夏と冬が重なれば。番外編



それから月日が流れた。

そんな、夏休み前の出来事。
前々から熱心に言い寄られていた、少し見た目の可愛らしい女――飯田かりんと、成り行きで付き合うことになった。

「私はそのままの佐藤くんが好きだよ」

付き合い始めの頃、あいつはそんなことを言っていた。
俺のトゲのある態度も否定せず受け入れる素振りを見せるそいつを、俺は『悪くねぇ、都合のいい女』だと割り切って、適当に遊んでいた。

あいつと過ごす時間が増えたせいで、あれだけ毎日のように観月と鉢合わせていた空き地でのバスケにも、自然と行かなくなっていた。

だが、そんな中途半端な関係が長続きするはずもなかった。

夏休みに入って中盤に差し掛かり、急に彼女の方から別れを切り出してきたのだ。

「佐藤くんって、思ったよりつまんない」
「っていうかさ、そもそも私、好かれてる気が一ミリもしないんだけど!」

ヒステリックに罵声を浴びせてくる女に、俺の心は冷めきっていた。

「おー、勝手にしろよ。お前なんて、最初から好きじゃねぇよ」

売り言葉に買い言葉で吐き捨て、そのまま喧嘩別れになった。

別れたからといって、引きずるような未練はこれっぽっちもない。

むしろ妙にしっくりときていて、俺の心は驚くほどスッキリとしていた。

やっぱり女なんて、自分の都合のいい理想を押し付けてくるだけの生き物なんだと、改めて確信しただけだった。

やがて長い夏休みが明け、新学期が始まった。

いつもと変わらない気だるさを抱えて教室に入ると、奇妙な違和感が肌を刺した。

見れば、教卓の近くで別れた元カノのかりんが、女友達の集団に囲まれて涙ぐんでいる。
あいつは、自分がどれだけ酷い振られ方をしたか、俺がどれだけ冷酷な男かを、これみよがしに周りへ言いふらしていたのだ。

俺はそんなあてつけを気にするわけでもなく、自分の窓際の席に座ったが、周囲からのひそひそ声は嫌でも耳に飛び込んでくる。

「うわ、来たよ……。やっぱ最低だよね、あいつ」

「顔と雰囲気が良くても中身がアレじゃ、マジで最悪じゃん」
「かりん、可哀想……。あんな男、早く別れて正解だよ」

「マジクズじゃん」

クラス中が俺を悪者だと決めつけ、冷ややかな視線で責め立ててくる。

中学の頃から変わらない、この胸糞悪い空気。
勝手に理想の王子様を作り上げ、思い通りにいかなければ一転して被害者面で叩き始める女どもと、それに同調する能天気な外野ども。

溜まりかねた俺は、椅子の脚を派手に鳴らして立ち上がると、教室中に響き渡る声で激しく舌打ちをした。

「チッ……。おい」

鋭い眼光でクラスの連中を睨みつけ、低く、ドスの利いた声で言い放つ。

「陰でこそこそ五月蝿ぇんだよ。言いたい事があんなら、面と向かって堂々と言いに来いよ、カス」

瞬間、教室が凍りついたように静まり返った。

誰もが俺の気迫に怯え、目を逸らしながら、けれど軽蔑と拒絶の混じった冷たい視線を一斉に向けてくる。

クラス全体から完全に、本物の"孤立"という物を露わにした、息の詰まるような空間。

そんな、最悪にピリついた空気の真っ只中。

ガララ、と静寂を破って教室のドアが開いた。

「おはよ!」

と、その場の重苦しい雰囲気を一切無視するような、やたらと爽やかな声が響く。

入ってきたのは、夏休みの間まったく顔を合わせていなかった男――観月冬弥だった。