あの後すぐに先生が来て、そのまま授業が始まって。
まあまたタイミングがあるよ、って声を聞いて、イライラする。
その程度で、どうして告白できるのか。
その程度で、どうして心を預けられるのか。
僕の付き合うが可笑しいのか、お前たちの付き合うが可笑しいのか、もうなんにも分からなかった。
僕は多分、ただ普通の恋がしたいだけなんだ。
「行こ」
「……」
金井くんは、お昼休みになると僕の席に来て。
お弁当を持つように言って、僕を連れ出した。
お弁当があるのに教室から出るってことは、食堂で僕と付き合い始めたことを見せびらかしたいのか、また空き教室に連れ込まれるのか。
どっちだろうなと思っていたら、散々歩いた末、別棟の階段で座り込む金井くん。
え?と思っていると、お弁当を開け始めて。
え、ここで食べるのか、って、僕も隣に座ってお弁当を開ける。
金井くんのお弁当はご飯の量が凄く多くて。
僕のお弁当は、ご飯と冷凍食品だらけのおかず。
なんとなく恥ずかしくなって、でも隠しようもなくて。
食べ始めたら、金井くんがご飯に乗っていた梅干しを寄越してくる。
「……梅干し、嫌い?」
僕は好きだけれど、と思いながら、早々に梅干しを齧ると、視線を感じて横を見る。
金井くんは何も言わずにただじっと僕を見て、それから「好き」って、それだけ。
梅干しのことだよな?と思う。
僕の顔をガン見してたから、ちょっと判断が難しかった。金井くんは、表に出す言葉が少ない人なのかもしれない。
なんとなくそのまま舐めていた梅干しの種を、どうしようかなと思っていたら、金井くんからお弁当の蓋を差し出される。
種を出せってことかな、って恐る恐る、金井くんの表情を見ながら種を落とすと、金井くんはまたじっと僕の顔を見ていた。
なんなんだろう。
じっと見るのに、何も言わない。
これまでのお付き合いでは、凄く照れてるとか、凄く話しかけてくるとか、凄く質問されるとか、そういう激しさが常にあったから、遠くの教室の話し声が聞こえる程静かな、この時間がとても不思議だった。
自分のお弁当を見下ろして、何かお返しになるものはないかな、と思って。
ほうれん草のおひたし、ソースカツ、マカロニ。
僕としてはもう中学の頃から見知ったラインナップで、何が美味しそうに見えるか分からなくて。
とりあえずソースカツを持ち上げて、食べる?って聞いてみると、目が合って、それから箸先を見る金井くん。
ちょっと口元に寄せてみると、箸先を避けて齧り取って行ったから、あ、だめだったか、と反省した。
潔癖、というか。人の唾液とか、そういう触れ合いが無理な人は、勿論居て。
配慮できずに申し訳なかったなと思う。
だって、皆、ああすると喜ぶから。
食べさせてくれるの?って、皆、目が蕩けるから。
金井くんもそうなのかなって思ったけれど、違ったみたい。
次からはお弁当箱ごと差し出すことにしよう、と思った。
次があるか、分からないけれど。
僕のお弁当は、金井くんのお弁当の半分しか大きさがないのに、食べ終わるのは金井くんの方が早かった。
一口が大きくて、豪快だった。
でも全然、咀嚼音がしなかった。
つくづく不思議な人だなと思う。
これまでと、ずっと全部が真逆だから。
僕が食べ終わると、金井くんはそのまま横になって、階段の踊り場で寝始めるから驚いた。
そんな、食べてすぐ横になったら体に悪いよ?って思ったけれど、次第にすうすうと届き始めた寝息を聞いていると、起こす方が申し訳なくなって、僕も仰向けになってみる。
実際に横になると、やっぱり胃が重かったけれど、階段がひんやりとしていて、金井くんの寝息が穏やかで、心地いい。
目を閉じれば僕も寝られそうで、でも、目を閉じるとどうしても、遠巻きに見てくる周りの目を思い出してしまって。
ああ、もしかして。
だから、金井くんは連れ出してくれたのかな。
そう思うと、少しむず痒かった。
予鈴が鳴って、起き上がる金井くん。
寝起きの良さに驚いていると、先に立って、少し歩いて、来ないの、って顔をするから、僕も起き上がる。
二人並んで教室に戻ると、一緒に居たんだ、付き合うって本当だったんだ、って呟きが聞こえて、居心地が悪いなぁと思った。
これまでもお付き合いは散々あったのに、こんなに堂々と囁かれることは無かった。
これまでとの違いはなんだろうと考えたけれど、いくつもありすぎて分からなかった。
まず人前で付き合うことになったのは初めてだった。
それから、直近の元彼が、嫉妬による暴行を受けたのも、初めて。
いや……これまでも、あるにはあった、けれど。停学になるほどの大々的なものは初めてだった。
それから、あとは。
なんだろう、金井くんも、顔が良い。
そう思うと、納得した。
容姿が良くて、物腰が柔らかで、タイミングが良ければ誰でも付き合えるチャンスのある僕と、入学以来硬派なイケメンとして騒がれていた気がする金井くん。
確かに気になる組み合わせなのかもしれない。
それにもしかしたら、あの時の小さな悲鳴は、金井くんを取られた、の方の悲鳴だったのかもしれない。
なら、僕の息苦しさも、少しは、晴れるのかもしれない。
