物置令嬢の契約結婚 ~旦那様が健康になっていくのが楽しいだけだったのに、いつの間にか溺愛されています〜

 翌日。
 朝露がまだ草花を濡らす頃、私はすでに身支度を整え、屋敷の奥にある厨房へと足を踏み入れていた。

 女中たちの邪魔にならないよう台所の隅へ移動し、私はそこにある古びた木製の戸棚を開けた。女中たちさえ滅多に使わない、埃を被った瓶が並ぶ奥の奥を、ゴソゴソと探る。

 そして、目的のものに指が触れた瞬間、私は思わず弾んだ声を上げた。

「あ、やっぱりあった!」

 見つけたのは、美しい緑色をした硝子瓶――西洋から輸入された、高価なオリーブ油である。この国の家庭にはあまり馴染みがないが、伯爵家の厨房にならあるかもしれないと踏んでいたのだ。これを使えば、冬真様の口に合うソースが作れるはずだ。

 今日の献立は魚料理だ。いきなり淡白な白身魚をお出ししても、お肉好きな冬真様には物足りないだろう。しかし、脂の乗った鮭であれば、お母様の故郷である北方の国でも『サーモン』と呼ばれ、日常的に食べられていると本で読んだことがあった。

 私はボウルに卵の黄身を落として泡立て器で丁寧に混ぜながら、そこへ少しずつオリーブ油とお酢を垂らしていく。さらりとした油が卵黄と結びつき、次第にとろりとしたなめらかなソースへと変わる。
 そこへ、和の旨味である椎茸を、キノコだと分からないくらい細かく微塵切りにして混ぜ合わせた。卵黄の動物性のコク、オリーブ油の植物性のまろやかさ、そして椎茸の強い旨味が合わさった、濃厚で程よい酸味のある特製ソースの完成だ。
 それを鮭の上にたっぷりと塗り、仕上げに香草を散らし、サクサクとした食感を出すためにパン粉をかけて紙で包み焼きにした。