【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

エトランテ王国 王城にて。
重厚な扉の前でユリアスと
一緒に立っているエレンシア。

その扉の先は玉座の間で
ユリアスの父親である国王と母親である王妃がいる。

「…大丈夫?」
心配そうに彼女を見るユリアス。
「…はい。」
そう答えるものの、顔は暗く
ドレスの裾を強く握っている。

怖い。
否定されてしまったらどうしよう
また相応しくないと言われてしまったら…。

そんな不安がよぎってしまう。

その時、落ち着かせるようにユリアスは優しく
肩に手を置く。
「大丈夫だよ。」
「もし何か言われたとしても
俺が何とかするから。」
エレンシアはゆっくりと頷きながら微笑む。
「…ありがとうございます。」

それから、扉が開く
ゆっくりと中へ入っていく。

静かな空気が流れ込む。
ユリアスと一緒に進みながらも
先に二人の人物が見える。

国王と王妃。

玉座の前に立ち止まる。

二人はエレンシアの方へと視線を向ける。

エレンシアは即座に背筋を伸ばし
丁寧に頭を下げる。
「お初にお目にかかります。」
「ルイナ公爵家の娘、エレンシア・ルイナと
申します。」
緊張を極限まで押し殺し
優雅に見えるようにゆっくりとカーテシーをおこなう。

王が口を開く。
「顔を上げなさい。」
エレンシアはゆっくりと顔をあげる。
国王は、エレンシアをしばらく見つめた後
優しく微笑む。
「お前がユリアスが言っていた娘か。」
思っていた反応とは全く違った。
すると隣の玉座に座っていた王妃が口を開く。
「あなたが、エレンシアね!」
厳格でもない穏やかな声が響く。
王妃は玉座から立ち上がり、
ゆっくりとエレンシアへと歩いてくる。
そして、優しく彼女の頬に触れる。
いきなりのことで目を見開くエレンシア。
「…よく、ここまで来ましたね」
王妃は、微笑む。
「あなたのことはユリアスから聞いているわ。」
「辛かったでしょう?」
その言葉にじんわりと胸の中が温かくなる。
同時に、視界がぼやける。

王族の前で涙など不敬だからと引っ込めようと
目を伏せる。

「…いえ、そんな…」
「遠慮する必要はない。」
国王が口を開いた。
「ここでは、お前を責めたり、否定したりしない。」
真っ直ぐな瞳でかつしっかりとした声で
告げる国王。
エレンシアは顔を上げる。
「息子が選んだ相手だ」
「それだけで十分だ。」
その言葉にエレンシアは
ユリアスの方へと視線を向ける。
少しだけ照れた表情をしながら視線を逸らしていた。

王妃はクスリと笑う。
「あの子は昔から頑固なのよ。」
「一度決めたら曲げたりしないの。」
優しい空気に優しい国王と王妃に
エレンシアの中にある緊張がリボンのようにゆっくりと
解けていく。
再び、王妃はエレンシアの方を向く。
「エレンシア」
また名前を呼んだあと
「ここにいていいのよ。」

ここにいていい。
ずっとずっと欲しかった言葉。
胸の奥に染み渡る。
エレンシアの瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
「…っ」
止めようとしても止められない
痛くて苦しくて涙が零れていた訳ではない
安心した涙。

王妃は優しく涙を拭う。
エレンシアは、小さく頭を下げる。
「…ありがとうございます。」
ユリアスがそっと隣に立つ。
何も言わずにそこにいてくれる。
それだけでエレンシアは安心し
そして十分だった。