【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

夜が深まった頃
執務室の扉が勢いよく開かれた。
ユリアスの側近が入ってくる。
普段は冷静沈着な彼だが、珍しく息を切らしていた。
「殿下…!」
ユリアスは書類から顔をあげる。
「どうかした?」
側近は、後ろを振り向くなり何らかの合図をした後
二人の騎士達が入ってきた。
その騎士の二人の間に一人の女性が、
逃げられないように腕を縛られていた。
女性は青ざめた顔をしながら震えている。

ユリアスは眉をひそめる。
「…誰?」
側近はユリアスに近づき、口にした。
「王宮の元侍女で
エレンシア様に、毒を盛った者です。」
そう聞いた瞬間、ユリアスの表情が大きく変わる。
冷めた瞳で女性をひと睨みする。
「…どういうことか説明してくれるかな?」
王太子による尋問に答えなければ
ユリアスの圧は止まらない。
耐えきれず女性は震えながらも話し始めた。

「私は…っユミア様に命じられていました。」
「公爵令嬢であるエレンシア様の食事とお茶に」
「少量の毒を入れるようにと…っ。」
ユリアスの瞳が冷たくなる。
女性は話を続ける。
「毒は…っ致死量ではありません…っ」
「しかし、長時間摂取し続けると…っ」
「強い倦怠感、めまい、精神の不安定、強い不眠
抑うつ状態、思考の低下、自殺衝動。」
それを聞いた瞬間、
ユリアスの手の握る力が強くなる。
拳からは少量の血が流れる。
「エレンシア様は、何度も体調を崩されていました…」
「それでも侍女としてバレないように」
「私は量を調節しながら入れ続けました…っ。」
「ユミア様の言う通りに……。」
部屋の空気が完全に凍りつく。
ユリアスの赤い瞳が血のような色に歪む。
ユリアスは、女性の前に近づきしゃがみ込む。
じろりと赤い瞳で見られ
女性は「ひっ…」と微かに悲鳴をあげる。

ユリアスは声を低くして問いかける。
「期間は」
震えながらも答える。
「約八ヶ月です…っ」
ユリアスの瞳が揺れる。
そして側近が続けた。
「医師の診断とも一致しております。」
側近は手に持つ、診断を見ながら言う。
「エレンシア様が不眠と精神衰弱を訴え始めた
時期です。」
さらに、別の書類をユリアスに渡す。
「毒の成分も一致しておりました。」
「厨房に捨ててあった食器達に残った微量成分」
「そこの者が所持していた薬」
「完全に同じでした。」
暫しの沈黙が流れる
しばらく誰も声を発しなかった。
ユリアスはゆっくりと立ち上がる。
そして小さく呟く。
「エレンシアは」
「八ヶ月も苦しんでいたということ」
側近は何も言えない。
ユリアスは再び拳を握る。
「眠れず」
「体が壊れ」
「心が削られ」
「誰にも言えずに…」
声が段々と低くなる。
「最後は」
「自分を責めながら死のうとした。」
ユリアスが女性の方を振り返る
女性は手を縛られながらも
自ら頭を床に付ける。そして震えながらも涙声で
「申し訳ありません…っ申し訳ありません…っ!」
と言いながら何度も床に頭を擦り付けていた。

「…。」
その謝罪にユリアスは僅かに目を細めた後
ユリアスは背を向ける。
「地下牢に閉じ込めておいて。」
「かしこまりました。」
側近はそう言った後、二人の騎士に合図する。
合図を聞くなり2人の騎士は女性を無理やり立たせた
後引き連れて執務室を出ていった。
二人きりになった後
ユリアスは振り返る。
その赤い瞳は氷のように冷たい。
「これで終わりだよ。」
側近が息を呑む。
ユリアスは静かに告げる。
「王国の社交界にいる」
「王族、貴族、全ての前で」
「この罪を暴く。」
そして最後に淡々と言う。
「奴らには」
「逃げ場はない。」
机の上には
ユミアの無罪を証明することのできる書類
そしてユミアの罪状。


チェックメイトを決める準備は完全に整っていた。