白熱した議論と、やんややんやのじゃんけんや多数決の末、なんやかんやで盛り上がりを見せた2組のアンケート大会は、最終的に『コスプレ喫茶』という一大イベントに決定した。
黒板に大きく書かれたその文字を見つめながら、咲夏は手にしたシャーペンを握りしめ、内心で激しい脳内会議を繰り広げていた。
(えええ~、コスプレ喫茶ぁ!? 私、そういうの着るの恥ずかしくて本当に苦手だし……よし、私は絶対に裏方の調理係か何かに回ろう……。――でも、でもっ!!冬弥くんのコスプレ姿だけは、何が何でも絶対に拝みたい!! 執事でも何でもいいから、世界一かっこいい姿をこの両目に一生分焼き付けておきたい!!)
中身がピュアな陰キャのままだからこその変な熱意が、咲夏の胸の奥でメラメラと音を立てて燃え盛っていく。
しかし、そんな咲夏の熱烈な視線を教卓の前で浴びている冬弥もまた、チョークを持ったまま、全く別の方向でそわそわと激しく葛藤していた。
(マジかよ……コスプレ喫茶か。……頼むから咲夏のやつ、これ以上可愛くならないでくれよ。あいつが可愛いコスプレなんて着たら、クラスの男子全員ノックアウトされちゃうじゃん。まじで、あんな可愛い姿をクラスの奴らには一秒たりとも見せたくねぇー……っ!)
付き合ってさらに深くなった、冬弥の無自覚で過保護な独占欲。
お互いにそんな不純(?)な思惑を抱えていることなんて露知らず、教室内では文化祭委員を中心に、各班の役割分担の振り分けが始まった。
衣装作成係、接客係、買い出しの裏方係――。
「やったぁぁあ!!待ってましたぁ~!!私は絶対にメイド服着たい!これぞオタクの極みだよっ♪コスプレ衣装の知識なら私に任せて!!♡」
役割が決まるやいなや、知華はいつも以上のハイテンションでピョンピョンと跳ね、鼻息を荒くして張り切っている。
「私はあれだな。やっぱ、紫の特攻服に『天上天下唯我独尊』って刺繍が入ったスケバンでビシッと決めるしかねーだろ」
「那智!?それ、脱・元ヤンから一歩も離れられてないからね!?」
那智が苺のスーパーチャップスを転がしながらクールに言い放ち、咲夏は思わず盛大なツッコミを入れた。
親友ふたりの相変わらずブレない勢いに、咲夏は少しだけ顔を引きつらせつつも、自分の目標(冬弥のコスプレを拝みつつ、自分は隠れる作戦)を遂行するべく、バッと衣装係の担当者に向かって笑顔を向けた。
「私はみんなの衣装作りとか、買い出しを支える仕事がしたいから、裏方係にまわるね♡」
完璧な一軍ギャルのウインクをパチンと弾けさせ、咲夏は見事に希望通りの『裏方・衣装作成班』のポジションを勝ち取ってみせるのだった。
けれど、そんな咲夏の思惑を、教卓の前からじっと見つめていた冬弥の視線が見逃すはずはなかった。
秋風が吹き抜ける教室のなか、コスプレ喫茶という甘くて賑やかな大舞台へ向けて、ふたりの恋人たちの、ちょっと不純で最高に甘酸っぱい秘密の作戦会議が、いま静かに始まろうとしていた。



