シュールすぎる執事とピンクウサギの星空デートを終えた咲夏と冬弥のふたりは、知華との約束を守るため、2組の『コスプレ喫茶』の大きな宣伝看板を仲良くふたりで持ちながら、賑やかな校内を回り始めた。
もこもこのウサギ姿で歩く咲夏の周りには、他クラスの生徒たちが「ウサギさん可愛い!」と集まってきて宣伝効果は抜群だ。
廊下に並ぶ屋台でアツアツのたこ焼きを食べたり、冷たいかき氷を分け合ったり、ガラポン抽選会に一喜一憂したりと、お祭りの熱気を全身で満喫していった。
そんなふたりが次に向かったのは、大歓声が響く体育館だった。
ステージの上では、どこかのクラスによる演劇『近未来版ロミオとジュリエット』が上演されている真っ最中だ。
「ふふ、面白ーい!ジュリエットとロミオが、引き裂かれた宇宙船の部屋同士でテレビ電話して泣いてる~」
ウサギのカチューシャを小脇に抱え、咲夏はステージ上の斬新すぎる演出に目を輝かせてクスクスと楽しそうに笑っていた。
すると、そんな咲夏の無邪気な横顔をどこまでも愛おしそうな、慈しむような眼差しで見つめていた冬弥が、隣でそっと手を伸ばしてきた。
――ギュッ。 白手袋に包まれた冬弥の大きな、熱い手のひらが、咲夏のもこもことしたウサギの手の隙間を縫うようにして、ゆっくりと、けれど拒む隙を与えない強さで指を絡めていく。
完璧な『恋人繋ぎ』だった。
「っ……、と、冬弥くん……っ!?」
他クラスの生徒たちが大勢ひしめき合う、薄暗い体育館の中。
あまりのハプニングと至近距離の熱量に、咲夏は一瞬にして顔を真っ赤に染め上げ、驚いて彼を見上げた。
すると冬弥は、咲夏の真っ直ぐな瞳を覗き込みながら、ふっと悪戯っぽく唇の端を吊り上げる。
「しーっ……」
あの日、体育館裏でも見せてくれた、唇の前に人差し指をスッと立てる最高の胸キュンポーズ。
暗がりに照らされた冬弥の端正な横顔があまりにも格好良すぎて、咲夏はバカみたいに高鳴る心臓のビートをもう抑えることができなかった。
手を力強く握ってくる冬弥の熱い想いに応えるように、咲夏もまた、その大きな手をぎゅっと強く握り返すのだった。
やがて、盛大な拍手と共に劇が終わりを迎える頃には、窓の外には切ないほどのオレンジ色の夕方が近づいていた。
体育館を出て、涼しい秋風に吹かれながら、冬弥が咲夏の手を握ったまま、少しだけ声を弾ませて微笑む。
「ねぇ、咲夏。もうすぐグラウンドで文化祭のフィナーレ、後夜祭が始まるんだ。だからさ、一旦この着ぐるみを脱いで私服に着替えて、また一緒にふたりで見ようよ」
「うん、そうだね!後夜祭、すっごく楽しみ!じゃあ私、大急ぎで着替えてくるから、冬弥くんは昇降口のところで待ってて!」
「おっけー、じゃあ後でね、咲夏」
冬弥は優しく手を離すと、二カッと太陽のような笑顔を咲夏へと向けた。
咲夏は「待っててねー!」と元気に手を振ると、チェックのミニスカートに着替えるため、ピンクのウサギの足元をカサカサと鳴らしながら、ふたりが最初に衣装を着替えたあの西校舎の『空き教室A』へと向かって、嬉しそうに廊下を駆けていった。
大好きな彼と過ごす、最高の文化祭の思い出。
けれど、夕闇が静かに校舎を飲み込んでいく中、咲夏が向かう空き教室Aの重い引き戸の向こう側で――知華や那智の作戦にひっかかる一大イベントがあることをまだ咲夏は知らなかった。



