――その日の放課後。
俺は久しぶりに、あの住宅マンションの裏にある空き地へと足を運んだ。
錆びついたフェンスをくぐると、いつものベンチには、あの日と何一つ変わらない笑顔の観月が座っていた。
数ヶ月前までは鬱陶しくてたまらなかったその光景が、今は妙に腑に落ちるというか、不思議なほど心地よく感じられて、自分自身に少し驚いてしまう。
ダン、ダン、シュッ。
何本かシュートを沈め、息を切らしながら制服の袖で汗を拭う。
俺はベンチの男に視線を向けた。
「……おい。お前、今日のあれはねぇだろ」
教室での一件だ。
あんな風に全校生徒の前で元カノの悪事を暴くなんて、やり方が派手すぎる。
観月は開いていた小説から顔を上げ、実にあっけらかんと笑った。
「あはは、だって佐藤くんの一番の友達は俺だろ? 俺の大切な友達が困ってたら、助けるのは普通じゃねーの?」
直球すぎる言葉が、まともに胸に突き刺さる。
思わず耳の裏が熱くなるのを感じて、俺は無性に恥ずかしくなり、むず痒さを誤魔化すように激しくドリブルを刻んだ。
「……友達になんて、なったつもりはねぇよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てて、そのままゴールへと鋭くボールを放つ。
ネットが小気味よく揺れた。
「えぇー! 酷くない!? そこはもう友達でいーじゃん、流れ的に!」
観月がベンチから立ち上がり、大げさに両手を広げて抗議してくる。
俺はそんなあいつから視線を逸らし、ボールを小脇に抱え直した。
「……勝手に決めんなよ。……けど、」
喉の奥に引っかかった言葉を、絞り出すように続ける。
「……借りができたな。それだけは認めてやる」
自分なりの、精一杯の歩み寄りだった。
すると、観月はぱぁっと顔を輝かせ、信じられないものを見るような目で俺を見つめてきた。
「えっ! それって、佐藤くんの国の言葉でいう『ありがとう』って意味!? 感謝の言葉だよね!?」
「ばーか、ちげぇよ!」
図星を突かれて顔が跳ね上がるように熱くなり、俺は目を合わせないまま、もう一度乱暴にシュートを放った。
ボールはリングに嫌われて大きく跳ね返る。
それを空中で鮮やかにキャッチしたのは、いつの間にかコートに足を踏み入れていた観月だった。
ボールを持ったまま、あいつは不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあさ、佐藤くん。バスケで勝負してよ。1on1で」
観月はボールを床に一度突き、俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「もし俺が勝ったら、今度こそちゃんと友達になってよ」
その瞳には、いつものおちゃらけた空気は一切なかった。
どこまでも広がる青空の下、驚くほど真剣で、どこか獲物を狙うような鋭い光を宿した観月の目に、俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
――こいつ、本気かよ。
沈黙が流れる。
俺はあいつの視線を受け止めながら、しばらく考え込んだ。
だけど、ここで逃げるのも俺のプライドが許さなかった。
「……わーった。一回だけだかんな」
そう言って俺が腰を落としてディフェンスの構えをとると、観月は「よしっ!」と嬉しそうに、だけど最高に好戦的な笑みを浮かべて、鋭い第一歩を踏み出してきた。



