※ここからは、"佐藤 怜"視点の番外編になります✩※
中学の頃から、自分がだいぶ尖った奴だという自覚はあった。
別に、自分を特別な存在だと思って気取っていたわけじゃない。
単に思ったことをそのまま口にするから、口が悪い自覚もあったし、そのせいでなんとなく周りの連中から良くない意味で距離を取られていることも分かっていた。
腫れ物に触るような、あるいは厄介者を見るような、あの独特の距離感。
"上等だ、こっちだって群れるつもりはねぇよ"
――そう思って一人でスマホをいじっているのが、俺にとっては一番気楽だった。
だが、世の中の女子という生き物は、どうにも俺の理解の範疇を超えているらしい。
「佐藤くんって、あのキツイ感じがまた良いよね……」
「わかる! クールっていうか、あの毒舌が最高に刺さる!」
廊下やすれ違いざまに聞こえてくる、あいつらのひそひそ話。
耳に入るたびに、俺は内心で盛大に顔を顰めていた。
キツイのが良い? 毒舌最高? 意味が分からねぇ。
こっちはただ、お前らのくだらないお喋りに付き合うのが面倒だから突き放しているだけだ。
それなのにあいつらは、勝手に脳内で都合のいい解釈を付け加え、本の中の王子様か何かを作り上げて盛り上がっている。
本当に、女という生き物の考えていることは一ミリも理解できなかった。
――いや、理解したくないだけなのかもしれない。
俺が女という存在に対して、無意識に一線を引いて冷めた目を向けてしまうのには、明確な理由があった。
母親は、俺がまだ物心ついて間もない幼少期の頃に、オヤジを置いて家を出ていった。
引き止めようとするオヤジを冷たくあしらい、荷物をまとめて出ていく背中を今でも薄っすらと覚えている。
離婚の理由は詳しくは知らされていないが、子供ながらに察した。
たぶん、別の男がいたんだろう。
家庭を壊してまで他の男の元へ走るような、そんな無責任な人だった。
だけど、皮肉なことに、俺の記憶の中にある母親はいつも綺麗だった。
屈託のない笑顔がよく似合い、夏になれば大好きな向日葵に囲まれて、本当に幸せそうに笑う人だった。
そんな綺麗な人が、最後の日、家を出ていく直前に俺の目線までしゃがみ込んで、こう言ったのだ。
「れーくん。女の子には、優しくしなきゃだめよ?」
細くて白い指先が、俺の頬を優しく撫でる。
その手からは、いつも通りの甘い香水の匂いがしていた。
「女の子はみーんな、大好きな人のお姫様なんだから。……じゃあね、元気でね」
それが、母親が俺に残した最後の言葉だった。
幼い頃の俺は、その言葉の意味が全くこれっぽっちも分からなかった。
女の子はお姫様?
