃんの丸より小さくて歪なのが俺作で、ばあちゃんの丸より大きくて歪なのが春海作だった。
それを見ながら、探しながら、笑い合って、食べて。
ばあちゃんも春海も楽しそうで、嬉しそうで、良かったなと思う。
二人は笑顔が、一番似合うなと思うから。
その日は、なんとなく皆、母屋で集まっていた。
皆ちょっとずつ、寂しかったのだと思う。
ばあちゃんは亡くなったご近所さんから、服を幾つか貰ったそうで。
三人で、その服を眺めていた。
中には生地だけの物もあって、ばあちゃんは何を作ろうかねぇと微笑んでいる。
人が亡くなっても、こうして、残る物があって。
遺された人に渡って、活かされて行く様は、美しいなと思った。
「そうそう、二人にも、浴衣、作ってあげようねぇ」
「え?」
穏やかに笑うばあちゃんが、楽しみな旅の計画を話すみたいに教えてくれるから、驚く。
三人で眺めていた生地が捲られると、その下から、紺色の生地が出て来て。
「旦那さん用に買っていたそうだけれど、旦那さんももう亡くなっていてねぇ。嫌じゃなければ、帰るまでに、仕立てておくからねぇ」
優しい顔で微笑まれて、俺と春海は、ばあちゃんの顔を見る。
嫌だなんて、そんなこと、ある訳が無かった。
「嬉しいよ、ばあちゃん。ありがとう」
春海が、生地を撫でながら言う。
「うん、嬉しい、ありがとう。絶対着るよ」
俺も頷いて、ばあちゃんに伝える。
「そうかぁそうかぁ」
嬉しそうに笑ったばあちゃんは、それからメジャーを持って来て、俺達二人を採寸しようとする。
けれど、俺も春海も、まあまあ背が高いから、難しくて、笑い合って。
ばあちゃんの指示の元、俺と春海で、互いを測り合うことになった。
それから、二人で協力して、ばあちゃん自身の採寸も行う。
ばあちゃんは最初遠慮していたけれど、実は自分の服も作りたかったみたいで、嬉しそうにしていて俺も嬉しかった。
春海はまだ俺と同じ布団の中に居て、穏やかな寝息を立てている。
良かった、と思う。
きっと、漸く思考に折り合いが付いて、思う存分、今眠れているのだと思う。
俺は布団を抜け出して、トイレに行って。
喉が乾いたから、台所へ行くと、丁度、玄関が開く音がする。
「のぞむちゃん、おはよぉ、お留守番ありがとねぇ、雨大丈夫だったかい」
「ばあちゃん。おかえり、大丈夫だったよ」
会うのが久々に感じるばあちゃんは、両手に沢山の紙袋を下げていて。
預かって運ぶと、何度もありがとうと言われて照れる。
「のぞむ!!」
「っおお」
突然、春海が台所に現れるから驚く。
肩で息をして、本気で慌てているから、何事かと思った。
「あ、ばあちゃん……おかえり、雨大丈夫だった?」
「ははっ」
春海とばあちゃん、二人揃って、同じ心配の仕方をしているから、微笑ましくて笑う。
笑う俺に、春海はきょとんとして、ばあちゃんはにこにこしている。
春海は、起きた時俺が居なくて焦ったのだろう。
理解して、愛しい気持ちになる。
そんなに慌てなくても、俺は居なくならないよ。
「二人ともおはよぉ、ばあちゃんは大丈夫よぉ。朝御飯にしようねぇ」
「うん」
台所に立つばあちゃんは数日前と変わらず、元気そうで。
頷いた俺は、春海に寄って、髪を手で梳いてやる。
「おはよう。良かったな」
「……うん」
朝日の差し込む台所で、ばあちゃんを眩しそうに見ていた春海が頷く。
それから俺と目が合って、嬉しそうに笑うから。
少しだけ、指先を絡めて、離した。
ばあちゃんが作る御飯はやっぱり美味しい。
