それから月日が経ち、季節は巡って高校2年の春を迎えていた。
1年の秋、俺と冬弥は最終的にバスケ部へ入部した。
それからの成長は目まぐるしいものだった。
熱心に練習を積み重ねた結果、冬弥は誰もが認めるバスケ部の圧倒的なエースになり、俺もレギュラーとしてコートで活躍するようになっていた。
キュッ、キュッと激しく床を鳴らすシューズの音。
体育館に響き渡るドリブルの重い響き、部員たちの威勢のいい掛け声、顧問の鋭い笛の音。
かつて一人で空き地にいた俺にとって、そのすべてが新鮮で、どうしようもなく心地よかった。
俺の口の悪さは相変わらず健在だったが、冬弥と一緒にいる時は少しずつ表情も柔らかくなり、チームの連中とも徐々に打ち解けつつあった。
そんな、新学期が始まって間もないある日の昼休みのこと――。
いつものように自主練習として、冬弥と二人でシューティングをしていた時のこと。
ふと、冬弥の動きが止まった。
「……?冬弥…?何ぼーっとしてんだよ」
「…え?あぁ、ごめん!怜、」
あいつは何やら、時折パスを回す手を緩めては、体育館の入り口の向こうをじっと眺めるようになったのだ。
あの完璧な冬弥が、珍しくぼーっとしている。
どこか体調でも悪いのかと心配になり、俺はパスを出しながらさりげなくあいつの様子を窺っていた。
そして、冬弥の熱い視線の先をそっと追いかけた、その時。
開け放たれた体育館の扉の向こう側、一人の女子生徒が歩いているのに気が付いた。
ゆるく毛先だけ巻かれたピンクベージュのロングヘア。
制服の裾を短く折ったミニスカートからは、すらりとした白い足がのぞいている。
耳元にはキラリと光るピアス。
誰がどう見ても、この学園ではいかにも『ギャル』という部類に入る、少し派手な女子生徒だった。
「(なんだ、あいつ……)」
俺は特に気に留めることもなく、次のシュート練習に励もうとした。
だが、冬弥はやっぱり、時折ボールから目を離してはそのギャルをじっと見つめている。
真剣なような、だけどどこかそわそわとした、見たこともないような熱を帯びた瞳。
その横顔を盗み見ているうちに、俺はある一つの答えに、ハッと気が付いてしまった。
冬弥は、あの女に。
世間一般でいう、いわゆる――“恋心”を抱いているのだと。
あの、いつだって爽やかで、誰に対しても太陽のような迷いのない笑顔を向ける冬弥に、ついに本物の春の風が舞い降りた。
その事実を突きつけられた俺の胸の奥には、言葉には表せられないような、ひどく複雑な感情が湧き上がりつつあった。
応援したいような、だけどどこか遠くへ行ってしまうような、そんな割り切れないモヤモヤ。
「チッ……あんな軽そうな女の、どこがいーんだよ」
口を突いて出た小さな独り言は、激しいドリブルの音とシューズの摩擦音にかき消され、誰の耳に届くこともなく消えていった。
体育館の入り口の向こう側を、ピンク色の桜の花びらがさらさらと美しく舞い散っていく。
優しく温かい春の風が、体育館の熱い空気をゆっくりと外へとさらっていった。
この冬弥の恋の始まりという大きな気付きが、これからの俺の日常をどれほど変えていくか。
今まで自分の中には存在しなかった『誰かの恋路を見守る』という未知の世界が、これから先、こんなにも予想を遥かに超えて広がっていくなんて――。
コートの真ん中で立ち尽くす今の俺にはまだ、知る由もなかった。
―――佐藤怜編、Fin.



