夏と冬が重なれば。番外編

 いよいよ始まった文化祭の準備期間。

 2組の教室は、段ボールを運ぶ買い出し班や、ミシンを踏み鳴らす衣装係の熱気で、朝からてんやわんやの大騒ぎになっていた。

 そんな賑やかな喧騒の中、裏方の飲食・スケジュール班に回った咲夏は、当日の提供メニューやタイムスケジュールを広げ、クラスメイトたちと真剣な作戦会議を繰り広げていた。

 中学時代は地味で目立たないように生きてきた咲夏にとって、こうしてクラスの中心でみんなと楽しそうに長い時間意見を交わすなんて、滅多にないことだった。

だからこそ、咲夏は心の底から込み上げる嬉しさに、ずっときらきらとした最高の笑顔を弾けさせていた。

「安達さん、マジで凄い!このメニュー表、めちゃくちゃ見やすいよ!」
「え、スケジュールまでもう全部考えてくれたの?仕事早すぎ!」
「さすが咲夏ちゃん!頼りになりすぎるーっ!」

 見た目は華やかな白ギャル、なのに中身は驚くほどに真面目で責任感の強い咲夏。

その最高のギャップにクラスメイトたちはすっかり魅了され、咲夏への人気度と信頼度は、新学期早々にして早くも右肩上がりに急上昇していた。

「あはは、みんなありがとう!当日、大成功させようねっ♪」 

そんな風に、教室の片隅でひときわ輝きを放っている咲夏の姿を、教卓の近くから「ふわり」と温かい眼差しで見つめている彼がひとり――他でもない、彼氏の冬弥だった。

 愛おしい彼女の成長を誰よりも喜びつつも、冬弥自身はというと、今まさに『コスプレ』のワードに命を燃やす知華の前に立たされ、生贄のように強制的な採寸をされている真っ最中だった。

「はい観月くん、そこ動かない!肩幅測るから胸張って! これぞオタクの魂がこもった執事の衣装になるんだからねっ!」

「う、うん……深瀬さん、メジャーがちょっとキツいんだけど……あはは」

 知華の容赦のないプロの犯行(採寸)を前に、冬弥はすっかりヘトヘトになって苦笑いを浮かべている。

冬弥の周りに並んでいた他の男子生徒たちも、知華の凄まじい熱量に圧倒され、完全に魂を抜かれたように怯えていた。

「おい、深瀬さん、マジでヤバくね……?」

「めちゃくちゃ可愛いんだけど、オタクとしての圧が凄まじすぎて……っ」

「つ、ついていけねー……」

「いやでもさ、すっげーベタベタ触られながらサイズ測られたんだけど。これはこれで、ある意味幸せだわ……」

 知華の勢いに翻弄されながらも、デレデレとだらしなく目元を下げている調子の良い輩もちらほらいる。

 すると、男子たちの視線が、自然と向こうの席でキラキラと笑顔を振りまいている咲夏の方へと移っていった。

「やー、それにしてもさ。マジで安達さんにもコスプレしてほしかったよなー」

「あいつ、今回スケジュール管理の裏方らしいぞ」

「まじで?あの抜群のスタイルで裏方とか、もったいねー!うちらのクラスの特大の損失だろ!」

 咲夏の派手なチェックのミニスカートの足元をチラチラと見ながら、そんな不謹慎で不届きな発言を溢らす男子たち。

 その瞬間、知華の手から解放された冬弥の瞳の奥が、ピキリと一瞬にして冷徹な光を宿した。

「――おーい、みんな?」

 冬弥は男子たちの輪の中にすっと割って入ると、顔には誰もが騙されるような完璧な爽やかスマイルを浮かべた。

けれど、その背後から醸し出されるオーラは、どこまでも黒くて冷ややかだ。

「咲夏は裏方でクラスのためにすげー頑張ってくれてんの。だからさ、そこの不謹慎な男子諸君?いつまでもサボってないで、早くあっちの段ボールの片付け、手伝ってこよっかー?(にっこり)」

 逃げ道を完全に塞ぐような、冬弥のやや腹黒い引きつった笑みと無言の威圧感。

「う、うわっ……!観月の奴、目が笑ってねぇ……っ!」

「す、すみませんっ!すぐ働きますっ!」

 冬弥の隠しきれていない特大の独占欲に恐怖を覚えた男子たちは、クモの子を散らすようにして大慌てで作業へと戻っていった。

「はぁ……。あいつら、まじで咲夏のこと見すぎ……」

 冬弥は男子たちが去ったあと、小さく拗ねたような溜め息をつき、髪をガシガシと掻き毟る。

 自分の知らないところで、どんどん可愛くなって、みんなから愛されていく大好きな彼女。

 コスプレを「見せたくない」と裏方に回したはずなのに、それでも溢れ出てしまう咲夏の魅力に、冬弥の過保護な彼氏としての独占欲の戦いは、文化祭の準備期間中、ずっと終わりそうにないのだった。