【完結】騙され裏切られ婚約破棄された令嬢が死の偽装工作をして消えた結果のチェックメイト

それから俺は変わることを決意した。
もう二度と、不吉な王子とは呼ばせない程の
力を身につけた。

数年後、その少女の情報を調べる。
少女の名前は
エレンシア・ルイナ
ルミネリア帝国の有力貴族の一つのである
ルイナ公爵家の娘。
やっと、辿りついた初恋の少女の正体。
そう嬉しくなりながらも資料のページを開く

視線が、次の一文に移る。
「王太子ヴァレンの婚約者」
その瞬間。時間が止まった。
「……婚約者」
頭の中で言葉が理解できない。理解したくなかった。
あの日の記憶が蘇る。
路地裏で出会った時に見せたあの少女。
「宝石みたい」
あの笑顔を向けてくれた少女が。
紙を握る手に力が入る。
綺麗だった紙がクシャクシャになり
元には戻らなかった。
(王太子の……婚約者)
遠い。あまりにも遠い。
自分とは違う世界の人間だった。
最初から、届くはずのない場所に
彼女は立っていたのだ。
「……そっか」
(……貴族だったんだ。)
だから、あんなにも綺麗だったのか。
だから、あんなにも遠かったのか。

しばらく、動けなかった。
ただその一行を見つめ続ける。
やがて、ゆっくりと目を閉じる。
胸の奥が静かに痛む。
「……遅かったな」
ぽつりとこぼれる。
探そうとした。
会いたいと長年思い続けた。
その間に彼女は
別の誰かの隣に立つ存在になっていた。
沢山の令嬢が羨む立場である王太子妃。
「……幸せなのかな。」
ふと、そんな言葉が出る。
自分でも驚くほど、静かな声だった。
苦しいはずなのに。
どこかで願ってしまう。
彼女が幸せならそれでいい。と

そう思っていたが俺は浅はかだった。
彼女が王太子妃の座など望んでいなかったのを。

パーティーで、
糾弾されながら婚約破棄を受けたエレンシアの姿が
忘れられなかった。

あの王太子と伯爵家令嬢が
エレンシアに婚約破棄をしようとしていると
情報は数日前に握っていた。
婚約破棄された上でエレンシアを助けようとした。

けれど、エレンシアは消えてしまった。

婚約破棄された数日後、訃報が届いた。
婚約破棄による憔悴により
睡眠薬を大量に摂取して
自らの命を絶った。と

(嘘だ…。)
頭の中で何度も否定した。
あの少女が自ら命を絶ってしまうなんて。
拳を強く握ってしまい爪が食い込み
手が血で滲んでいた。
(手を伸ばしていたのに。)
(届くはずだったのに。)
(助けられたはずなのに。)
彼女の元へ行こうとしていたが…時すでに遅かった。

それから、俺は帝国に戻ってから
改めて彼女の置かれていた状況を調べた。

一枚目。
王宮での記録。
「王太子妃教育において、極めて優秀」
「礼儀・知識ともに申し分なし」
ユリアスは小さく呟く。
「……やっぱりね。」
予想通りだった。
エレンシアが努力を怠るはずがない。
次の資料で、手が止まる。
「……感情表現に乏しい?」
あんなにも優しく微笑んだあのエレンシアが?
眉がわずかに寄る。
さらに読む。
そうすれば先程の資料に書いてある意味が分かった。
「王太子ヴァレン殿下より指摘」
「王太子妃たる者、不要な感情を見せるなとの教育方針」

その一文で、空気が変わる。

「……何だと」
紙を握る手に力が入る。
(感情を、見せるな?)
あの日の笑顔が脳裏に浮かぶ。
あんなにも優しく、温かった少女が。
それを否定された?感情を奪われてしまった?
「……ふざけるな」
初めて、怒りが滲む。

さらにページをめくる。
パーティーでの事件。
証言の食い違い。
不自然な配置。
偽造された可能性の高い記録。
「……すべて、仕組まれてる」
一つ一つは小さな違和感。
そして、ひっそりと側近の騎士から貰った資料を見る
そこにはエレンシアを陥れるための計画書。
どうやって、陥れるか細かく書いてあった。
「奴らがエレンシアを…」
その声には、もう温度はなかった。

「そういう事か」
気づけたはずなのに気づけなかった真実
守れなかった現実
けれどその中で一つだけの確信があった。
「…許さない」
低く小さな声でそう発した。

「エレンシアと同じ苦しみを奴らに味あわせてやる。」
「必ず、地獄へと突き落としてやる。」
いつしか、ルビーのように綺麗だと褒めてくれた
その赤い目は恐ろしい程に美しく歪んでいった。