夏と冬が重なれば。番外編


文化祭が中盤に差し掛かり、校内の賑わいがさらに一段とヒートアップしてきた頃。

 厨房でせっせとパンケーキの注文をこなしていた咲夏のもとへ、メイド服のスカートをパタパタと揺らした知華が、弾むような足取りで駆け寄ってきた。

「咲夏っち!2組のメニューは私が完璧に回しておくから、そろそろ冬弥くんと文化祭デートに回ってきなよ!」 

親友からの、これ以上ないほどに粋な気遣い。

咲夏は驚いてパチクリと目を丸くした。

「えっ!? 本当にいいの、知華……?」

「もちろん!ふたりで甘酸っぱい思い出、たくさん作ってきな!――ただし、うちらの『コスプレ喫茶』の宣伝も兼ねて、ちょっとひと仕事してきてね?♪」 

知華はそう言って、ニシシと悪戯っぽくウインクをして見せる。

「宣伝……?」

「うん!西校舎の端っこにある『空き教室A』に、文化祭用のPR着ぐるみが置いてあるから、それを着て校内をふたりでウロウロ回ってきてほしいんだよねー♪」

「着ぐるみね!宣伝くらい、お安い御用だよっ。教えてくれてありがとう、知華!」 

咲夏は満面の笑顔で頷くと、エプロンを外してお財布とスマホを手に、急いで空き教室Aへと向かった。

咲夏が教室を出ていくのを見届けてから、知華はニヤリと口元を歪め、教卓の近くにいた執事姿の冬弥にも「観月くん、咲夏っちが空き教室Aで待ってるから、デート行ってきな!」

と、最高のパスを出して送り出す。 

2組の喧騒から離れた、西校舎の静かな空き教室A。

 咲夏はがらんとした室内の奥に用意されていた『着替え用BOX』を見つけ、その中に掛けられていた衣装に袖を通した。

「わぁ、可愛い!ピンクのウサギさんだ!」

 それは、もこもことした淡いピンク色のウサギのキャラクターをモチーフにした、

なんともキュートな着ぐるみだった。 

ウサギの耳のカチューシャを机の上に置き、咲夏は自分の着ていた制服のブラウスと、黄金比のチェックのミニスカートを丁寧に畳んで、着替えBOXのハンガーへと掛けた。

「まぁ、冬弥くんと宣伝してすぐ戻ってくるわけだし、お財布とスマホだけウサギのポケットに入れて……制服はここに置いたままでいっか!」 

中身がピュアな陰キャのままの咲夏は、これから訪れる危機なんて微塵も想像せず、のん気にウサギの大きな頭をごぽっと被って、鏡の前で「ぴょんっ♪」とポーズを決めていた。

 その頃。

2組の喫茶室の前では、接客をこなす知華と、特攻服姿でメロンソーダを運ぶ那智が、すれ違いざまに口元を歪めてひそひそと会話を交わしていた。

「作戦成功だよ~、なっち!これでふたりは、ピンクのウサギさんと執事姿で強制的に手を繋いで歩くしかなくなるわけ!」

「ククッ……さすがオタク、策士だな。これで冬弥の奴、人混みのなかで咲夏のこと絶対に抱きしめるだろ。まじで見物じゃん」

 親友ふたりは、大好きなふたりの距離をさらに縮めるための「可愛いイタズラ」が上手くいったことに、にやにやと胸を躍らせていた。

 ――けれど。

 まさかこの着ぐるみの裏側で、自分たちの想像をはるかに超えるような、とんでもない『大事件』が動き出そうとしているなんて。

 ウサギの格好で冬弥の到着をワクワクしながら待っている咲夏は、まだこれっぽっちも、気づいていなかったのだった。