夏と冬が重なれば。番外編


男子たちを笑顔で威圧し終えた冬弥が、新と一緒に足りない材料の買い出しへと教室を出ていってから、しばらくした頃。

 咲夏が知華や那智と一緒に、段ボールで作られた大きな『コスプレ喫茶』の看板にカラフルなペンキで色塗りをしていると、ガラッと引き戸を開けて、ひとりの長身の少年が教室にひょっこりと顔を出した。

「よっ、おバカギャル。相変わらずめでてー顔してんな」

「あ!怜くん!いらっしゃい!」

 咲夏は筆を持ったまま振り返り、パッと顔を輝かせて笑顔を向けた。

 夏休み前までは、どこか一線を引いて「佐藤くん」と名字で呼んでいた。

けれど、周囲の誰もが彼のことを下の名前で呼ぶこともあり、きりよく新学期から「怜くん」へと切り替えることになったのだ。

 その提案をしたとき、怜が顔を気まずそうに真っ赤に染めながら、「あ?……ま、まぁ、冬弥の女だし、特別に下の名前で呼ばせてやってもいいけど?」と、これ以上ないほどの特大の可愛いツンデレ発言を炸裂させたのは、今となっては咲夏の胸の中に大切に仕舞われた、とても愛おしくて懐かしい思い出だ。

 あの中庭での大喧嘩や、夏祭りの夜の涙を経て、怜の咲夏を見る目は以前に比べて、見違えるほどに柔らかく、優しいものへと変わっていた。

「冬弥は?アイツ、今何してんの?」

 怜はポケットに手を突っ込んだまま、ちらりと騒がしい2組の教室内を見渡す。

けれど、お目当ての親友の姿はどこにも見当たらなかった。

「あ、冬弥くんならね、今、新くんと一緒に足りない装飾の買い出しに行ってくれてるの!冬弥くんに何か御用だった?」

 咲夏が小首を傾げて尋ねると、怜はほんの一瞬だけ、咲夏のピンクブラウンの髪型――揺れる毛先へと視線を落とし、それから慌ててバツが悪そうにそっぽを向いた。

「いや、冬弥に用事っていうか……。どちらかと言えば、まぁ、お前にっていうか……。……あー、ま、いーや。今、伝えておくわ」

 怜は頭をぽりぽりと掻きながら、ぶっきらぼうに言葉を続ける。

「うちの3組さ、文化祭の出し物『プラネタリウム』に決まったんだわ。だから……当日の自由時間、冬弥と一緒に見に来いよ。お前らに、一番いい飾り付けしといてやるから」

「ええっ!?そうなのっ!?」

 まさかの、怜からの自発的なお誘いのアシスト。

咲夏は驚きと共に、これ以上ないほどの喜びで胸を弾ませた。

「プラネタリウムなんて凄ーい!怜くんも、暗幕張ったり機械のセッティングとか一緒に作るんでしょ?絶対見に行くね!すっごく楽しみにしてる!」

 咲夏が満面の笑みを弾けさせると、怜は顔に集まりそうになる熱を必死に誤魔化すように、フンと鼻で笑ってみせた。

「あたりめーだろ。俺の技術をバカにすんなよ?暗さも星の綺麗さも、まじで完璧に仕上げてやるから。……じゃ、冬弥にもそう伝えておけよ。お疲れ」

 それだけを言い残し、怜は踵を返して足早に3組の教室へと戻っていった。

 去っていく彼の白い耳元が、ほんのりと赤く染まっているのを、咲夏は見逃さなかった。

「ふふ、怜くんったら。相変わらず素直じゃないんだから♪」

 なんだかんだと言いながら、いつも自分と冬弥のために、最高の思い出作りのキッカケを裏からそっと届けてくれる。

そんな不器用な優しさに、咲夏は照れくさそうにくすくすと笑いながら、去っていく彼の頼もしい背中を温かい目線で見送るのだった。