雲一つない空の下の空き地で、俺と観月は同時にアスファルトを力強く蹴り出した。
ダン、ダン、ダン、と激しい音が響き渡る。
バスケには絶対の自信があった。
中学で周りと馴染めなかったとはいえ、スキルだけで言えば誰にも負けない自負があった。
だが、目の前の観月は想像以上に手強かった。
無駄のない軽やかなドリブル裁き、こちらの隙を鋭く突いてくるステップ。
奪い、奪われの息をもつかせぬ真剣勝負が、狂おしいほどの熱量で続いていく。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
膝に手を突き、肺が焼けるような痛みに耐えながら、俺は視線だけを上方に向けた。
俺のディフェンスのわずかな遅れを見逃さず、観月は高く、驚くほど高く宙へ跳ね上がっていた。
青空を背に受けたそのシルエットから放たれたボールは、綺麗な放物線を描いてゴールのかごへと吸い込まれる。
―――ザシュッ。
ネットが揺れ、オレンジ色のボールがアスファルトの上をごとり、ごとりと静かに弾む音が、誰もいない空き地に寂しく鳴り響いた。
「くそっ……! あともう少しだってのによ……!」
悔しさが一気に込み上げ、地面を強く踏みつける。
あと一歩、指先が届けばブロックできたはずだった。
観月は肩で息をしながら、額の汗をごしごしと腕で拭い、いたずらっぽく笑った。
「危なかったぁ……。やっぱり佐藤くんはすげぇよ。マジで抜けないかと思った」
そう言うなり、観月は緊張の糸が切れたように、そのままアスファルトの上にごろりと仰向けに寝転がった。
「あー、疲れた! 生きてきた中で一番走ったわ」
観月は胸を大きく上下させながら、空を見上げたまま、けれど確信に満ちた声で笑った。
「約束通り、俺の勝ちね。……今日から絶対、佐藤くんの一番の友達だかんな」
ハッキリと言い切るその声に、裏も表も、一切の偽善もなかった。
ただ真っ直ぐに俺を欲してくれた、一人の男の熱い意志だけがあった。
悔しくて、だけどそれ以上に胸の奥が妙に温かくて、俺は小さく息を整えた。
「……もう、好きにしろよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てて、俺も観月から少し離れたアスファルトの上へ、同じように仰向けになって寝転がった。
お互いに大の字になって、雲一つない深い青色の空を眺める。
心地いい風が、汗ばんだ身体を優しく冷やしていく。
あんなに頑なに他人を拒絶して、誰も信じないと決めていた自分のこだわりが、なんだか本当にどうでも良くなっていくのが分かった。
柄にもなく、猛烈に照れくさかった。
「……チッ」
居心地の悪さを誤魔化すように、いつもの癖で小さく舌打ちをする。
すると、隣からすかさず楽しそうな声が返ってきた。
「あははっ! 佐藤くん友達記念、開口一番に舌打ちかよ。超面白い、最高」
観月は声を上げて、子供みたいにケラケラと笑っていた。
俺は、しばらくその観月の笑った顔をじっと見つめていた。
嘘偽りのない、向日葵のように眩しい笑顔。
その瞬間、俺の脳裏に、あの小さかった頃の母親の笑顔がふと蘇った。
あんなに憎んで、呆れて、絶対に理解できないと切り捨てていた母親の面影。
"女の子はみーんな、大好きな人のお姫様なんだから――"
あの最後の言葉が、なぜだか今は、ほんの少しだけ違って聞こえた気がした。
目の前で屈託なく笑うこの男の笑顔を見ていたら。
この先、もっとたくさんの人と関わって、いつか俺にもそんな風に誰かを大切に思える日が来たら――。
もしかしたらこれから先、いつかあの母親を許せる日が来るんじゃないだろうか。
そんな、淡くも確かな予感が、俺の胸の中にそっと静かに舞い降りていた。



