【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

柔らかな太陽の光が暖かく感じる季節。

孤児院の小さな庭で子供たちが元気に
走り回っていた。

その様子を静かに眺めている女性がいた。
エレンシア。

質素なワンピースを身にまとっており
貴族の面影が一切なく、ごく普通の女性のよう。

木陰にあるテラスの椅子に座っている。

転んで泣いて再び笑う子供たちを見ながら
ぼんやりと雲一つない空を見ていた。

その時、
孤児院の門が開く音がした。
ギィィ…。

門からは一台の馬車が入ってくる。
馬車には見たことの無い紋章が付いていた。

その馬車から一人の男が降りてくる。
赤い瞳を持つ青年、ユリアス。


ユリアスはゆっくり歩きながら庭を見る。
そして、一人の女性を見て足を止めた。
木陰に座る質素なワンピースを身に纏う女性を
見た瞬間、胸が高鳴る。
(やっと…会えた。)
ずっと探していた大切な初恋。
ユリアスは一歩、一歩と近づいていく。

エレンシアは気配を察して視線を向ける。

互いに視線が向き合った時

優しい風が吹く。

ユリアスは微かに震えていた。
それでもエレンシアへと言葉を絞り出した。

「…エレンシア」
自分の名前を口にする彼に
エレンシアは目を丸くした。
「…私ですか?」
静かで、どこか薄い。
けれど、優しさのある声に。
ユリアスは優しく微笑む。
エレンシアはそんな彼を見つめる。
その瞳には、戸惑いが滲み出ている。

「…あなたは」
「誰でしょうか?」
その言葉にユリアスは一瞬目を静かに閉じる。

ルイナ公爵の言葉を思い出す。
「今あの子は、以前のあの子ではありません。」
(それでも…。)
彼は微笑んだ。

「…ユリアス」
「昔、君に助けられたんだ。」
エレンシアは、少し考え込む。
ユリアス…その名前を聞いて。
しかし、思い出せない。
考えても胸の中はとてつもなく静かだった。

そんなエレンシアにユリアスは焦らずに
エレンシアの前に立つ。
「安心して。」
「僕は君に何の危害も与えないから。」
少し笑いながら冗談気に言う。
エレンシアは、呆然とユリアスを見つめていた。
ユリアスは続ける。
「少しだけお話してもいいかな?」
エレンシアは少し迷う素振りを見せる。
しかし、彼を見てみると
不思議と怪しい人ではないと感じた。
そしてどこか、安心してしまう自分がいた。
「…いいですよ。」
小さくエレンシアが頷いた後
ユリアスは嬉しそうな表情を見せてから
エレンシアの隣に座る。

空を静かに眺める。
「とってもいい場所だね。」
エレンシアも再び空を眺める。
先程から変わらず、雲一つない空。
「…そうですね。」
心地の良い優しい風が吹いてくる。
その時、
こちらへと一人の女の子が
転けそうになりながらも走ってくる。
「エレンシアお姉ちゃん!」
そう言いながら近づいてくる時
女の子の足が石ころに引っかかり転びそうになる。
咄嗟に、椅子から立ち上がり
女の子を支えるエレンシア。
「大丈夫?」
エレンシアが手を差し伸べた手を握り返して
「うん!」と笑顔で答える女の子。

その瞬間、エレンシアは微かに微笑む。

その姿に、ユリアスは。
(…やっぱり変わっていないね。)
(彼女は優しい人だ。)

優しく笑顔が綺麗な彼女。
ユリアスは心に決める。

(無理矢理じゃない)
(ゆっくりでいい。)

(彼女が感情が戻るまで…。)

この気持ちはまだ胸の中に留めておく。