そして、迎えた夕食の時間。
食堂の長い食卓の向こう側で、運ばれてきた見慣れない深皿を覗き込んだ冬真様は、露骨に顔をしかめた。
「何だ、これは」
「鶏肉と蕪の乳酪(にゅうらく)煮でございます」
「病人食か」
「まずは一口、召し上がってくださいませ」
私に促され、冬真様は渋々乳酪煮を口に運んだ。
その瞬間、彼の目がわずかに見開かれた。見た目こそ薄味に見えるが、鶏肉の深い出汁と香草の風味がしっかりと効いている。芋の代わりに入れた蕪も柔らかく煮てあるため、フォークで食べようとするとほろほろと崩れ落ちる。バターを使わずとも、牛乳のうまみでこってりとした味わいにしたおかげか、一口、また一口と、冬真様が匙を進める速度が明らかに早くなった。
「……悪くない」
ぽつりと呟いたきり、冬真様は無言で皿に向かい、あっという間に平らげてしまった。
そして、何より驚くべき変化は食後に現れた。
「……胃が、重くない」
冬真様は驚いたように溢した。その夜、冬真様は久しぶりに深夜まで頭を冴え渡らせ、執務に集中できたのだという。
翌朝、使用人からその話をこっそりと聞いた私は、思わず口元を綻ばせた。
「ふふ、よかった」
出会った初日、冬真様は私に「好きにしろ」と冷たく言い放った。それはきっと、愛のない契約結婚なのだから、お互いに干渉せず好き勝手に生きようという意味だったのだろう。
けれど、私は母の教え通り、今の自分にできることを精いっぱいやりたいのだ。
(勝手にしろと仰ったのですから……旦那様の健康管理、遠慮なく『勝手に』させていただきますね)
食堂の長い食卓の向こう側で、運ばれてきた見慣れない深皿を覗き込んだ冬真様は、露骨に顔をしかめた。
「何だ、これは」
「鶏肉と蕪の乳酪(にゅうらく)煮でございます」
「病人食か」
「まずは一口、召し上がってくださいませ」
私に促され、冬真様は渋々乳酪煮を口に運んだ。
その瞬間、彼の目がわずかに見開かれた。見た目こそ薄味に見えるが、鶏肉の深い出汁と香草の風味がしっかりと効いている。芋の代わりに入れた蕪も柔らかく煮てあるため、フォークで食べようとするとほろほろと崩れ落ちる。バターを使わずとも、牛乳のうまみでこってりとした味わいにしたおかげか、一口、また一口と、冬真様が匙を進める速度が明らかに早くなった。
「……悪くない」
ぽつりと呟いたきり、冬真様は無言で皿に向かい、あっという間に平らげてしまった。
そして、何より驚くべき変化は食後に現れた。
「……胃が、重くない」
冬真様は驚いたように溢した。その夜、冬真様は久しぶりに深夜まで頭を冴え渡らせ、執務に集中できたのだという。
翌朝、使用人からその話をこっそりと聞いた私は、思わず口元を綻ばせた。
「ふふ、よかった」
出会った初日、冬真様は私に「好きにしろ」と冷たく言い放った。それはきっと、愛のない契約結婚なのだから、お互いに干渉せず好き勝手に生きようという意味だったのだろう。
けれど、私は母の教え通り、今の自分にできることを精いっぱいやりたいのだ。
(勝手にしろと仰ったのですから……旦那様の健康管理、遠慮なく『勝手に』させていただきますね)