だから俺は、ばあちゃんの料理を知りたい、と思って。
「ばあちゃん、俺料理覚えたいから、側で見てても良い?」
そう聞いてみると、ばあちゃんも春海も、同じ顔をして驚いているから笑う。
それから、大きな笑顔を見せてくれたばあちゃんが、俺の立つ場所を開けてくれる。
「良いよぉ、良いよぉ、もちろん良いよぉ」
おいでおいでぇ、と招かれて、春海も連れて、側に立つ。
俺達は見ているだけではなく、手伝わせてもらえることになって、俺はイカを切り、春海はインゲンの筋取りをする。
慣れない俺達の横で、ばあちゃんは包丁を使って、大根の皮をスルスルと器用に剥くから凄い。
感動して見ていたら、それに気付いたばあちゃんが、見やすい様に、ゆっくりと手を動かしてくれて。
そういった優しさも、春海と似ているなと思った。
二人ともよく人のことを見ていて、相手の為の行動が、自然とできる人達。
俺は三人で並んで台所に立てていることが嬉しくて、ずっと楽しくて、わくわくしていた。
三人で協力して下処理した食材達は、全て煮物になるらしい。
ばあちゃんは、醤油も砂糖もみりんも、全部計らず感覚で入れていくから笑った。
少し煮立たせた後、タレを味見させてくれて、このくらいかねぇと笑っているばあちゃんの味を、覚えておきたいと思った。
それから、お団子作りも見せてもらう。
俺と春海も丸める作業をやったけれど、全然ばあちゃんみたいに丸くならなくて、難しいけれど面白い。
ばあちゃんの三分の一くらいの速度でできたお団子達は、ばあちゃんがちゃんと全部茹でてくれて、俺達のおやつになった。
ばあちゃんの丸より小さくて歪なのが俺作で、ばあちゃんの丸より大きくて歪なのが春海作だった。
それを見ながら、探しながら、笑い合って、食べて。
ばあちゃんも春海も楽しそうで、嬉しそうで、良かったなと思う。
二人は笑顔が、一番似合うなと思うから。
その日は、なんとなく皆、母屋で集まっていた。
皆ちょっとずつ、寂しかったのだと思う。
ばあちゃんは亡くなったご近所さんから、服を幾つか貰ったそうで。
三人で、その服を眺めていた。
中には生地だけの物もあって、ばあちゃんは何を作ろうかねぇと微笑んでいる。
人が亡くなっても、こうして、残る物があって。
遺された人に渡って、活かされて行く様は、美しいなと思った。
「そうそう、二人にも、浴衣、作ってあげようねぇ」
「え?」
穏やかに笑うばあちゃんが、楽しみな旅の計画を話すみたいに教えてくれるから、驚く。
三人で眺めていた生地が捲られると、その下から、紺色の生地が出て来て。
「旦那さん用に買っていたそうだけれど、旦那さんももう亡くなっていてねぇ。嫌じゃなければ、帰るまでに、仕立てておくからねぇ」
優しい顔で微笑まれて、俺と春海は、ばあちゃんの顔を見る。
嫌だなんて、そんなこと、ある訳が無かった。
「嬉しいよ、ばあちゃん。ありがとう」
春海が、生地を撫でながら言う。
「うん、嬉しい、ありがとう。絶対着るよ」
俺も頷いて、ばあちゃんに伝える。
「そうかぁそうかぁ」
嬉しそうに笑ったばあちゃんは、それからメジャーを持って来て、俺達二人を採寸しようとする。
けれど、俺も春海も、まあまあ背が高いから、難しくて、笑い合って。
ばあちゃんの指示の元、俺と春海で、互いを測り合うことになった。
それから、二人で協力して、ばあちゃん自身の採寸も行う。
ばあちゃんは最初遠慮していたけれど、実は自分の服も作りたかったみたいで、嬉しそうにしていて俺も嬉しかった。