まあまたタイミングがあるよ、って声を聞いて、イライラする。
その程度で、どうして告白できるのか。
その程度で、どうして心を預けられるのか。
僕の付き合うが可笑しいのか、お前たちの付き合うが可笑しいのか、もうなんにも分からなかった。
僕は多分、ただ普通の恋がしたいだけなんだ。
「行こ」
「……」
金井くんは、お昼休みになると僕の席に来て。
お弁当を持つように言って、僕を連れ出した。
お弁当があるのに教室から出るってことは、食堂で僕と付き合い始めたことを見せびらかしたいのか、また空き教室に連れ込まれるのか。
どっちだろうなと思っていたら、散々歩いた末、別棟の階段で座り込む金井くん。
え?と思っていると、お弁当を開け始めて。
え、ここで食べるのか、って、僕も隣に座ってお弁当を開ける。
金井くんのお弁当はご飯の量が凄く多くて。
僕のお弁当は、ご飯と冷凍食品だらけのおかず。
なんとなく恥ずかしくなって、でも隠しようもなくて。
食べ始めたら、金井くんがご飯に乗っていた梅干しを寄越してくる。
「……梅干し、嫌い?」
僕は好きだけれど、と思いながら、早々に梅干しを齧ると、視線を感じて横を見る。
金井くんは何も言わずにただじっと僕を見て、それから「好き」って、それだけ。
梅干しのことだよな?と思う。
僕の顔をガン見してたから、ちょっと判断が難しかった。金井くんは、表に出す言葉が少ない人なのかもしれない。
なんとなくそのまま舐めていた梅干しの種を、どうしようかなと思っていたら、金井くんからお弁当の蓋を差し出される。
種を出せってことかな、って恐る恐る、金井くんの表情を見ながら種を落とすと、金井くんはまたじっと僕の顔を見ていた。
なんなんだろう。
じっと見るのに、何も言わない。
これまでのお付き合いでは、凄く照れてるとか、凄く話しかけてくるとか、凄く質問されるとか、そういう激しさが常にあったから、遠くの教室の話し声が聞こえる程静かな、この時間がとても不思議だった。
自分のお弁当を見下ろして、何かお返しになるものはないかな、と思って。
ほうれん草のおひたし、ソースカツ、マカロニ。
僕としてはもう中学の頃から見知ったラインナップで、何が美味しそうに見えるか分からなくて。
とりあえずソースカツを持ち上げて、食べる?って聞いてみると、目が合って、それから箸先を見る金井くん。
ちょっと口元に寄せてみると、箸先を避けて齧り取って行ったから、あ、だめだったか、と反省した。
潔癖、というか。人の唾液とか、そういう触れ合いが無理な人は、勿論居て。
配慮できずに申し訳なかったなと思う。
だって、皆、ああすると喜ぶから。
食べさせてくれるの?って、皆、目が蕩けるから。
金井くんもそうなのかなって思ったけれど、違ったみたい。
次からはお弁当箱ごと差し出すことにしよう、と思った。
次があるか、分からないけれど。
僕のお弁当は、金井くんのお弁当の半分しか大きさがないのに、食べ終わるのは金井くんの方が早かった。
一口が大きくて、豪快だった。
でも全然、咀嚼音がしなかった。
つくづく不思議な人だなと思う。
これまでと、ずっと全部が真逆だから。
僕が食べ終わると、金井くんはそのまま横になって、階段の踊り場で寝始めるから驚いた。
そんな、食べてすぐ横になったら体に悪いよ?って思ったけれど、次第にすうすうと届き始めた寝息を聞いていると、起こす方が申し訳なくなって、僕も仰向けになってみる。
実際に横になると、やっぱり胃が重かったけれど、階段がひんやりとしていて、金井くんの寝息が穏やかで、心地いい。
目を閉じれば僕も寝られそうで、でも、目を閉じるとどうしても、遠巻きに見てくる周りの目を思い出してしまって。
ああ、もしかして。
だから、金井くんは連れ出してくれたのかな。
そう思うと、少しむず痒かった。
予鈴が鳴って、起き上がる金井くん。
寝起きの良さに驚いていると、先に立って、少し歩いて、来ないの、って顔をするから、僕も起き上がる。
二人並んで教室に戻ると、一緒に居たんだ、付き合うって本当だったんだ、って呟きが聞こえて、居心地が悪いなぁと思った。
これまでもお付き合いは散々あったのに、こんなに堂々と囁かれることは無かった。
これまでとの違いはなんだろうと考えたけれど、いくつもありすぎて分からなかった。
まず人前で付き合うことになったのは初めてだった。
それから、直近の元彼が、嫉妬による暴行を受けたのも、初めて。
いや……これまでも、あるにはあった、けれど。停学になるほどの大々的なものは初めてだった。
それから、あとは。
なんだろう、金井くんも、顔が良い。
そう思うと、納得した。
容姿が良くて、物腰が柔らかで、タイミングが良ければ誰でも付き合えるチャンスのある僕と、入学以来硬派なイケメンとして騒がれていた気がする金井くん。
確かに気になる組み合わせなのかもしれない。
それにもしかしたら、あの時の小さな悲鳴は、金井くんを取られた、の方の悲鳴だったのかもしれない。
なら、僕の息苦しさも、少しは、晴れるのかもしれない。
