俺は目を見開いたまま、開口一番にそれしか出なかった。
「………は?」
そもそも、普段は人が寄り付かないこんな住宅マンションの裏の空き地に、なぜこいつがいるのか。
それだけでも驚きなのに、よりによってこのタイミングで鉢合わせるなんて意味が分からなかった。
あまりにも予想外すぎる展開に、頭の情報処理が追いつかない。
「っあ――」
驚いた拍子に、手元が狂って持っていたボールをぽろっと下に落としてしまった。
アスファルトの上を小さく跳ねるオレンジ色の球体。
それを、観月はさらっと素早い動きで拾い上げた。
「へえ、いいボール使ってるね」そう言ったかと思うと、観月は驚くほど滑らかなモーションで、華麗に床へとドリブルを刻み始めた。
さっきまでブレザーを着ていたクラスの優等生とは思えないほど、その身のこなしは軽やかだった。
彼はそのまま一歩、二歩と鋭く踏み込むと、しなやかに空中へ身体を跳ね上げ、綺麗なフォームから放たれたボールは吸い込まれるようにゴールのかごへと収まった。
ネットがシャッと小気味いい音を立てる。
ボールをキャッチした観月は、俺の方を振り返った。
「いやー、まさか佐藤くんがバスケ好きなんてさ。これ、マジで運命だわ!!」
そう言って、彼は陰りのない太陽のような眩しい笑顔を浮かべた。
呆気にとられていた俺は、完全に開いた口が塞がらなかった。
さっきの滑らかなプレイもそうだが、昼間にあれだけ「関わるな」と突き放した相手に対して、よくもまあそんな100点満点の笑顔を向けられるものだ。
「……いや、なんでお前がここにいんだよ。マジでうぜぇ」
ようやく動いた口から出たのは、思いきり眉間に皺を寄せた、トゲだらけの拒絶だった。
だが、観月は傷つく様子すら見せず、むしろ楽しそうに声を立てて笑った。
「ははっ、相変わらずきっついねー、佐藤くん。それ、口癖なの?」
観月はボールを小脇に抱え直すと、後ろにある大きな建物を親指で指し示した。
「なんでここにいるかって? 強いて言うなら〜……あのマンション、俺んちだから」
悪戯が成功した子供みたいに、彼は二カッと白い歯を見せて笑った。
(……は?)
俺は思わず、後ろの建物を仰ぎ見た。
よりにもよって、俺が誰の目も気にしなくていい最高の聖域だと思っていたこのマンションの住人が、クラスで一番調狂うこの男だったなんて。
まるで頭を鈍器で思い切り殴られたような、凄まじい衝撃が走った。
世界が狭すぎるだろ、と天を仰ぎたくなる。
俺の隠れ家は、出会った初日にして、あっけなくこの「偽善者」に占領されてしまったのだった。



