夏と冬が重なれば。番外編


真夏の夜の花火の下、一生忘れられない本気の告白を経て、咲夏と冬弥が恋人同士になってから、早いもので数ヶ月の月日が流れていた。

  夏休みが明けて新学期が始まったばかりの頃は、登校中のふたりの親密な様子から「え、ふたりって付き合ってるの!?」と一瞬でクラス中に交際がバレ、凄まじい注目と冷やかしを浴びたものだ。

けれど、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、今では周囲の騒ぎもすっかり落ち着きを取り戻していた。

 そして、朝晩の風に秋の気配が混じるようになった今日この頃。

2組の教室では、学校生活の一大イベントである『文化祭』の出し物決めが始まっていた。

「おーい、みんな席ついてー。文化祭の出し物決めるぞ。それぞれ何が良いか、アンケート取るから意見あるやつ手を挙げて」

 教卓の前に立ち、チョークを片手に黒板を背負う冬弥が、いつもの眩しい太陽のような笑顔でクラスを仕切っている。

 そんな彼の凛々しくて格好いい姿を、窓際の席からじーーーっと、そわそわしながら熱い視線で見つめ続けている彼女がひとり。

「ちょっとちょっと、咲夏ちーん?見・す・ぎ、だってば〜」

 隣の席から身を乗り出してきた知華が、ニシシと悪戯っぽく笑いながら咲夏の脇腹をツンツンと指で突っついてちょっかいをかけてきた。

「え?あ、あはは……。つい、ね? ♡」

 白ギャルの仮面の下にある、ピュアな陰キャの咲夏は、すっかり『冬弥くんラブ』を隠せなくなっており、顔を真っ赤に染め上げながらふにゃりと可愛らしくハニかんでみせる。

そんな咲夏の完全にノックアウトされている様子を見て、那智がスーパーチャップスを煙草のようにクールにくわえ直しながら、ニヤリとからかうような笑みを浮かべた。

「こりゃあ、重症だな。夏休みの前よりさらに拍車がかかってんじゃん」

「もー、那智まで弄らないでよぅ……っ」

 親友ふたりににやにやと問い詰められ、咲夏が机の上で小さくなっていた、その時だった。

 教卓の前にいた冬弥が、ふと咲夏のいる窓際の方へと視線を走らせた。

 バチッ、と交差する、ふたりだけの秘密のアイコンタクト。

 咲夏の熱烈な視線に気づいていた冬弥は、クラスの連中にバレないように一瞬だけ視線を泳がせると、その耳元をじわじわほんのり赤く染め上げた。

そして、照れ隠しのように首の後ろを少し強めにガシガシと掻いて、誤魔化すようにさらりと黒板の方へと向き直る。

(……っ、冬弥くん、いま絶対に照れてたよね!?あーもう、可愛いすぎ!!付き合ってからもいちいち格好良くてずるいよぉ……っ!)

 咲夏の心臓はトクン、トクンと、真夏の夜の花火のときと同じように熱く弾けそうになる。

 そんなふたりの甘酸っぱい空気なんて露知らず、教室内では出し物のアイデアを巡って、男子も女子も大盛り上がりの大騒ぎが始まっていた。

「やっぱ文化祭といえばメイド喫茶だろ!!女子のメイド服一択!!」

「はぁ!?うちらのクラスは真面目に劇がいーの!ロミオとジュリエット!」

「いやいや、スリル求めてお化け屋敷っしょ!!」

「ちょっとロマンチックに、教室を真っ暗にしてプラネタリウムなんかどー?」

「ゲーセンでよくね?格ゲーの筐体持ち込もうぜ!」

「アホか、その機械どこからどうやって調達すんだよ!」

「ユーチューバーやろーぜ!」

「もうそれ文化祭関係なくね?!」

 クラスメイトたちがやんややんやと机を叩いて意見を飛び交わせるなか、冬弥は「おーい、お前ら一気に喋んなってー」と苦笑いしながら黒板に文字を書き込んでいく。

 クラス公認の恋人になって迎える、初めての秋の文化祭。
 これから始まる新しい季節に、咲夏の胸は、お揃いの桃サイダーの泡のように、きらきらとした期待で溶けていく炭酸のように満ちあふれていくのだった。