【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

国王になることを約束されていた男 ヴァレン。
そんな彼は
元婚約者であった令嬢を、虚偽の罪で断罪し
死に追いやった罪として
王位を剥奪、国外追放の刑。
名も名誉も全て失いただの男となった。

刑が実行される前日
最後の、外出を許されたヴァレンは
護衛騎士に囲まれながらも王都の通りを歩いていた。

ヴァレンを見るなり人々は
敬いはなくヒソヒソと話し始める。
「見て…元王太子よ。」
「無実の令嬢を死に追いやったあの…。」
冷めた視線、自分を非難する声が聞こえながら
ヴァレンは何も言わずに歩いていた。

(俺はいつから間違えていたんだ。)
国を背負う覚悟をしっかりと持ちながら
どれだけの困難が降りかかろうが成し遂げてきた。
全てが順調であったはずだった。

一体どこから捻れてしまったのか。
思い出すのはあの頃。

隣にいたあの令嬢。
エレンシア

彼女を思い出した瞬間、胸が軋む。

出会った時から彼女のことが気に食わなかった。
感情を見せず、何を考えているのか分からない
あの表情が。

けれど、感情を見せないようにさせたのは自分だった。
あの日、エレンシアに対して言った言葉。

「王妃になるであろうお前が、俺に感情を見せるな。」
明らかに婚約者である彼女でに対して
言ってはいけない言葉であった。

その時、瞳が僅かに揺れた後
彼女は何も言わずにただ頷いていた。
それから、彼女は自分が言った通りのことをしていた。

元凶は全て自分であるというのを忘れて、
彼女に感情のない女、社交界の氷花だの
好き放題言い、証拠を確かめず
他者の言葉を信じ込み、断罪した挙句には
死に追いやり、葬儀で笑った。

(なんて愚かなのだろう。)
自嘲気味に笑ってしまう。

もしやり直せるのなら、今すぐにでもやり直したい。
このような末路になるのを全てなかったことにしてしまいたい。
そう思った時。

ふと視線が止まる。
人混みの中に、ローブを羽織り、フードを被る者が
二人居た。その右側にいる1人の女性。
ローブによって全て隠されているが
微かに見えた白い髪に、水色の瞳が見えた。
そして仕草、立ち方を見れば
心臓が強くなる。
(まさか…エレンシア?)
おかしい。彼女はもうこの世に居ないはずだ。
なのにどうしているのか…。

思わず一歩足を踏み出してしまい
それに気づいた護衛騎士が止める。
「勝手に、行こうとしないでください。」
「やめろ。」
しかし、ヴァレンは護衛騎士を振り払おうとする。
1歩ずつ近づいていく、気配に気づいたのか、
ローブを羽織った女性がこちらを見る。

その瞬間、ヴァレンは確信した。
間違いなかった。
(エレンシア…!!)
さらに詰め寄ろうとした瞬間、
もう一人ローブを羽織った人が
エレンシアを引き寄せる。
明らかに身長差があり男。
優しく微笑んでから、一緒に歩こうとして
追いかけようとした瞬間、ヴァレンの方を見る。
真っ赤な瞳であるのを見た瞬間、エレンシアの隣にいるのがユリアスということが分かった。

その赤い瞳からは伝わるのは
圧倒的な拒絶。
ユリアスは一言も言っていない。
ただ瞳で告げていた。
「エレンシアに近づくな。」と。
ヴァレンは、無意識に息を呑んだ。
これ以上近づけば自分が何をされるか
分かりきっている。

ユリアスの隣にいるエレンシアは静かに立っていた。
かつての感情のない女ではない。

だが…
ヴァレンを見ても何も言わず、何も感じず
興味もないような瞳で見ていた。

ヴァレンの胸が強く痛む。
待ってくれ…!!
俺は…お前に…

何を言えばいいのか分からない。

今までの事を謝罪?
そんなの今更遅すぎる。

色々と試行錯誤している間に
ユリアスは、エレンシアの手を優しく引いて
人混みの方へと足を進め始めた。

ヴァレンは、動くことができなかった
ただ2人が人混みの中に入って消えていくのを
見守ることしか出来ない。

遠ざかっていく背中
手を伸ばそうとしても届かない距離。

「エレンシア…ッ」
切羽詰まった声でつぶやく。
けれどその声はエレンシアに届くことはなく
やがて人混みの中に紛れていき完全に見えなくなる。

その場にゆっくりと膝が崩れる。

彼女はもう既に自分のものではない、
いや、
最初から彼女は自分のものではなかったのだ。

ようやく理解した瞬間
ヴァレンは、意気消沈した。

「…時間です。」
ヴァレンは、何も言わなかった。
ただゆっくりと立ち上がり、護衛騎士に囲まれながら
元いた場所へと歩き始めた。

歩きながらも
最後に誰にも聞こえない小さな声で言った
「…あの時、お前をちゃんと見ていれば
間違っていなかったのだろうか。」