屋上にたどり着いた俺は、錆びついたフェンスの近くにある古びたベンチに、どかと腰を下ろした。
見上げる空は、春の広がる雲一つない、抜けるような青空だった。
あまりに澄み切ったその青を見つめていると、別れ際に最後まで俺を心配していた、あの観月の顔がふと脳裏をよぎる。
だけど、今の俺には正直どうでもいいことだった。
偽善者の相手をするほど、俺の心には余裕がない。
そのまま何も考えずにぼーっと過ごした。
ふわふわと頬を撫でていく気持ちのいい風を浴びているうちに、チャイムの音が遠くで鳴り響いたが、教室に戻る気なんてさらさら起きなかった。
そのまま、その日の授業はすべてサボった。
―――放課後。
学校の喧騒から離れた俺は、とある場所へと足を運んでいた。
自宅からも少し離れた、静かな住宅マンションの裏手にある、小さな広場。
普段は誰も寄り付かないその狭い空き地は、誰の目も気にする必要がない、俺にとって絶好の気の休まる隠れスポットだった。
小さい頃から、俺にはバスケだけが唯一の取り柄だった。
ボールに触れて、ただゴールを狙っている時間だけは、嫌なこともすべて忘れられた。
何時間だって、ただ無心で夢中になれる、俺の唯一の居場所。空き地の隅に転がしていた、使い古されたバスケットボールを片手で拾い上げる。
慣れた手つきで低く、身軽にドリブルを刻み、鋭く踏み込んでジャンパーを放つ。
綺麗な弧を描いたボールが、ゴールのかごに吸い込まれた。バン、バン、とアスファルトの上を不規則に跳ねるボールを静かに見つめながら、俺は自嘲気味につぶやいた。
「……らしくねーな、俺」
こんなところで一人、何にイラついているんだか。
自分の拗れた性格がたたったせいで、中学の頃は部活に入っても周りの連中と馴染めず、独りよがりのスタンドプレーばかりだった。
チーム競技なのに一人で突っ走る俺を、周りは冷たい目で見ていたし、そんな環境が続くはずもなくて結局すぐに辞めた。
そんな中学時代の暗い青春の記憶がふと頭をよぎり、胸の奥が少しだけチクリと痛む。
振り払うように、俺は再びボールを掴んで一人でシュートを打ち続けた。
誰もいない空間で、ただゴールとだけ向き合う。
「はぁ、はぁ……っ」
どれくらい時間が経っただろうか。
すっかり息が切れ、肩が大きく上下する。
首筋に流れる額の汗を、制服の袖で手荒に拭った。
その時だった。
「すげぇ……! 佐藤くん、マジでバスケ上手いんだね!」
静まり返った空き地に、場違いなほど明るく弾んだ声が響き渡った。
驚いて声のした方へ勢いよく視線を向けると、そこには、あろうことか昼間に教室で拒絶したはずの男、
――観月冬弥が、カバンを両手で抱えながら、目をキラキラと輝かせて立っていた。



