周りの空気が一瞬にして凍りつくのが分かった。
朝の騒がしかった教室が、俺とコイツの間に流れる不穏な空気のせいで、しんと静まり返る。
他の生徒たちが、こちらを遠巻きに眺めながら、まるで腫れ物に触るかのような目つきでひそひそと囁き合い始めた。
「……おい、冬弥の奴、また佐藤に話しかけてるぞ」
「よくあんな怖い奴にいけるよなー。何考えてんだろ」
「本当、ほっとけばいーのに。関わってもろくなことないって」
「観月くん、優しすぎなんだよ。お人好しにも程があるって……」
飛び交う無責任な陰口。
あいつらは俺を極悪人か何かのように恐れ、一方で観月を「可哀想な被害者」として祭り上げている。
その哀れむような、あるいは軽蔑するような視線が俺の皮膚をチクチクと刺した。
(チッ……胸糞悪いな、本当に)
心の中で激しく舌打ちをする。
俺は、目の前でいまだに心配そうな顔をして立ち尽くしている、この男子生徒をチラリと盗み見た。
あぁ、そうか。思い出した。こいつは確か、クラスでそれとなく周りから慕われている、観月冬弥って奴だ。
成績優秀で、誰にでも分け隔てなく接する、クラスの中心人物。
だけど、俺の歪んだ目には、そんな男の姿はこれっぽっちも美しく映らなかった。
どうせこいつも、周りから「優しい良い人」だと思われたいだけの、偽善者かなんかなんだろう。
俺みたいな一匹狼に声をかけて、自分の好感度を上げようとしているだけだ。
女も男も、どいつもこいつも表の顔だけは綺麗に飾り立てやがる。
そう結論づけた俺は、椅子の脚をごとりと鳴らして静かに立ち上がった。
平均より少し高い自分の身長を活かして、観月を上から見下ろす。
思い切り不機嫌さを剥き出しにした声で、そいつに言い放った。
「……俺に関わんじゃねーよ」
低く冷たい拒絶の言葉。
観月は、予想外の言葉をぶつけられたように、大きな瞳をわずかに見開いた。
俺はそいつの横を乱暴にすり抜け、教室の後ろのドアへと向かう。
「あ、佐藤くんっ!」
背後から、俺を引き止めようとする観月の焦ったような声が聞こえた。
だけど、俺は一度も振り向かなかった。
呼び止める声を完全に無視して廊下へ出ると、そのまま階段を駆け上がり、人目のない屋上へと向かった。
冷たい風が吹き抜ける屋上で、フェンスに背中を預けて空を仰ぐ。
頭に血が上って、余計にイライラが募る。あいつの、あの騙されそうなほど綺麗な笑顔が、どうしても脳裏から離れなかった。