だったら、あんたを毎日お姫様みたいに扱って、必死に働いていたオヤジを裏切って出ていくあんたは一体何なんだよ。
玄関の扉が閉まる音が、静かな家に響いた。
泣き叫んで追いかけるオヤジの姿を、わずか当日5歳だった俺は一歩も動かずに、ただ冷めた目で眺めていた。
母親を追いかけるわけでもなく、泣くわけでもなく、ただ終始、呆れていた。
綺麗な笑顔の裏で、あっさりと家族を捨てる。
女なんて、そんな自分勝手な生き物なんだと、子供ながらに思い知らされた瞬間だった。
だからこそ、学園で「佐藤くん、クールで素敵!」なんて騒いでいる女子たちを見ても、冷ややかな感情しか湧いてこないのだ。
どうせお前らも、自分の理想を押し付けているだけで、中身なんて見てやしないだろ、と。
そんな風に、誰も彼もを見下して、勝手に作った檻の中に閉じこもっていた中学時代の俺。
この歪んだ斜に構えた視界が、高校で出会う「観月冬弥」という、俺以上に面倒くさくて不器用な男によってぶち壊されることになるなんて――当時の俺は、夢にも思わなかった。
中学の頃から、自分がだいぶ尖った奴だという自覚はあった。
別に、自分を特別な存在だと思って気取っていたわけじゃない。
単に思ったことをそのまま口にするから、口が悪い自覚もあったし、そのせいでなんとなく周りの連中から良くない意味で距離を取られていることも分かっていた。
腫れ物に触るような、あるいは厄介者を見るような、あの独特の距離感。
"上等だ、こっちだって群れるつもりはねぇよ"
――そう思って一人でスマホをいじっているのが、俺にとっては一番気楽だった。
だが、世の中の女子という生き物は、どうにも俺の理解の範疇を超えているらしい。
「佐藤くんって、あのキツイ感じがまた良いよね……」
「わかる! クールっていうか、あの毒舌が最高に刺さる!」
廊下やすれ違いざまに聞こえてくる、あいつらのひそひそ話。
耳に入るたびに、俺は内心で盛大に顔を顰めていた。
キツイのが良い? 毒舌最高? 意味が分からねぇ。
こっちはただ、お前らのくだらないお喋りに付き合うのが面倒だから突き放しているだけだ。
それなのにあいつらは、勝手に脳内で都合のいい解釈を付け加え、本の中の王子様か何かを作り上げて盛り上がっている。
本当に、女という生き物の考えていることは一ミリも理解できなかった。
――いや、理解したくないだけなのかもしれない。
俺が女という存在に対して、無意識に一線を引いて冷めた目を向けてしまうのには、明確な理由があった。
母親は、俺がまだ物心ついて間もない幼少期の頃に、オヤジを置いて家を出ていった。
引き止めようとするオヤジを冷たくあしらい、荷物をまとめて出ていく背中を今でも薄っすらと覚えている。
離婚の理由は詳しくは知らされていないが、子供ながらに察した。
たぶん、別の男がいたんだろう。
家庭を壊してまで他の男の元へ走るような、そんな無責任な人だった。
だけど、皮肉なことに、俺の記憶の中にある母親はいつも綺麗だった。
屈託のない笑顔がよく似合い、夏になれば大好きな向日葵に囲まれて、本当に幸せそうに笑う人だった。
そんな綺麗な人が、最後の日、家を出ていく直前に俺の目線までしゃがみ込んで、こう言ったのだ。
「れーくん。女の子には、優しくしなきゃだめよ?」
細くて白い指先が、俺の頬を優しく撫でる。
その手からは、いつも通りの甘い香水の匂いがしていた。
「女の子はみーんな、大好きな人のお姫様なんだから。……じゃあね、元気でね」
それが、母親が俺に残した最後の言葉だった。
幼い頃の俺は、その言葉の意味が全くこれっぽっちも分からなかった。
女の子はお姫様?
だったら、あんたを毎日お姫様みたいに扱って、必死に働いていたオヤジを裏切って出ていくあんたは一体何なんだよ。
玄関の扉が閉まる音が、静かな家に響いた。
泣き叫んで追いかけるオヤジの姿を、わずか当日5歳だった俺は一歩も動かずに、ただ冷めた目で眺めていた。
母親を追いかけるわけでもなく、泣くわけでもなく、ただ終始、呆れていた。
綺麗な笑顔の裏で、あっさりと家族を捨てる。
女なんて、そんな自分勝手な生き物なんだと、子供ながらに思い知らされた瞬間だった。
だからこそ、学園で「佐藤くん、クールで素敵!」なんて騒いでいる女子たちを見ても、冷ややかな感情しか湧いてこないのだ。
どうせお前らも、自分の理想を押し付けているだけで、中身なんて見てやしないだろ、と。
そんな風に、誰も彼もを見下して、勝手に作った檻の中に閉じこもっていた中学時代の俺。
この歪んだ斜に構えた視界が、高校で出会う「観月冬弥」という、俺以上に面倒くさくて不器用な男によってぶち壊されることになるなんて――当時の俺は、夢にも思わなかった。



