【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

鎖で繋がれ、騎士に無理やり連行されていくユミア。
泣きじゃくったせいか、目元は腫れており
声も掠れて出ない状態であった。

様々な悪行をした結果、彼女は伯爵家も描いていた未来も粉々に砕かれ、ユミアに残ったものは…。

「…。」
力付くで、自分の腕を掴む
騎士の手を振り払おうとした。
しかし、相手は王国騎士団の者。
ユミアよりも遥かに力を持っているため簡単に
振り払うことは不可能であった。

(どうしてこうなってしまったのよ…。)
ただ邪魔者を退かしただけというのに、
何もかも全てを失ってしまった。

石造りの床を歩いて向かう先は牢獄
死ぬまでずっと居続けることとなる場所。

そしてユミアが入る場所は重罪人が
入るとされる牢獄で
灯りもない真っ暗な空間の中で過ごすという。
その空間に居続ける重罪人の大半は
精神がおかしくなってしまうとか。

そんな空間へ入れられるということにユミアは
嫌で仕方がなかった。

(いや…嫌よ。)
逃げる隙がないかと思っていると
自分が入る牢獄の前につき、ふと騎士の掴む手が
緩むのと同時に、一瞬視線が逸れた。

(今よ…!!)
ユミアが力任せに騎士の手を振り払う。
振り払った際に僅かな距離ができ、そのまま
ユミアは走り出した。
「待て!!」
怒声が聞こえようが、振り向かず
重い鎖を引きずりながらもただ走り続けた。

牢獄の塔を抜け出し、王城の裏門から出たあと
街へと飛び出す。
眩しい太陽が自分を照らして、視界がチカチカと
していく。
それでも足を止めずに、逃げ続ける。

(助かる…!!)
(まだ、終わってないわ…!!)
上手く騎士達を巻いてしまえばと
思った瞬間だった。

前から、ガラガラと鳴る車輪の音が。
しかし、ユミアは焦りで見えても聞こえてもおらず。

ヒヒーン!と馬のなく声により
ユミアはやっと前を向く。
「え……?」
巨大な馬の影、迫る馬車に
焦る表情をした御者と目が合った瞬間。

鋭い音が街に響き渡った。


自分の体がふわりと浮いた後
まるで時が遅くなる感覚になった。
しかし、突然時が早くなるようになり
その瞬間、地面に強く打ち付けられた。
骨が軋む生々しい音がしてから激しい痛みに襲われる。
「かぁ…っ!」
声にならない声がユミアから漏れる。
視界がグラグラと揺れて、体が先程まで動いていたのに
動かない。足の感覚も微塵もない、
手もピタリと動かない。
そして、身体中が赤く染まり温かくなる。
「なんで…」
地面は、やがて茶色から赤色に変色していく。

周囲はざわつき始めた。
「…轢かれたのか?」
「まあ…酷い…。」
遠くから聞こえる会話はユミアに届いていない。
逃げることも、抗うことも全て不可能になったユミアは
悔しさなのか悲しさなのか分からない涙を浮かべる。
「…こんな所で…」
「終わるなんて…、あんまりよ…。」
無念そうに歯を食いしばりながら呟くその言葉は
誰にも届くことはなく。
ユミアを追いかけてきた騎士たちが駆け寄ってくる。
触れられる手の感覚もない、何を言っているのか分からない状態のまま、ユミアの視界には暗闇が迫る。

そして、意識を手放していった。











ーーガチャン。
重い扉が閉まる音がして、
その音がもう二度と外に出ることはできないと示した。

薄暗い牢獄の中
素朴なベッドにユミアは寝かせられていた。

ユミアの身体中は
包帯やらガーゼなどで埋め尽くされていた。
馬車に轢かれた際の傷は思ったよりも酷く、
少し体を動かすだけでも、激痛が走ってしまう。
「…っ…ああっ…」
激痛のあまり弱った声を漏らす。

体がこのような状態になり
もう逃げることも、叫ぶこともできない。

それだけでも胸が締め付けられる感覚になる。

終わってしまったのだと。
全てが完全に。と思い知らされたように。




ただ天井を眺めることしかできない状態が
続いてどれくらい時間が経ったか分からない。

体は変わらず、蝕むような痛みが走り
動けば走る鋭い痛み。

(痛いよ…っ)
涙がにじみ出る。

こんなはずではなかったのだ。
私は、幸せになるはずだった。

そうどす黒い感情が出た時に
ふと脳裏に映像が浮かんだ。


幼い頃、初めてサロンに行った時のこと。
華やかなドレスを身に纏う令嬢たち、
談笑し合う大きな輪。

そんな中で、ユミアは一人きりであった。
端に座り、俯いていた。

誰とも仲良くできず
輪の中にも入ることができなかったユミア。

サロンにいるのが辛くて苦しくて
視界がぼやけていく。

その時だった。
「大丈夫ですか?」
優しい声がして振り向くと、
そこにいたのはエレンシアであった。
幼いながらにも美しいドレスがよく似合っている。

柔らかな笑みで真っ直ぐな瞳でユミアを見つめる。
「ここへ来るのは初めてですか?」
戸惑いながらも、ゆっくりと頷くと
エレンシアは優しく手を伸ばした。

「一緒に行きましょう。」
そう言われた後気づけば
あの空間が怖くなくなっていた。
エレンシアのお陰で。
人の輪の中に入れてくれて、
自然と会話にも入れてくれて。

あの時の優しさ、あの時の温もりを
今更思い出してしまい、ユミアの呼吸が乱れる。

「…っなんで…っ」
涙がポロポロと溢れ出てくる。
止めようとしても止められない。
「なんで、あの人が…っ」
その言葉には続きがあった。
はっきりと分かっている。
「私が…殺してしまったんだ…!!」

あの人は、優しい人であった。
そんな人を自分は断罪して、死に追いやってしまった。

「ごめんなさい…っ」
体にどれだけ痛みが走ろうが、無理矢理にでも
体を起こして、這うように床へと降りる。

冷たい石造りの床に頭を強く擦り付けた。
「ごめんなさい…!!」
「ごめんなさい…!!
エレンシア…ッごめんなさい…!!」



遅すぎてしまった後悔と
永遠に取り返しのつかない罪
その全てを抱え込みながら
ユミアはただひたすら泣き続けた。

誰も聞こえることのない牢獄の中で。