観月は、小脇に抱えたボールをぽんぽんと軽く叩きながら、俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「ねぇ、一緒にバスケやろーよ。1ゲームさ」
不敵にニヤリと笑うその顔は、昼間の爽やか青年の仮面を脱ぎ捨てた、ただの生意気な同い年の男の顔だった。
だが、俺は一人でいるのが好きだし、これ以上こいつと関わって調子を狂わされるのは真っ平御免だった。
「やらねー。邪魔だから帰れ」
いつも以上に冷たく、突き放すように言い放つ。
だが、観月は特に傷つく様子も見せず、「あはは、そっか」とあっけらかんとした声を上げた。
「んじゃあ帰るわ。また明日っ」
ボールを俺の足元へ転がすと、観月は本当にそのまま、軽い足取りでマンションの入り口へと消えていった。
意外なほどあっさりとした引き際だった。
あいつのあの様子なら、俺がこのまま冷たい態度を崩さなければ、数日もすれば諦めて近づいてこなくなるだろう――。
夕暮れの空き地で、俺はそう思って密かに安堵していた。しかし、その安堵がまったくの無駄骨に終わることを、俺は次の日に思い知らされる。
翌日の放課後。
俺は相変わらず、学校の連中と群れることなく一人で帰路につき、いつものようにあの空き地へと足を運んだ。
今日こそは静かにバスケができるだろう、そう高を括って錆びたフェンスをくぐった。
だが、俺の目に飛び込んできたのは、まさに衝撃の光景だった。
空き地の隅にある古びたベンチ。
そこにあろうことか、観月が制服のまま、文庫本を片手に腹の上に乗せ、仰向けになって寝そべっていた。
俺は足を止め、イライラを通り越して深いため息を漏らした。
「ちっ、……なんで、いんだよ馬鹿野郎……」
思わず口から漏れたつぶやき。
すると、その声に反応したのか、ベンチの上の観月がパチッと目を開けた。
彼はむくりと起き上がると、猫のように大きく背伸びをした。
「あー、佐藤くんやっと来た! 遅せぇじゃん」
そう言って、昨日と何一つ変わらない、濁りのない屈屈のない笑顔を俺に向けてくる。
待たされて退屈していたと言わんばかりの態度に、俺の額に青筋が浮かんだ。
「いや、お前とそもそも約束してねぇだろ」
イライラを隠そうともせず低く威嚇したが、観月は「あはは、それもそーだね」と、楽しそうに笑うだけだった。
のれんに腕押し、暖簾に押し。
こいつには俺のトゲがまったく刺さらない。
これ以上言葉を交わすのも馬鹿馬鹿しくなり、俺は観月を完全に無視することに決めた。
地面に転がっているボールを拾い上げると、いつものように一人でドリブルを開始する。
――ダン、ダン、ダンッ……。
アスファルトにボールが跳ねる音が響く。
すぐ隣のベンチから、観月の真っ直ぐな視線がこちらに注がれているのを肌で感じた。
気味が悪いし、めちゃくちゃやりづらい。
だけど、今はもうどうでもよかった。
俺はただ、あいつの視線をシャットアウトするように、いつもより少し強い力でボールをゴールへと叩き込んだ。



